双子の見分け方(1)
アリシア・フランクリンは〝あの問題の異母姉〟を気遣う優しい公女――というのが世間の評だった。
実際、週に一、二度は私の部屋を訪ねてきて、どこに行ったのか、誰と会ったのか、両親とはどんな話をしたのかと、矢継ぎ早にたくさんの質問を投げかけてきた。探りを入れられていただけなのに、愚かな私はそれを自分への興味と好意だと勘違いしていた。
一度目の人生において、彼女が質問を口にしなかったのはレイモンド殿下との婚約が発表された日の夜。帰宅するなり部屋に来て、ひたすら謝罪の言葉を並べた。私は彼女の罪悪感を拭い去ろうと、必死で笑みを作っていた。
二度目の人生では婚約発表が早まったものの、同じようにアリシアが夜中に訪ねてくるだろうと考えていた。しかし彼女は現れず、使用人が寝静まったのを見計らって私は東棟に向かうことにした。
アリシアが一度目と違う行動をとったのはなぜか。
意図的に私を避けているのか。
ハルフォードさんの企みに気づいていたのか。
顔を合わせてみないことには、渦巻く不安が消えそうにない。
真っ暗な別棟通路を、ランプの明かりをたよりに歩いた。出目ちゃんはちょっと眠そうな顔で、ランプを持った私の手に胸ビレでしがみついている。
連絡階段までくると踊り場のガス灯で少し明るくなった。中東棟一階ロビーも完全に明かりが落とされるわけではなく、かすかに人の話し声。閉じられた正面扉の向こうに立っている、警備兵たちの声だ。
「そういえば、出目ちゃんは大丈夫なの? 前に弾けて死にそうって言ってたのに」
「あれはあの時だけだ。あの日の夜くらいには大丈夫だった」
「一時的なものだったってこと?」
「そういうことだろうな」
出目ちゃんが感じた〝水換えをさぼったような息苦しさ〟は、間違いなく悪魔の力に関する何かだ。あの数時間後――舞踏会翌朝にレイモンド殿下が訪問の先触れを寄越したことを考えると、アリシアの部屋から聞こえたという声は、殿下を洗脳するための呪文だった可能性もある。
しかし、どうも腑に落ちなかった。
ハルフォードさんから〝洗脳現場〟の話を聞いたせいだ。
執事が目撃した侍女長洗脳の光景を踏まえると、公爵家の部屋から王宮にいるレイモンド殿下に洗脳や暗示をかけられるとは思えない。あの日の急な訪問は、むしろ舞踏会の最中に暗示をかけていたと考えるのが自然だろう。それとも、悪魔の力を使った後しばらく力が漏出し続けるのだろうか。
「おい」
背後から突然声をかけられ、ランプを落としそうになった。まだ声変わりしていない声の主は、双子のどちらかだ。薄暗い通路では簡単には見分けがつかないけれど、
「あいつはデリックだ」と出目ちゃんが言った。
「のっぺりしてないが、全体的に〝凝ってる〟のがデリックだ。イーノックは凝ってるところそうでないとこがある」
「デリック、まだ起きてたの?」
名前を言い当てたことに驚いたのか、少年はビクと肩を震わせた。
「おまえこそ、こんな時間になんでここにいる。お姉様に何かするつもりか」
「何かって、婚約おめでとうって伝えたかったの」
「嘘をつけ。おめでとうなんて思ってないくせに。心の中ではお姉様を羨んでるんだろ?」
そのとき、双子の部屋の扉がキィと軋んだ音を立てて開いた。
「デリック? 何してんの?」
眠たげに目をこすっていたイーノックが、私の存在に気づいて覚醒する。声をあげそうになった彼の口をデリックが咄嗟に塞いところで、通路の奥から物音がした。
「お父様の部屋だ」とイーノック。
「部屋に戻るぞ、イーノック」とデリック。
デリックはイーノックの手を引いて部屋に入り、なぜかイーノックの手が私の腕を掴んだ。そのまま部屋に連れ込まれ、デリックが音をたてないようそっと扉を閉める。チッと舌打ちが聞こえた。
「おい、イーノック。なんでこいつまで連れて入るんだよ」
「えっ、だって、つい」
「ついじゃないだろ。見つかったらどうするんだよ。これだからおまえは抜けてるって言われるんだ」
「なんだと! だいたい、最初にこいつと話してたのはデリックじゃないか」
「シッ!」
私が人差し指を立てると、ふたりはようやく足音が近づいていることに気づいたようだ。そのまま息をひそめ、足音が通り過ぎるのを待つ。




