王家の血筋
「ラピス、本気で来て下さい。私の興が冷めないように楽しませて下さいね。私が勝ったら話を聞いてもらいますよ。一晩中、貴女が骨になるまで。」
ベルさんは妖しく笑った。
さっきまで冷静だった副長の面影はどこにもない。
獲物を見つけた捕食者のような目だけが、ラピスを映していた。
「あーうるさいうるさいうるさい! お前は絶対に私が○殺して○、両親の墓に首を持って行く!」
ラピスは感情を抑えきれず叫ぶ。
怒りも憎しみも、五年間押し込めてきた全てが一気に噴き出していた。
「ギガフレア!」
巨大な炎塊が夜空を赤く染める。
轟音とともに一直線にベルへ襲いかかった。
「ファイアーウォール。」
ベルは詠唱を終えると同時に、炎の壁を展開した。
激突…
炎と炎がぶつかり、爆ぜる。
熱風が周囲の木々を大きく揺らした。
壁は軋みながらも崩れない。
その向こうでベルは、涼しい顔のまま口を開いた。
「私、調べたんです。貴女のこと。」
ラピスの眉がぴくりと動く。
「当時は誰も疑いませんでした。でも貴女の血筋…
一族は、純系ネフィリムじゃありませんよね?」
炎の音だけが響く。
ベルは淡々と言葉を重ねる。
「国民を騙していたんですよ。貴女のお父様は。」
その一言で、ラピスの顔から血の気が引いた。
まるで世界が止まったようだった。
ベルはその表情を見て、小さく笑う。
「う、うそよ……。」
ラピスは首を振る。
「そうよ! お前のでたらめよ!」
叫び声は震えていた。
怒っているからじゃない。
怖かったからだ。
もし本当だったら。
今まで支えてきた全てが崩れてしまう。
ベルは容赦なく追い討ちをかける。
「では証明して下さい。」
一歩前へ。
「純系ネフィリムなら使えるはずですよね? 固有魔法。」
さらに一歩。
「さあ撃って下さいよ、姫さま。あ、ごめんなさい。『偽の』でしたね。」
ラピスの手が震える。
魔力は集まる。
だが、撃てない。
撃てば答えが出てしまう。
父が嘘をついていたのか。
それとも自分が本物なのか。
その答えを、自分自身が証明しなければならない。
「……撃たないんですか?」
ベルは肩をすくめる。
「なら、私が撃っちゃいますね。」
その笑顔は美しかった。
だからこそ恐ろしい。
「ちゃんと受け止めて下さいね。」
ベルは静かに両手を広げた。
「本物の王家の血筋を…」
夜風が止む。
空気が張り詰める。
「悪魔サタン様――」
右手に蒼い炎が灯る。
「大天使ミカエル様――」
左手には紅い炎。
二つの炎は互いに反発しながらも、ベルの掌で静かに渦を巻いていた。
「この血が私の身体に流れる限り、私と共に闘って下さい。」
ベルは両手を前へ突き出す。
「地獄の業火――インフェルノ。」
蒼炎と紅炎。
二つの炎はラピスへ飛ぶ。
しかし当たらない。
そのまま彼女の周囲をゆっくり旋回し始めた。
「……?」
ラピスは眉をひそめる。
(こいつ……操作できてない。)
一瞬だけ安堵した。
(今なら勝てる。)
そう思った。
その瞬間だった。
「チェックメイト。」
ベルが静かに指を鳴らす。
パチン。
乾いた音が夜に響く。
次の瞬間、二つの炎が唸りを上げて回転速度を増した。
巨大な火柱となり、ラピスを中心に渦を巻く。
逃げ道は、一瞬で消えた。
「っああぁぁぁっ……!」
熱風が押し寄せる。
視界が炎だけになる。
「痛い痛い痛い…熱い……っ!」
「やめて……!」
「お母さん……!」
「お父さん……助けて……!」
叫びは炎に飲み込まれ、誰にも届かない。
渦はなおも勢いを増し、夜空へと立ち昇る。
ベルは無表情のまま、その光景を見届けた。
「…貴女の両親は私の両親を陥れ、地下に追いやったんです。そして純系ネフィリムを名乗った…
当時の国民は良い人しかいなかったので誰も疑わなかった。……本物の王家の末裔は私…って、もう
聞いてないか。」
骨だけになったラピスを確認して、歩き出す。
その背中には、一片の迷いもなかった。
だが、数歩進んだところで。
「……うっ……。」
ベルの足が止まる。
右手で頭を押さえた。
「頭が……っ……」
視界が歪む。
耳鳴りが止まらない。
「割れ……る……」
膝から力が抜ける。
そのまま静かに地面へ崩れ落ちた。




