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灰色の楽園  作者: ぼろぼろの世界
平和と破壊の狭間編
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国王 ロザート

 魔物が討伐された後も、商店街には静寂が残っていた。


 胸の奥にある重たい感覚は消えなかった。


 周囲を見渡す。


 壊れた建物。


 崩れた道。


 そして、もう動くことのない人々。


 勝利という言葉が、あまりにも遠く感じた。


「……終わったのか。」


 誰かが呟く。


 返事をする者はいなかった。


 生き残った学生は、僕とエーギルだけだった。


 あれだけいた仲間が。


 昨日まで一緒に笑っていた仲間が。


 たった一度の戦いで、皆死んだ。


 僕は握っていた剣を見る。


 血で汚れた刃。


 それは自分が生き残った証だった。


 同時に、誰かが死んだ証でもあった。


「アテーナ。」


 エーギルが静かに声をかけてくる。


「大丈夫か?」


「……分からない。」


 本当に分からなかった。


 生き残ったことが嬉しいのか。


 仲間が死んで悲しいのか。


 皆の方に行けなくて悔しいのか。


 全部が混ざって、何も考えられなかった。


 その時だった。


「道を開けろ。」


 低く響く声が聞こえた。

 

 その場に現れたのは、一人の女だった。


 白い衣装。


 整った顔立ち。


 周囲を圧倒するような魔力。


 ロザート王国国王―


 ロザート王だった。


 僕は初めて、国王を間近で見た。


 平和を作った英雄。


 三国の共存を実現した偉大な王。


 そう教えられてきた人物。


 けれど。


 なぜだろう。


 彼女を見た瞬間、背筋が冷たくなった。


 国王は倒れた魔物の前へ歩いていく。


 そして、しばらく観察するように見つめた。


「……実験は……。」


 小さな声だった。


 雨音に紛れて、ほとんど聞こえない。


 けれど、その言葉だけは妙に耳に残った。


「今、何か言った?」


 僕が呟く。


 エーギルも同じように国王を見ていた。


 彼の表情も険しい。


 国王は僕たちを見ることもなく、魔物へ手をかざした。


 次の瞬間。


 魔物の身体が光に包まれる。


 そして、跡形もなく消えた。


 周囲がざわつく。


 魔物の回収―


 それは国王だけに許された権限だった。


 だから誰も疑問を口にしない。


 でも、それでも…


 何かがおかしい。


 あの時の国王の目。


 悲しみでも、怒りでもない。


 まるで研究結果を見るような目だった。


「帰るぞ。」


 エーギルが小さく言った。


 僕は頷く。


 その場を離れようとした時だった。


「あの……。」


 後ろから小さな声が聞こえた。


 振り返る。


 そこにいたのは、一人の少女だった。


 年齢は僕たちより少し下くらい。


 小麦色の長い髪。


 不安そうな瞳。


 少女は倒れた人々へ静かに目を向けていた。


 そして、小さく手を合わせる。


「……どうか、安らかに。」


 その姿を見て、なぜか胸に引っかかった。


 彼女もまた、国王と同じ方向へ歩いていく。


 その後ろ姿を見送りながら、僕は思った。


 どこかで見たことがある。


 でも、その時の僕には分からなかった。


 その少女が、後に僕たちと共に戦うことになる存在だということを。


     ◇


 卒業演習が終わった後、僕は騎士団への推薦を辞退した。


 周囲は不思議そうな顔をしたが無理もないだろう。


 あれだけ騎士になるために努力していたのだから。


 でも、もう決めていた。


 僕には騎士になる資格がない。


 いや、


 正確には騎士という力を持つことが怖くなった。


 力があれば誰かを守れる。


 そう信じていた。


 だけど、現実は違った。


 力があっても救えない人がいる。


 自己犠牲の精神で戦わなければならないこと。


 そして、


 力を持つ者が、必ず正しいとは限らないことを―


 僕は剣を置いた。


 それが、二年前の出来事。


 魔物は、数十年に一度出るか出ないかのレベルで

 強い、はぐれ魔物だったらしい。


 その魔物の死骸の近くには、僕が渡した銀色の

 ピアスが落ちていたのを後日聞いた。


 あれ以来、僕は母に会えていない。


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