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灰色の楽園  作者: ぼろぼろの世界
終わりの始まり
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38/40

真実を話そう3

「僕は――」


一瞬。


世界から音が消えた気がした。


全員の視線が僕に集まる。


エーギルも。


ジェシー先輩も。


ベルさんも。


かつて共に戦った仲間たちも。


僕は拳を握った。


迷いはある。


苦しさもある。


それでも。


もう決めたことだった。


「僕は……」


息を吸う。


「ロザート様と共に」


「世界の頂に立ちたい」


言った。


自分の意思で。


その瞬間。


エーギルの表情が変わった。


怒り。


悲しみ。


そして。


僅かな失望。


「……分かったよ」


エーギルは俯いた。


「アテーナ」


「貴様は結局……」


顔を上げる。


「ただの捨て駒だったってことだ」


その声は震えていた。


「裏切ったこと」


「必ず後悔させてやる」


エーギルは仲間たちへ向き直る。


「全軍」


「作戦変更だ」


その場の空気が張り詰める。


「こいつらを止めろ」


「アテーナだけでも構わない」


「絶対に逃がすな」


その言葉と同時に。


かつて仲間だった者たちの視線が僕へ向いた。


殺気。


怒り。


悲しみ。


全部が混ざった視線。


胸が痛む。


でも。


僕は目を逸らさなかった。


「ロザート様」


グレゴリウスが静かに言う。


「お願いします」


ロザートは前へ出る。


「天使の民よ」


「私に力を貸してください」


杖を掲げる。


「奥義」


「――雨の鳥籠」


瞬間。


空が暗くなる。


無数の光が降り注ぎ。


拠点を包み込んでいく。


次の瞬間。


街全体が巨大な水の檻へと変わった。


「その水には」


ロザートが冷たく告げる。


「身体の自由を奪う力が込められています」


「悪魔たちよ」


「そこで終わりなさい」


その言葉を聞いて。


シンが笑った。


「よっしゃ!」


「祭りの時間だ!」


勢いよく駆け出す。


だが。


次の瞬間。


強烈な衝撃を受け、後方へ飛ばされた。


「……?」


シンが顔を上げる。


そこに立っていたのは。


隊長だった。


「オ前ノ相手ハ」


「コノ俺ダ」


隊長の声は低い。


「弟ノ仇」


「俺ガ取ル」


シンは目を丸くする。


「待て待て」


「トーマスに兄ちゃんいたのかよ」


「初耳だぜ」


そして。


少し笑う。


「……トーマスを倒したのは俺とフランだ」


「つまり」


「二対一ってことになる」


「いいのか?」


シンは冗談めかしている。


しかし。


隊長の目は変わらなかった。


「構ワン」


「一人増エヨウガ」


「二人増エヨウガ」


「変ワラン」


その言葉に。


シンは肩をすくめた。


「だってよ、フラン」


「お前も雑魚だとさ」


フランはため息をつく。


「シン」


「貴方では相性が悪いです」


「アテーナの護衛へ回りなさい」


「この人は私が相手をします」


そして。


フランは転移魔法を発動する。


隊長と共に。


二人の姿は壁の上へ消えた。


         ◇


「……アテーナ」


ジェシー先輩が僕を見る。


「本当に」


「嘘じゃないんだな?」


僕は目を合わせる。


「ああ」


「僕が決めたことだ」


ジェシー先輩は目を伏せる。


「……そっか」


「残念だよ」


そして。


仲間へ指示を出す。


「ベルさん」


「私たちは神竜を引き受けます」


「エーギルはアテーナを」


「アスタとユノはシンを頼みます」


知らない名前が出る。


その時。


黒髪の男が叫んだ。


赤い瞳。


強い意志。


「天使は……倒す!」


続いて。


ペストマスクのような仮面をつけた女が叫ぶ。


「悪魔だけの世界を!」


シンは楽しそうに笑った。


「二対一か」


「面白ぇじゃねぇか」


「いいぜ」


「全力で来いよ!」


そしてロールズを見る。


「ロールズ」


「広い場所に飛ばしてくれ」


「ここじゃ狭すぎる」


「分かったの」


ロールズは魔法陣を展開する。


「でも」


「ちゃんと戻ってくるの」


「……少しくらい心配しろよ」


シンは呆れたように笑う。


次の瞬間。


三人の姿が光に包まれた。


「いってらっしゃいなの」


巨大な時計塔へ。


戦場は分かれていく。


それぞれの因縁の場所へ。

「お母様」


グレゴリウスがロザートへ向き直る。


「一度、国へお戻りください」


ロザートは少し驚いたように彼を見る。


「貴女がここで倒れるようなことがあれば」


「地下街の者たちが地上へ出てきます」


「そうなれば戦力差が大きく変わる」


「後は私たちで何とかします」


グレゴリウスの声には迷いがなかった。


ロザートはしばらく黙っていた。


そして。


「……分かった」


短く答える。


「魔物を三体残していく」


「必要なら使いなさい」


そう言った瞬間。


ロザートの身体が光に包まれる。


転移魔法。


その光が消えた時。


そこにロザートの姿はなかった。


残されたグレゴリウスへ。


一人の女性が歩み寄る。


「グレゴリウス」


「あなたの相手は私だよ」


その声には迷いがない。


「もちろん」


「一対一でね」


グレゴリウスは小さくため息をついた。


「仕方ありませんね」


「受けて立ちます」


そして。


「ロールズ」


「私たちを地下水路へ」


「任せるの」


