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アンダーヒル侯爵家のお茶会(3)

 侯爵邸内は一気に騒然となった。侯爵夫妻も小侯爵スタンリー・アンダーヒルも不在らしく、レイラは「少し失礼します」と侍女長にお茶会を任せて部屋を出ていく。主催者の姿が見えなくなると、招待客の視線が私に集まった。


「どうされますか」


 アンが小声で聞いてくる。逃げたいのは山々だが、この視線を無視して隠れるのは現実的ではない。


「どのみちお茶会はもう終わりでしょうから、お二人にごあいさつに行きましょう。みなさまも、もうそろそろお帰りになる頃でしょう?」


 私は他の招待客に声をかけた。

 みな興味がないはずはなく、「もうこんな時間ですし」「殿下にお祝いの言葉を」と、あれこれ理由を口にしながら席を立ちはじめる。王族と接する機会に目を輝かせて足早に部屋を出ていく者もいれば、私の動向が気になるのかそばに寄ってくる者もいる。概して前者は男性、後者は女性。


 奥まった席にいた私は、必然的に最後尾で部屋を出ることになった。アンは隣を歩きながら、控室で仕入れてきた情報をささやく。


「三時前くらいに、大聖堂に王室馬車が入っていくのを見たという人がいました。ここと大聖堂とは近いですから」


「近いからといって王族が貴族の屋敷を気軽に訪ねたりしないわ。何かあったのかしら」


「公女様がお茶会に来られているからでは?」


 私とアンの会話に入ってきたのは中年の貴族女性。


「姉妹なのに家でも会えないのでしょう? 時間ができて、ちょうど近くにいる公女様に会いに来られたのではありませんか?」


「私がこのお茶会に来ることは、妹に伝える機会がありませんでした。父か、他の誰かから聞いたのかもしれませんね。

 ですが、お茶会はいつ来ていつ帰るか不確かなものです。無駄足となるかもしれませんのに、殿下がそのようなことのために時間を割くとは思えません。通常の執務に加えて、婚約式の準備をなさらねばならないのに」


「王太子殿下も公女様の様子が気になっていらっしゃるのではありませんか? いくら婚姻が政治的なものとはいえ、男女のことですもの」


 ドレスや装身具を見る限り高位貴族ではなさそうだった。皮肉ったり見下そうとしている感じはなく、ただ社交マナーに疎く、それが踏み込んだ発言につながっているようだ。


「娘が二人いるのです。政略結婚が女の宿命と言われても、振り回されて傷つかないわけはありません」


「お気遣い感謝します、夫人。ですが、私は王族の婚約者でいることを心苦しく思っていたのです。殿下に対しても、王国民の皆さまに対しても。今はむしろ肩の荷が下りた気持ちなのですよ」


 名前も知らない夫人のために話したわけではなく、ゴシップ好きな貴族たちに聞かせるつもりだった。


 一度目の人生では、私が王太子妃の座を奪おうとしているという噂が流れた。それがアリシアの策略だったのだから、今生でもいつそんな噂が立たないとも限らない。そうなった時のための予防線のつもりだった。

 

 ロビーは侯爵家の使用人と招待客で溢れている。そこに、モーセが海を割ったように正面扉まで一本の道ができていた。 


「フランクリン公爵令嬢」


 扉の脇に立つ騎士の髪が、傾いた陽光に透けて赤く輝いていた。

 アーロン・カーティスだ。

 彼は私を見つけるとまっすぐこちらに歩いてくる。

 人々は好奇の眼差しで彼と私を見比べている。


「カーティス卿? どうしてこちらに?」


「公女様をあちらにお連れするようにと」


 彼が指し示した先には、敷地に乗り入れた王室馬車があった。その傍らに立つのはレイモンド殿下、その腕に手をかけたアリシア。アリシアはレイラ・アンダーヒルと談笑している。



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