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灰色の楽園  作者: ぼろぼろの世界
灰色の空編
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8/40

終焉への下準備

 翌朝――


 世界は、雷神が大地を殴りつけたような轟音で目を覚ました。


 夢と現実の境界が、その一撃で粉々に砕け散る。


「……っ!」


 身体が勝手に跳ね起きる。


 胸が鐘のように激しく鳴り、耳の奥ではまだ爆音が木霊していた。


「何だ……?」


 寝ぼけた頭では理解が追いつかない。


 父が料理で鍋でも爆発させたのだろうか。


 そんな馬鹿げた考えが一瞬だけ脳裏をよぎる。


 僕は枕元の時計へ視線を向けた。


 **七時七分。**


 父なら、とっくに会社へ向かっている時間だった。


 家の中は、不気味なほど静まり返っている。


 静寂は、嵐の目のように息を潜めていた。


 嫌な予感が胸の奥でゆっくりと根を張り始める。


 僕は靴もろくに履かず、玄関の扉を勢いよく開け放った。


 その瞬間だった。


 世界が、燃えていた。


 青空を泳いでいたはずの雲は、黒煙という名の墓標に塗り潰されている。


 空を裂く無数の飛翔体は、渡り鳥ではない。


 死を運ぶ鋼鉄の群れだった。


 轟音を響かせながら、大地へ牙を突き立てていく。


 爆炎が咲く。


 それは花ではない。


 人々の命を養分に咲く、真紅の徒花だった。


「……爆弾?」


 信じられなかった。


 昨日まで笑い声で満ちていた街が、一夜にして地獄へ塗り替えられている。


 熱風が肌を焼く。


 砂埃が雪のように舞い上がり、視界を白く閉ざした。


 僕は反射的に目を閉じ、腕で顔を覆う。


 耳には悲鳴が突き刺さる。


 建物が崩れる音。


 誰かを呼ぶ声。


 泣き叫ぶ子どもの声。


 それら全てが濁流となり、僕の鼓膜を殴り続ける。


「誰が……こんなことを。」


 震える声は、自分でも驚くほど小さかった。


 その問いに答える者はいない。


 けれど。


 胸の奥で、何かが静かに囁いた。


 ――これは偶然じゃない。


 ――誰かの意思だ。


 風が止む。


 砂煙がゆっくりと幕を下ろす。


 僕は恐る恐る目を開いた。


 そこに広がっていたのは、見慣れた街ではなかった。


 赤黒い海だった。


 石畳は血を吸い、家々は骨だけになった獣のように崩れ落ちている。


 昨日まで笑っていた人々は、人形のように動かなかった。


 誰も…


 誰一人として。


「……あぁ。」


 喉が締めつけられる。


 声にならない。


 世界そのものが息絶えたようだった。


 その時だった。


 背中を、灼けた鉄杭で貫かれたような激痛が走る。


「がっ……!」


 呼吸が止まる。


 視界が白く弾け、膝から崩れ落ちた。


 身体の感覚が遠のいていく。


 耳鳴りだけが、やけに鮮明だった。


 最後に見えた空は、煙に呑まれた灰色の空。


 まるで世界そのものが、静かに泣いているようだった。


 そして僕の意識は、深い闇の底へ沈んでいった。


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