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婚約式と青灰色の鳥(3)

 聖なる鳥とされる青灰色のイソヒヨドリ。礼拝堂での自由奔放な姿は影をひそめ、囀ることもなく魔術師を見つめている。


「ずいぶん賢い鳥のようですね。あの時はなぜあなたではなく第二王子殿下の肩に舞い降りたもでしょう。本当に、勝手に籠から抜け出したのですか?」


 私の言葉にアンが顔を強張らせた。


 鳥が勝手にやったのではなく飼い主がそう〝仕込んで〟いたのなら、そこには人間の意図がある。あのとき注目を浴びた第二王子殿下は、王位継承順位第二位の王族。ミントは王弟殿下の頼みでここにいるようなことを口にしていたし、仮に礼拝堂でのイソヒヨドリの振る舞いが王弟殿下の望んだものだとしたら――。


「公女様、この子は気まぐれなのです」


「でしたら籠に入れておかないと。また逃げてしまいますよ」


「籠に入れるから逃げるのです。鳥は自由を愛するものですから、籠の中の鳥は死んだも同然。この子は自由であってこそ私の下に帰ってくる」


「あなたもずいぶん自由が好きなようだけど、あなた自身はどこにお帰りに?」


 ミントは「ここです」と自分の胸をトントンと叩いた。アンは哲学的にも思えるこの会話に聞き入っている。


 右に折れた外廊を曲がると、馬車置き場が見えた。御者たちは主人がまだ戻ってこないとわかっているらしく、花火の音を聞きながら談笑している。その中に一人、場違いな近衛騎士の姿があった。


「ここまでくると因縁めいたものを感じますね」


 ミントは吐息混じりにつぶやき、「では私はここで」と前触れもなく植樹林の中に駆けていく。アンは呆気に取られていたが、急にいなくなった理由は明らかだ。


「ねえ、アン。あそこにいるのはアーロン・カーティスのようだけど、誰を探していると思う?」


 声が届くはずもないのに、アーロン卿がこちらを見た。目が合った途端、彼は馬車の間を縫ってこちらに向かってくる。馬車置き場の人々の注目が集まり、フランクリン家の御者も私に気づいたようだ。


 アンは私とアーロン卿とを見比べ、困惑気味に聞いてくる。


「お茶会のときも思いましたが、ラニア様はカーティス卿と懇意にされているのですか? 炊事場でのことがきっかけでしょうか?」


「同情してると言っていたわ。こんな形で婚約破棄されたから」


「しかし、彼はいま任務中ですよね」


「そうね。ということは任務で私を探しているのかもしれないわ」


 話しているうちにアーロン卿は私たちの前にたどり着いた。額から滝のように汗を流しており、ハンカチを渡そうかと思ったけれど余計な噂が立ちそうでやめた。彼は革手袋をはめた手の甲で無造作に汗を拭う。


「公女様、こちらにいらしたのですね」


「私をお探しだったのですか? 先に屋敷に戻ると公爵様にお伝えしてあるのですが」


「公爵家のバルコニーに公女様の姿が見えないので、アリシア公女様が探してほしいとおっしゃったのです。もともと公爵閣下がラニア公女様の出席を望んでおらず、気を遣って姿を消したのだろうと」


「公爵家の者にも確認なさったのでしょう? 体調不良と言いませんでしたか?」


「そう説明を受けましたが、……それは口実では?」


 面倒になってため息が漏れた。

 アーロン卿の数メートル後ろ、生け垣のそばで御者が待っている。いや、聞き耳を立てて後で公爵夫人に報告するつもりかもしれない。


「異母妹はいずれ王族名簿に名を連ねるのかもしれませんが、今はまだ公爵家の人間です。当主の指示を優先するのが私のとるべき行動では?」


「……それはそうですが、それでよろしいのですか?」


「むしろありがたいと思っています。私に見世物になれと? せっかくの祝賀ムードですのに、明日の新聞に下世話なゴシップとして載るのは遠慮したいですわ」


「そこまで――」アーロン卿は何か言いかけ、思い直したように口をつぐんだ。


「遠慮なさらず、言いたいことがあるならおっしゃってください」


 周囲の耳目を集めているし、どうせ言わないだろうと高を括っていたが、彼はおもむろに口を開いた。


「では申し上げます。公女様は私に同情するなとおっしゃいましたが、それならばご自分を卑下するのはおやめください」

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