僕が騎士をやめた理由2
商店街へ向かう道中、大きな問題は何一つ起こらなかった。
雨もいつの間にか弱まり、厚い雲の隙間からわずかに陽の光が差し込んでいる。
巡回をしながら住民へ挨拶を交わす。
ああ、やっぱり考えすぎだったんだ。
胸の奥にあった不安は少しずつ薄れていった。
その時だった。
一人の騎士が慌ただしく馬を駆けてくる。
「商店街で魔物が出現した!」
場の空気が凍りつく。
「付近の騎士が応戦中! 至急、応援を要請する!」
同行していた騎士団長が表情を引き締めた。
「全員、現場へ向かう!」
僕たちは返事をする暇もなく駆け出した。
息を切らしながら石畳を走る。
商店街が近づくにつれ、焦げ臭い匂いが鼻を刺した。
「……なんだ、この臭い。」
誰かがつぶやく。
嫌な予感が、再び胸を締めつける。
角を曲がった、その瞬間だった。
「……っ!」
誰一人、言葉を発することができなかった。
商店街は崩壊していた。
店は燃え落ち、屋台はひっくり返り、石畳は赤黒く染まっている。
そこら中に、人が倒れていた。
お世話になった野菜を並べていた八百屋の
おじさん。
毎朝挨拶してくれた花屋のおばあさん。
皆、動かない。
「うそ……だろ。」
膝から力が抜けそうになる。
その中には、商店街を警備していた騎士たちの姿もあった。
剣は折れ、首は無く、誰一人立ち上がる者はいない。
まるで悪夢だった。
いや。
悪夢であってほしかった。
耳鳴りがする。
頭の中が真っ白になっていく。
「アテーナ!」
隣でエーギルが僕の肩を掴んだ。
「しっかりしろ!」
その声で我に返る。
震える身体で前を見た。
そこには巨大な魔物が立っていた。
全身を黒い外殻に覆われ、四本の腕には鋭い鉤爪。
真っ赤な瞳だけが、生き残った僕たちを見つめている。
その視線だけで、また身体が震えた。
「学生ども、聞け。」
同行していた騎士団長が前へ出る。
その声は、不思議なほど落ち着いていた。
「我々が時間を稼ぐ。」
腰の剣を抜く。
「貴様らは生き残れ。」
静かな一言だった。
だが、その意味を理解した瞬間、背筋が凍る。
「卒業演習はここで終了だ。」
騎士団長は魔物を見据えたまま続ける。
「これより実戦へ移行する。」
学生たちの顔色が一斉に変わる。
「生きて帰れた者を、正式に騎士として認める。」
誰も返事ができなかった。
卒業試験だと思っていた今日という日が
突然、生き残りを賭けた戦場へ変わった。
騎士団長はゆっくりと剣を構える。
「……総員、戦闘開始!」
咆哮が空気を震わせる。
次の瞬間
魔物は地面を砕きながら、僕たちへ向かって突進
してきた。




