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玻璃宮訪問(5)

 王弟殿下は「むう」と唸り、ミローナ妃殿下は複雑な表情を浮かべ、マダムは全員の顔を見回したあと淡々と彼女の考えを語った。


「フレディ殿下をいずれフォンバーガ大公にという話が出たのは、先王の時でしたよね。我が王国は広大な島国。王都サヴァ・ライナはその南岸。先王の時代、はるか北の果てで立て続けに鉱山が発見され、北部沿岸では大陸からの密航船が捕縛されました。そういう状況で、北部を大公領として王族に統治させようと考えられたのは自然な流れと思います。

 しかし、その先王が急逝されました。直前に北部海軍基地が完成していたこともあり状況が大きく悪化することはありませんでしたが、現国王陛下が王位を継がれて十年以上、密航者は定期的に捕まっています。だからこそフレディ殿下は自ら北部に向かわれたのでしょう?」


 王弟殿下がうなずくのを見届け、マダムは先を続ける。


「フレディ殿下が動かれたのを受けて、陛下も先延ばしにしてきたこの件について本気で考えはじめたのでしょう。王太子殿下はもう十分大人ですし、王弟殿下の子どもたちも巣立っているというのに、フレディ殿下が未だ爵位もなく王宮に留まっているというのもおかしな話。本来なら、レイモンド殿下を王太子に任じた時点でフレディ殿下をフォンバーガ大公とするべきだったのです。陛下にとって王弟殿下が頼りになり過ぎたせいで、必要以上に王宮に留まることになったのだと思いますよ」


 マダムは笑みを絶やさなかったが、ずいぶん皮肉のこもった言い回しだった。


 彼女の言うことは一理ある。むしろ、王太子の色恋話に湧き立つのは若い女性と庶民ばかりで、ほとんどの貴族は王室の政治的判断と考えているだろう。


 レイモンド殿下があんな突発的な行動をしなくても、さほど遠くない未来に私は婚約を破棄されていた。春から巷に広まっていた婚約者変更の噂を王室が否定しなかったのもそのためだ。


 もしアリシアが悪魔でなければ、マダムの推測どおり来年にはフォンバーガ大公が誕生していたのかもしれない。けれど、すでにライニール王国の中枢はアリシアの手のひらの上。


「それで、フレディ殿下は私に何をお求めなのです? なかなか興味深い顔ぶれのお茶会ではありませんか」


 マダムはそろそろ痺れを切らしたらしい。

 王弟殿下は身をのり出し、先日私にした話をそのまま口にした。


「ミローナがラニア公女を傷心旅行に連れて行きたいそうだ。今日はその誘いのために公女を招いたのだが、この話を報じて欲しい。サヴァ・ライナ・ポストでなくても、適当なゴシップ誌に情報を流してくれてもかまわん。外堀を埋めないことにはフランクリン公爵が許可すると思えんからな」


「いつ頃お発ちになる予定で?」


「八月下旬あたりを考えている」


 フレディ殿下の答えを聞いたマダムは、ウォルト第二王子殿下に視線をやった。


「王子殿下、今年も聖征記念祭にご出席に?」


「そのつもりです」


 ウォルト殿下の返事に、「叔母上はこれだから」と王弟殿下のため息混じりの声が重なる。どうやらマダムは傷心旅行の行き先を見抜いたようだ。


「フレディ殿下が何を考えていらっしゃるのかわかりませんが、ラニア様が王都を離れるのは、ラニア様自身のためには良いことだと思います。しかし、王族と一緒、しかも第二王子殿下とともに聖征記念祭に行くとなると、新聞各紙は面白おかしく書き立てるでしょう」


「叔母上、私も若いふたりをゴシップ紙に載せたいわけじゃない。出立日をずらして現地で合流する予定だ」


「ずらしても同じです。ふたりを犠牲にして何をされようとしているのです?」


 フレディ殿下は自らの膝で頬杖をつき、じっとマダムを見つめた。


「マダム・クロエは、豊穣会という名前をご存じか?」


 マダムの眉間に深い皺が寄る。

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