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灰色の楽園  作者: ぼろぼろの世界
初陣編
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内通者

「……アラロス。」


思わず漏れた声は、自分でも驚くほど震えていた。


彼女はゆっくりとこちらへ目を向ける。


「あら。」


少しだけ首を傾げ、柔らかく笑う。


「アテーナさん。どうしたんですか?そんなに慌てて。」


まるで旧友に挨拶するような口調だった。


その笑顔は以前と何一つ変わらない。


だからこそ、胸が締め付けられる。


「どうして……。」


僕は言葉を探した。


「騙したの?」


アラロスは肩をすくめる。


「これが私の役目だからですよ。」


「違う!」


思わず叫んでいた。


「そうじゃない!」


静かな港に声が響く。


「どうしてロザート側にいるんだ!」


アラロスは一瞬だけ目を細める。


しかし、すぐにいつもの笑顔へ戻った。


「最初からです。」


その一言だけだった。


僕は何も言えなくなる。


最初から。


その意味を理解した瞬間、背筋が冷たくなった。


つまり――。


「全部……。」


誰かが呟く。


「全部、嘘だったのか……。」


隊員たちの表情から動揺が広がっていく。


その空気を切り裂くように、一人が前へ出た。


スレイバーだった。


「おい。」


低い声。


「冗談だろ。」


鎖鎌を肩へ担ぐ。


「お前が裏切る理由なんてねぇはずだ。虐待だって受けてたろ?」


アラロスは微笑んだまま答える。


「ありますよ。」


「何だ!」


「貴方たちは…」


少しだけ笑みが深くなる。


「人が良すぎる。」


風が吹く。


白い髪が揺れる。


「それは、今現在の混沌としたこの世界では命取りです。」


静かな声だった。


「常識ですよ。」


「ふざけるな!!」


スレイバーが地面を蹴る。


一瞬で距離を詰め、鎖鎌を振りかざした。


狙いは首。


迷いのない一撃だった。


しかし。


ヒュッ――


アラロスは身体を半歩だけ傾ける。


剣先は髪を数本切っただけだった。


切れた髪が風に舞う。


「……。」


スレイバーの目が見開かれる。


避けた。


今の一撃を。


アラロスは髪を指で払う。


「危ないですね。」


「お前……!」


スレイバーが歯を食いしばる。


「いつからそっち側に付いてた!」


「だから。」


アラロスは穏やかに言う。


「最初からですよ。」


その言葉が決定打だった。


誰も何も言えない。


沈黙だけが流れる。


やがてアラロスは両手を軽く叩いた。


「さて。」


その声と同時に。


港町のあちこちから人影が現れる。


屋根、路地、倉庫の陰


黒い鎧を纏った騎士たちが、次々と姿を見せた。


「ロザート騎士団。」


アラロスが右手を掲げる。


「進軍してください。」


「了解。」


気だるそうな男の声が響いた。


港の中央。


積み上げられた木箱の上に、一人の男が腰掛けている。


緑色の髪。


紫色の目。


まるで昼寝から起きたばかりのような気の抜けた顔。


「やっと出番か。」


大きく欠伸をする。


「待ちくたびれた。」


その男が立ち上がった瞬間。


周囲の空気が変わった。


重い。


息苦しい。


思わず呼吸を止めそうになる。


ジェシーの表情も真剣になる。


「……来た。」


小さく呟く。


エーギルさんが前へ出る。


「アラロス。」


静かな声だった。


「内通がバレていないと、本気で思っていたのか?」


アラロスは笑う。


「思っていましたよ。」


少しだけ肩をすくめる。


「皆さん、ロザート様しか見えていない方々ですから。」


「そうか。」


エーギルさんも笑う。


「存外、脳みそは詰まってたらしい。」


アラロスの笑みが僅かに消える。


「その減らず口も、ここまでですよ。」


エーギルさんは剣を抜いた。


「五番隊は逃げ遅れた人がいないかの確認。」


一歩前へ出る。


「アラロスは俺たちで引き受ける!」


隊員たちが一斉に剣を抜く。


「四番隊!」


今度は振り返る。


「あの男を頼んだ!」


「了解。」


ジェシーが笑う。


その時だった。


アラロスが後ろの男へ視線を送る。


「ニッセ。」


男は面倒そうに首を鳴らした。


「頼みます。」


「……。」


男はゆっくり歩き出す。


「四翼、ニッセ。四番隊を殺す。」



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