婚約式と青灰色の鳥(2)
婚約式は滞りなく終わり、レイモンド殿下とアリシアとは参列者の拍手に送られて礼拝堂を出て行った。大聖堂前広場には身分問わず多くの王都民が集まっているはずで、ふたりはおそらく二階バルコニーから人々に顔を見せる。
「列席されたみなさまは大聖堂外廊から外の様子をご覧になれます。お帰りの際は大聖堂裏手に馬車が待機していますので、外廊を通ってそちらにお向かいください」
数人の助祭が声をかけて回っている。王族は礼拝堂右手の扉、フランクリン公爵家は左手の扉へと案内され、侍女と侍従もついて来た。
「お父様、僕たちは外廊には行けないのですか? 外廊に出る扉はたしかこれですよね?」
デリックが通路途中の扉を指さした。彼が自分からねだるとは思えないからイーノックに頼まれたのだろう。先を歩く助祭が振り返り「ご心配なさらず」と答える。
「誓いを立てられたおふたりが二階の中央バルコニーから人々にあいさつをなさいます。外廊からはその様子があまり見えませんが、皆さまをご案内するのは二階にある隣のバルコニーです。両陛下はお二人と一緒に中央バルコニーに、他の王族の方々は反対側のバルコニーに行かれます」
説明を聞いていた公爵が、「ラニア」と私を振り返った。そのあとの無言の間の意味は問うまでもない。
「公爵様。申し訳ありませんが、体調がすぐれませんので先に退席させていただきます」
公爵夫人はかすかな笑みを浮かべ、公爵は「そうしなさい」とうなずいた。デリックは何事もなかったように父親の後ろをついて行き、イーノックは何度か私とデリックとを交互に見ると、不機嫌な顔をして去っていく。
「じゃあ、帰りましょうか」
アンに声をかけたつもりが、背後から「馬車置き場までご案内いたします」と声がした。そこにいたのは少年聖歌隊の制服を着たミントだ。
「なぜ聖歌隊の方が?」とアン。
「私も帰るところですから、ついでですよ」
ミントはニッと笑う。アーロン卿の失言をマネた冗談のようだが、それがアンを警戒させた。一方、出目ちゃんは興味津々。
「果菜、魔女だ。果菜もこいつと知り合いだろう?」
「フランクリン公爵令嬢とお会いするのは初めてですね。お会いできて光栄です」
私に話しつつ出目ちゃんに答えたようだが、出目ちゃんは騙されない。
「嘘をつくな。果菜の魔女友だろう? 果菜の家に来てたじゃないか」
ミントは一瞬眉をひそめたが、話をそらすように「行きましょうか」と扉を押し開けた。
外廊で混雑しているのは広場に近い前側だけのようだ。私たちのように早々と帰る貴族はいないらしく、背後の喧騒を聞きながら大聖堂裏へと向かった。
パン、パンと乾いた破裂音、続いて歓声。
花火だ。
音は何度も繰り返される。
「果菜、祭りだ。花火だ。ちょっと見てくる!」
出目ちゃんは尾ビレを振って泳いで行った。以前よりもかなり泳ぎが上手くなって、あっという間にいなくなる。
「公女様は花火に興味ないのですか?」
「昼なかの花火は音だけだから。あなたこそ、聖歌隊を抜けてよいのですか? 他の少年たちは大聖堂前に向かったようでしたが」
「私は正式な聖歌隊員ではありません。頼まれて臨時で加わっただけです」
「そうだったのですね。ところで、入場の時の歌声と式の時のものを比べると、入場の時の歌声に感銘を受けました。あれは何か理由があるのでしょうか」
「それは興味深い質問ですね。もしかして侍女の方も公女様と同じように感じられましたか?」
アンは急に話を振られて戸惑いつつも、式のことを思い返しているようだ。
「ラニア様のおっしゃっていることは何となくわかります。あの時、何か言葉にしがたい、胸がいっぱいになるような感じがしました。ただ、歌声でそう感じたのか、あの時に現れた青い鳥のせいでそう感じたのかはわかりません。思ったままのことを口にするなら、イマヘラ神がここにいるのだという気がしました」
ミントはどこか満足げな表情。
「あの鳥は私が飼っているイソヒヨドリです。籠から逃げ出してしまったようで、式を抜けて探していました」
「見つかったのですか?」
「ええ」
ミントは左手を頭上にかざした。青灰色の鳥がどこからともなく現れ、その手に止まる。




