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灰色の楽園  作者: ぼろぼろの世界
アウトサイダー編
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19/40

懸念点


「失礼します。アテーナです。」


 扉を開けると、窓際の机に向かって書類を読んでいたトーマスが顔を上げた。


 右腕は肩から先がなくなっている。それでも以前と変わらない笑みを浮かべていた。


「あれ、アテーナ君。」


 軽く手を振る。


「久しぶりだね。」


 その笑顔が、かえって胸に刺さった。


 僕は深く頭を下げる。


「まず……謝らせてください。」


「腕のことですよね。本当にすみませんでした。」


 部屋に静寂が落ちる。


 数秒後、トーマスは吹き出した。


「あはは。」


「そんなに頭を下げなくていいよ。」


 僕は顔を上げた。


「でも……。」


「元はと言えば僕が挑発したんだから。」


 肩をすくめながら笑う。


「半分は自業自得さ。」


 その一言で、胸につかえていた石が少しだけ軽くなった。


「ありがとうございます。」


「それで?」


 トーマスは机に肘をつく。


「君は謝罪だけしに来るタイプじゃないよね。」


 さすがに見抜かれていた。


 僕は苦笑しながら本題を切り出す。


「アウトサイダーって、どうやって隊員を集めているんですか?」


 トーマスの笑みが少しだけ深くなる。


「ああ。やっぱりそこに辿り着いたか。」


 僕は何も言わない。


 代わりに視線だけで続きを促した。


「君、内通者を疑ってるんでしょ?」


 図星だった。


「……はい。」


 トーマスは椅子にもたれた。


「隊長になる条件は二つ。」


 指を一本立てる。


「エーギルの昔からの仲間。」


 二本目の指が立つ。


「あるいは、元ロザート騎士団所属で実力がある人。そのどちらかだね。」


「なるほど……。」


「でもね。」


 トーマスは続ける。


「隊員をスカウトするのは隊長なんだ。」


「大隊長が君とアラロスを連れてきたみたいに。」


 嫌な予感がした。


「つまり……。」


「ロザート側の人間を紛れ込ませることもできる。」


 静かな声だった。


 だからこそ重い。


「この組織はまだ新しい。人手不足だし、身元調査も甘い。だから完全に安全とは言えないんだ。」


 僕は腕を組んだ。


 頭の中で隊長たちの顔が浮かぶ。


「今のところ、元ロザート騎士団なのは誰なんですか?」


「一番隊と六番隊。」


 即答だった。


「一番隊は副長だから、まず白だろうね。」


「となると……。」


「六番隊。」


 僕が呟くと、トーマスは首を横に振った。


「決めつけは駄目。」


 笑顔のまま言う。


「内通者がいない可能性だって十分ある。」


「疑い始めたら仲間まで敵に見えてくる。」


 その言葉には、不思議な重みがあった。


 経験者だからこその言葉なのだろう。


「だから答え合わせは明日。」


 トーマスは立ち上がり、窓の外を見た。


「防衛戦が終われば、嫌でも分かる。」


 僕も窓の外を見る。


 夕日が城壁を赤く染めていた。


 まるで、明日流れる血を先取りしているようだった。


 トーマスはいつもの笑顔に戻る。


「さて。暗い話は終わり。身体も鈍ってるだろ?

今日はちゃんと休んで、明日に備えな。」


 僕は静かに頷いた。


「はい。」


 部屋を出ようとすると、後ろから声が飛んできた。


「アテーナ君。」


 振り返る。


 トーマスは相変わらず笑っていた。


「明日は生き残ることだけ考えてね。」


「……もちろんです。」


 そう答えて部屋を出た。


 扉の前では、アラロスが壁にもたれながら待っていた。


「終わりました?」


「うん。」


 僕は小さく笑う。


「じゃあ次は身体を動かそうか。」


 明日には、また命の奪い合いが始まる。


 だからこそ今だけは、剣を振る理由を考えずに済む時間を大切にしたかった。


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