ゴシップと政治(2)
私を貶めようとする者、利用しようとする者。なぜどちらも私がエンディンと繋がっていると勘違いしているのだろう。私はエンディン王国の人間と一度も会ったことはないし、むしろ関わりたくない。
「北部がエンディン王国と手を組むのは、フランクリン公爵家の人間としては困るわね。ライニール王国の貿易拠点のひとつがフランクリン公爵領のミレー港。北部が独立したら、ミレー港に入港する貿易船が奪われることになるもの。そうなったら、私はやはりスパイだったと言われるのかしら」
冗談めかして言ったが、アンは心配そうに眉を寄せる。
「アンもわかってるでしょう? 北部が独立して大陸貿易を行うなんて、現時点では夢物語に過ぎないわ。北には海軍基地があるけれど、貿易のための港湾施設とは別物よ。独立なんて不穏な話が持ち上がってしまったから、港湾含め北部へのインフラ整備には慎重になるでしょうし、鉱山管理も厳しくなるのではないかしら」
アンを安心させるために言ったものの、どの国でも石炭需要が増加している今、エンディン王国に限らず諸外国が「フォンバーガ大公国」独立に介入しないとは言い切れない。鉄道敷設は加速し、工場生産が行われるようになり、ライニール王国の首都サヴァ・ライナの一角には常時スモッグがかかっている。この世界はまさに産業革命の真っただ中だ。
「ラニア様。北部行きをやめたこと、そろそろ公表されてもよいのではありませんか。聖征記念祭に参加して王都に戻ることにされたのですよね?」
「旅行日程のことは王弟殿下から口止めされているでしょう? 未だに伏せているのは何かお考えがあってのことだと思うわ」
北部行きを取りやめたのは、私が玻璃宮を訪れた日。あの時のレイモンド殿下の態度を見て、王弟殿下は予定を覆すことにした。
そもそも、フレディ王族殿下の目的は聖征記念祭での情報収集。「北部行き」は目眩ましに過ぎない。悪魔を王都に残して北部に向かえば王宮がどんな状態になるかわからず、私と第二王子殿下は北部に行かず王都に戻ることにしたのだ。ただ、王弟殿下自身は北部に行くか王都に戻るかまだ決めていない。おそらく、ミローナ妃殿下をアリシアから引き離したい気持ちがあるのだろう。
アンもこの小旅行に同行することになっているが、今のところロードレス信仰や豊穣会など詳細な事情は伝えていなかった。そのため、私が王都から離れること自体が主目的だと考えている。
じきに馬車はフランクリン公爵邸に到着し、アンが憂いを帯びた視線を東棟に向けた。
「公爵夫人は今年はどうされるのでしょう。いつも九月の初めにはグレイアム領に行かれますよね」
「あっ……」
なぜ失念していたのか。
毎年、九月の初めの聖征記念祭の頃には、公爵夫人はアリシアと双子を連れてグレイアム伯爵領に行っていた。
一度目の人生では、彼らは今年もグレイアム領に行ったのだろうか?
あの頃、私はすべてのことから目をそらすように別棟の部屋にこもっていた。数週間に一度アンが部屋を訪ねてきたけれど、聖征記念祭の話をした記憶はない。彼女が置いていった新聞で聖征記念祭の記事を読んだ覚えもない。
「アン、今日も公爵夫人のところに報告に行くのよね。グレイアム領に行くかどうか、さりげなく聞いてみてくれない?」
「わかりました」
この日、アンは公爵夫人のところに報告に行ったあと、忘れ物をしたふりをして私の部屋に戻ってきた。そして、衝撃の言葉を口にした。
「王太子殿下とアリシア様も聖征記念祭に参加されるかもしれないそうです」