ロールズは魔法陣を展開する。


「でも」


「絶対に勝たなきゃだめなの」


その言葉には。


グレゴリウスを心配している気持ちが込められていた。


二人の姿も。


光の中へ消えていった。


         ◇


一方。


エーギルは残った仲間たちへ指示を出していた。


「一番隊と四番隊の残りは神竜を」


「二番隊は魔物の対処」


「六番隊はロールズを頼む」


「五番隊の残りは周囲を警戒しろ」


次々と命令が飛ぶ。


そして。


最後に。


エーギルは少しだけ声を落とした。


「……いいか」


「死ぬなよ」


全員がエーギルを見る。


「もう」


「あんな光景は見たくねぇからな」


その言葉には。


隊長としての願いがあった。


「解散!」


仲間たちはそれぞれの戦場へ向かう。


そして。


エーギルは一人。


僕の前へ歩いてくる。


「……」


距離が近づく。


昔なら。


ただの仲間だった。


背中を預けられる存在だった。


でも今は。


互いに武器を向ける相手。


エーギルは静かに言った。


「最後に」


「言い残すことはあるか?」


今まで聞いたことのない声だった。


怒りで満ちている。


でも。


その奥には。


悲しみがある気がした。


僕は少し黙る。


そして。


ずっと聞きたかったことを口にした。


「エーギル」


「天使と悪魔が争うように仕向けたのは」


「君だろ?」


エーギルの表情が変わる。


「……」


「君が皆を動かしていた」


「違うか?」


「何を根拠に言っている!」


エーギルが怒鳴る。


僕は冷静に答える。


「僕は」


「君の矛盾を二つ見つけた」


エーギルは黙る。


「一つ目」


「僕の父さんのことだ」


「君は天使軍が父さんを殺したと言った」


「でも」


「その状況なら」


「火事や建物の崩壊」


「別の可能性だってあったはずだ」


エーギルは少し目を細めた。


「……実際に見た」


「それが証拠だ」


「最後の言葉も聞いた」


「だからお前に伝えた」


僕は首を横に振る。


「違う」


「僕は二週間前」


「ロザート様から聞いた」


「首飾りのことを」


「天使軍の兵士が持っている魔道具」


「それは、人を傷つけた時に反応するものだ」


「なら」


「天使軍は父さんを殺せないはずだ」


「でも君は」


「首飾りが偽物だったから」


「それができた」


エーギルは何も言わない。


沈黙。


それが答えだった。


僕は続ける。


「二つ目」


「南方の港へ向かう前だ」


「あの時」


「拠点には兵を残さなかった」


「最初から守るつもりがないように見えた」


「確かに」


「敵が来る可能性は低かった」


「でも」


「総司令官なら」


「可能性を考えるはずだ」


エーギルの拳が強く握られる。


僕は問いかける。


「答えてよ」


「エーギル」


「君は本当に」


「平和を望んでいたのか?」


「僕の街を壊したのも」


「アウトサイダーにやらせたのか?」


「君が目指す世界は」


「一体何なんだ?」


エーギルは黙っていた。


僕は耐えられなくなる。


「答えろ!」


「エーギル!」


その瞬間。


エーギルは笑った。


「……クックック」


「バレてたか」


顔を上げる。


「そうだ」


「俺が仕組んだ」


「俺が皆を動かした」


「俺が」


「全部始めた」


風が吹く。


戦場の音だけが響く。


エーギルはゆっくり語り始めた。


「俺は元々」


「地下街の出身だ」


「昔」


「前の天使国王が」


「大量の騎士を連れて」


「俺たちの場所へ来た」


「何をしに来たと思う?」


エーギルは拳を見る。


「俺たちを」


「利用するためだ」


「捕まえるためだ」


「……ふざけてるだろ?」


僕は何も言わない。


「当然」


「俺たちは抵抗した」


「その時は思っていた」


「まさか」


「本当にそこまでするはずがないって」


エーギルの声が低くなる。


「でも」


「あいつらは止まらなかった」


「俺は」


「隠れるしかなかった」


「目の前で」


「大切なものを失ってから」


「ずっと」


エーギルは僕を見る。


「アテーナ」


「お前は強いよ」


「父親を失ったって聞いても」


「憎しみに飲まれなかった」


「ただ」


「平和のために戦おうとした」


「俺にはできなかった」


「俺は」


「そんなに強い人間じゃねぇ」


拳を握る。


「だから」


「天使は」


「俺の仲間を奪った奴らは」


「止めなきゃならねぇ」


「頼む」


「アテーナ」


「今ならまだ間に合う」


「そこをどいてくれ」


僕は静かに口を開いた。


「エーギル」


「一つだけ聞いていい?」


「アウトサイダーのみんなも」


「君と同じ気持ちで戦っているの?」


「それとも」


「誰かに操られているの?」


エーギルは答える。


「……操っている」


「腕に魔法具を埋め込んである」


僕は息を飲む。


「今からでも」


「解除できないの?」


エーギルは首を振る。


「無理だ」


「俺の大義は」


「もう止められねぇ」


「その魔法具は」


「俺がいなくなって初めて止まる」


沈黙。


僕は空を見る。


そして。


エーギルを見る。


「エーギル」


「僕たちは」


「そういう運命だったのかもしれない」


剣を構える。


「……戦おう」


エーギルも構えた。


「そうだな」


二人の間に。


もう言葉は必要なかった。


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