双子の見分け方(2)
通路が静まるとイーノックがハァと気の抜けた声を漏らした。デリックは私をひと睨みし、不機嫌さを隠さない。
「アリシアお姉様の部屋の前には今夜から見張りが立ってる。王室が派遣した騎士だから行ったところで会えない」
「そう。それなら出直すことにするわ」
「東棟には来るな。ここはおまえが来る場所じゃない」
「おれはむしろ別棟にいるこいつが羨ましいよ。お母様や家庭教師に小うるさく言われることもないし」とイーノック。
「イーノックは体動かしてるほうが好きそうだものね」
私がなにげなく言うと双子が同時にこっちを見た。なんでおまえが知ってるんだと言いたげだ。
「庭にふたりで一緒にいても、デリックはよくガゼボで本を読んでるでしょう。イーノックはずっと動いてるもの」
知らず見られていたことが心外らしく、デリックが警戒心を露わに私を見た。
「おまえ、さっき僕がデリックだってわかっただろう。なんでわかったんだ?」
「なんとなく?」
適当な返事では納得できないらしくデリックは不満そうだ。一方、イーノックは企むような笑みを浮かべた。
「じゃあ、おまえ向こう向いてろよ」
扉を指さし、私が素直に従うと背後でヒソヒソ話し声がする。「もういいぞ」と聞こえて振り返ると、予想通り双子が並んで立っていた。
「おれがどっちかわかるか?」
右の少年が言うと同時に、私は思わず笑った。二人一緒だと見比べられるからすぐわかってしまったのだ。
「なに笑ってんだよ」という左の少年がイーノック。
「〝おれ〟なんて言い方で騙そうとしても無駄よ。こっちがデリックで、こっちがイーノック」
デリックは悔しげに舌打ちし、イーノックは「もう一回」と私の背を押して後ろを向かせる。イーノックは完全に楽しんでいるようだった。そうして三回同じことを繰り返し、三回とも当てたところでデリックが「もういい」と投了してゲームは終了。
「僕らはもう寝るから、おまえは部屋に帰れ」
「そうね。子どもに夜更かしさせるわけにいかないし」
私の言い方が気に障ったのか、デリックは舌打ちしてベッドに潜り込んだ。イーノックはまだ納得してないのか「なんでわかるんだ?」とブツブツ言っている。
「夜着だとお母様もお父様もよく間違えるんだ。昼間だって服を交換すると簡単に騙されるしさ。使用人がおれらを見分けやすいように違う服にしてるってお母様は言うけど、本当は自分が見分けるためなんじゃないかって思うよ」
「アリシアは? アリシアはふたりの見分けがつくんじゃない?」
ふとした思いつきで聞いてみた。外見ではなく、悪魔は出目ちゃんのように〝洗脳されやすい・されにくい〟を感知できるのではないかと考えたのだ。
「あー、うん。ついてるみたいだけど……」
イーノックは妙に歯切れの悪い言い方をする。すると、デリックが布団から顔を出して「お姉様は僕らを間違えたことなんてない」とひと息に言って再び布団に潜り込んだ。
「イーノック、さっさと寝ろ」
デリックに急かされ、イーノックは少々不満げながらベッドに潜り込む。「おやすみなさい」と声をかけても返事はなく、私は大人しく部屋を出た。
カチャカチャと金属音が聞こえたのはそのとき。通路の奥からだ。
おそらく、帯剣した何者かがこちらに向かっている。
きっと、デリックが言っていた見張りの騎士だろう。
背後を振り返ると、ちょうど突き当たりの曲がり角から人影が現れた。
むこうもこちらに気づいたようだった。
私は刹那迷い、軽く会釈して背を向ける。
本当は駆け出したかったが、不審な行動は控えたほうがいい。それに、外部の人間なら私がここにいることを咎めることはない。
――そう考えて気持ちを落ち着けようとしたのに、背後の足音は明らかに速くなっていた。弟たちにも聞こえているはずだ。
「公女様」
ようやく踊り場にたどり着いた私を呼び止めたのは知った声。
東棟への連絡階段の真ん中、
こちらを見下ろしている騎士はアーロン・カーティスのようだった。
彼は私が逃げるとでも思っているのか、一歩ずつゆっくり近づいてくる。
「公女様、こんな夜更けにどちらに?」




