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灰色の楽園  作者: ぼろぼろの世界
流星の声と二色の炎編
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トーマスの覚悟


「ふーん、ベルがねぇ……。燃やしてやるか。」


「いいな。じゃあ俺は、あっちの白髪を殺す。」


城壁の上に立つ二人は、夜空を背負っていた。


月明かりに照らされたその姿は、人ではなく災厄そのものだった。肌を刺すような魔力が壁の内側まで流れ込み、兵士たちの喉が無意識に鳴る。誰もまだ戦っていない。それなのに、この場にいる全員が「戦えば死ぬ」と本能で理解していた。


男は一歩前へ出ると、拳を握り、腹の底から声を張り上げた。


「騎士団たちよ、その命を賭してこの街を制圧せよ! この街さえ落ちれば終戦は近い! 戦え!」


その号令は雷鳴のように夜へ響き渡り、無数の騎士が雄叫びを上げる。


女――ラピスは静かに目を閉じた。


「ロザート様、どうかご加護を。」


祈りは一瞬。


次の瞬間、彼女は左手を掲げた。


「フレアスマッシュ。」


空気が爆ぜた。


直後、巨大な火柱が夜空を裂き、街へ降り注ぐ。


屋根が燃え、木々は悲鳴を上げるように弾け、熱風が石畳を舐め尽くした。さっきまで静かだった街は、一息で業火に飲み込まれる。


「そう簡単には行かないよな。ベル!」


トーマスの叫びと同時に、ベルは地を蹴った。


「そうですね。貴女は私が殺します。覚悟してください、ラピス。」


二人は激突する寸前、その勢いのまま城壁の外へ消えていった。


轟音だけが夜空に残る。


残されたトーマスの前へ、一人の男が歩み出る。


「始まったな……。おいお前さん、片腕だけで俺に挑もうって言うのかい? 舐められたもんだねぇ。」


シンは肩を鳴らしながら笑う。その笑みには余裕しかなかった。


トーマスも静かに笑い返す。


「君こそ、今宵に一人だけで僕に勝てるとでも? 君みたいなバカはここで僕に殺された方がいいよ。」


「君じゃねぇ。」


シンの笑みが鋭く変わる。


「俺はシン・ナタリアだ。覚えとけよ、トーマスさんよぉ。」


「その名前、どこで……?」


トーマスの表情がわずかに曇る。


「うちの頭領が言ってたんだけど……マズかったなすまん、忘れてくれ。」


その何気ない一言が、トーマスの胸をざわつかせた。


驚いたのは内通者がいることではない。


**"その内通者が、敵の幹部と直接繋がるほどの立場にいる"。**


その事実だけで十分だった。


(……まずい。)


遠征に出た仲間たちの顔が脳裏をよぎる。


(もし本当にそうなら……。)


「答えは? 誰が内通者だい?」


「勝ったら教えてやるよ。」


シンは笑いながら右腕を掲げる。


「ロザート様、私に力を。」


腕を走る紋様が眩く輝き始めた。


「サンダーショット。」


指先から放たれた雷光が夜空を一直線に裂く。


稲妻は地面へ突き刺さると、蜘蛛の巣のように街全体へ広がった。


石畳が青白く光り、空気が焦げた匂いに変わる。


「お前、空飛べんのかよ。」


「まぁね。」


トーマスは片翼を広げ、ゆっくり宙へ浮かぶ。


「今、この街全域に電気が流れてるでしょ。君の仲間は被害を被らないのかな?」


「それはお互い様だろう。」


シンは不敵に笑った。


「これで邪魔は入らねぇ。さぁ、続きを始めよう。」


トーマスは高度を保ったまま相手を観察する。


(……おかしい。)


(魔力が弱い。)


四翼―


エーギルが内通で得た情報だが、4人の幹部がそう

呼ばれているらしい。


ロザート軍最強格と聞いていた男とは思えないほど魔力の総量が少ない。


(この程度なら勝てる。)


そう判断した瞬間だった。


シンの膝が沈む。


(……来る。)


トーマスは身構える。


(当たらないでしょ。僕は空を飛んで――)


「……え。」


景色が跳ねた。


シンは常識を無視するような脚力で、一瞬にして空中まで跳躍していた。


風が爆ぜる。


次の瞬間には、もう懐だった。


距離が――消えた。


「最大火力でぶっ飛ばす。」


シンの拳に雷鳴が宿る。


「サンダーバードストライク。」


拳が腹へめり込んだ瞬間、世界が白く染まった。


骨という骨が軋み、全身を雷が駆け抜ける。


肺から空気が強引に押し出され、声にならない悲鳴だけが漏れた。


(速……っ。)


考える暇すらない。


トーマスの身体は砲弾のように吹き飛び、石畳へ叩きつけられる。


地面が砕け、砂煙が夜空へ舞い上がった。


何が起きたのか理解できない。


痛みだけが、現実を教えていた。


「俺はよぉ。」


シンはゆっくり歩み寄る。


「身体能力が増強される魔法が常にかかってんだよ。」


その声には誇示ではなく、揺るぎない自信が滲んでいた。


(……なるほど。)


(だから魔力が少なく見えたのか。)


ようやく答えに辿り着く。


だが、理解した時にはもう遅い。


トーマスは折れた腕で身体を支え、それでも立ち上がる。


「アハハ……。」


口元から血を拭いながら笑った。


「君、強いね。……でも僕が勝つさ。」


夜空を一度だけ見上げる。


(時間は稼いだ。)


(あとは……。)


仲間を信じるだけだ。


「……ここからは、死ぬ気でついてこい……。」


──午前二時。


焼け落ちる街の炎が二人の影を赤く染める。


そんなトーマスの姿を見て、シンは初めて笑みを消した。


「お前……いや、トーマス。」


敵でありながら、その覚悟だけは認めた。


「全部ぶつけてこい。」


シンは拳を握り締める。


「受けて立ってやるよ。」


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