悪魔との夜散歩(3)
騎士と公爵夫妻のいる前で、侍女長が私のナイトドレスをまさぐって所持品を調べた。もしかして仕組まれていたのかと心配したけれど、何も出てこなかった。
しばらくしてガゼボ周辺を捜索していた警備兵から「何も見当たらりませんでした」と報告があり、ひとまず私への疑惑は晴れた。さらに、異母妹の部屋から出てきた医師が次のような報告をした。
「毒物症状は見られず、熱もないようですし、神経症によるものかもしれません。頭痛と安眠の薬をお出ししました」
これで一段落とはいかなかった。アリシアは「一人になりたい」と言い、医者と一緒に侍女を部屋から追い出したらしいのだ。
公爵夫妻が黙り込んだのは舞踏会の夜のことを思い出したからだろう。一人閉じこもったアリシアの部屋から話し声が聞こえたことを。見張りの騎士が声を聞いてしまったら――そんなふうに頭を悩ませているに違いない。
妙な沈黙が部屋に落ち、アリシアを部屋まで運んだ騎士が一歩前に出た。
「王宮医を連れて来られるか王太子殿下に聞いてきます。どのみち報告はしなければなりませんから」
部屋を出ていこうとした騎士を、「お待ち下さい」と公爵夫人が止める。
「この年頃の若い娘なら一人になりたいこともあるでしょう。以前も同じように部屋にこもったことがありましたが、翌日にはいつも通りでした。それに、頭痛は慣れない飲酒のせいかもしれません」
「そうだな」と公爵。
「このまま様子をみるのがいいでしょう。王太子殿下への報告は必要でしょうが、王宮医までは」
「それは王太子殿下が判断なさることです。状況は違うことなく私がお伝えしますので、その上でどうするかは殿下にお任せください」
騎士が出ていったのを機に、私も別棟に戻ることになった。
双子はこっそり聞き耳を立てていたのか、部屋の前を通ったとき中で気配がした。私は気づかないふりをして素通りし、別棟連絡階段を上ったところで闇に浮かぶ出目金を見つけた。
「どこに行ってたんだ、果菜」
「色々あったのよ。悪魔と話してたら急に倒れて、演技かもしれないけど、今は部屋に閉じこもってる」
「やっぱりか! 東棟のほうがうるさいから行ってみようと思ったんだが、嫌な感じがしたから引き返したんだ。あの時ほどじゃないけどな」
驚きはしたが予想外というわけではなかった。
「ねえ、出目ちゃん。私の中身にのっぺりしたところはある? 自分では感じないけど」
「いつも通りだぞ」
アリシアの目は赤くなってなかったし、洗脳されたわけではなさそうだ。とはいえ、出目ちゃんが嫌な感じがするということは、彼女が悪魔の力を使ったと考えるのが妥当だろう。
アリシアとの会話を思い返しながら、私は自分の部屋に戻った。
いろいろ考えてみても周囲の人間に特に目立った変化があったわけではなく、むしろ一番おかしいのはアリシア本人。
ガゼボまでアリシアと散歩したという話をすると、出目ちゃんは意気揚々と窓から出ていき、しばらくして「あたりだ」と戻って来る。あたりというのは、ガゼボ周辺から屋敷方向に嫌な感じが広がっているということのようだ。
「だが、やはり前回よりかなりマシだぞ。もう消えかかってる感じがする」
アリシアはいったい何をしようとしたのか。
ミント入りの白ワインを飲み干したら、考えごとをしている途中で眠ってしまった。馬蹄の音で目が覚めたのは真夜中。
来訪者はレイモンド殿下とアーロン卿だった。情に厚い騎士はまた私の部屋の窓を見上げたが、足を止めることなく殿下を追っていく。馬車が見当たらないということは、王宮医は連れて来なかったのだろう。
殿下が私を疑って呼び出すのでは――そう考えてしばらく起きていたが、三十分ほどで公爵邸から出ていくのが見えた。帰りもアーロン卿はこっちを見たが、殿下はただ前だけを向いていた。




