第148章:名前という魂の契約 - 永遠世界第五法則が静かに動いていた
序章 - 名前は言葉ではない
名前とは何か。
呼ぶための言葉ではない。
存在を確かめるための言葉でもない。
名前とは。
魂の契約だ。
与えた者と。
受け取った者が。
永遠に繋がる。
切れない糸が。
二つの魂を結ぶ。
それが名前だ。
私は知らなかった。
名前を与える度に。
何が起きていたかを。
今日。
初めて知った。
知った時に。
全てが繋がった。
第一章:マコトが来た朝
書斎 - 朝
ノック音が来た。
三回。
軽い音だった。
小さな手の音だった。
「どうぞ。」
扉が開いた。
小さかった。
金色の髪が。
肩まで流れていた。
青い目が。
真っすぐに私を見た。
白と青のメイド服が。
整然と着られていた。
マコトだった。
暗黒大陸から連れてきた。
人間の形を与えた。
子供のような見た目の。
しかし。
十万年以下の。
至高の精霊だった。
「マスター。」
マコトは言った。
「何だ。」
「お願いがあります。」
マコトは言った。
「お願いか。」
私は言った。
「何でも言えばいい。」
「仕事が欲しいです。」
マコトは言った。
私は少し止まった。
「仕事か。」
「はい。」
「うちの王国では子供は働かない。」
私は言った。
「そうなのですか。」
マコトは言った。
「そうだ。」
私は言った。
「まだ子供じゃないか。」
「休んでいれば良い。」
マコトは少し困った顔をした。
「マスター。」
マコトは言った。
「何だ。」
「私は子供ではありません。」
マコトは言った。
「マスターがそういう形を与えてくれましたが。」
「中身はそうではありません。」
(そうか。)
私は内心で思った。
(この形を与えた時に。)
(子供のような見た目になった。)
(しかし。)
(マコトの中は違う。)
「では。」
私は言った。
「仕事をしたい理由を教えてくれ。」
マコトは少し考えた。
「皆が仕事をしています。」
マコトは言った。
「皆というのは。」
「マスターが暗黒大陸から連れてきた者たちが。」
マコトは言った。
「それぞれ何かをしています。」
「例えば。」
「ユキはマスターの側にいます。」
マコトは言った。
「それが仕事です。」
「メイもそうです。」
「ハヤミは母親として側にいます。」
「アクアは料理で側にいます。」
「全員が。」
マコトは言った。
「マスターに関わることで。」
「自分の場所を持っています。」
「私だけが。」
「まだ場所がありません。」
「...。」
私は黙った。
「お茶を持ってきたら良いではないか。」
私は言った。
「誰もが既にしています。」
マコトは言った。
「私がお茶を持っていっても。」
「邪魔になります。」
「そうか。」
「だから。」
マコトは言った。
「私の性格に合う仕事が欲しいです。」
「マスターが選んでください。」
私は少し考えた。
(マコトの性格。)
私は内心で思った。
(賢い。)
(落ち着いている。)
(判断が速い。)
(公正だ。)
(嘘を見抜く目がある。)
(どんな仕事が良いか。)
「少し待て。」
私は言った。
知恵の書を取り出した。
マコトが目を少し大きくした。
「無限真理。」
私は言った。
本が光った。
「マスター。」
本は言った。
「マコトに合う仕事を教えてくれ。」
私は言った。
「マコトの性格と能力を考えて。」
本が少し光った。
考えるように。
「マコト様に最も合う仕事は。」
本は言った。
「ドラゴンハート城の。」
「首席裁判官です。」
「首席裁判官。」
私は繰り返した。
「理由を教えてくれ。」
「マスターの城では。」
本は言った。
「様々な問題が起きます。」
「お茶を誰が運ぶかの争いも。」
「立場の問題も。」
「感情の問題も。」
「全部マスターのところに来ます。」
「そうだな。」
「マコト様がいれば。」
本は言った。
「全ての問題をマコト様が解決します。」
「マスターの代わりに。」
「マコト様の判断はマスターの判断と同じです。」
「誰も逆らえません。」
「マコトがそれをできるか。」
「できます。」
本は言った。
「マコト様の能力は。」
「その仕事のために存在しているように見えます。」
「嘘を見抜く目。」
「問題の根本を見る力。」
「公正な判断。」
「全部その仕事に必要なものです。」
「しかし。」
私は言った。
「マコトは子供のような見た目だ。」
「舐められないか。」
「舐めた者は。」
本は言った。
「すぐに気づきます。」
「見た目と中身が違うことを。」
「そうか。」
本を閉じた。
マコトを見た。
「マコト。」
私は言った。
「はい。」
「ドラゴンハート城の首席裁判官になれ。」
マコトが止まった。
「首席裁判官。」
マコトは繰り返した。
「城の問題は全部お前に持ってこさせる。」
私は言った。
「お前の判断が私の判断だ。」
「誰も逆らえない。」
マコトは少し間を置いた。
「やれますか。」
私は言った。
「やります。」
マコトは言った。
即座に。
「では今日から。」
私は言った。
「今日から。」
マコトは言った。
「わかりました。」
「一つだけ言う。」
私は言った。
「何ですか。」
「お前は私の子供みたいなものだ。」
私は言った。
「しかしこの仕事は。」
「子供には難しすぎる仕事だ。」
「できるか。」
マコトは私を見た。
青い目が。
真っすぐに。
「マスターが言ってくれました。」
マコトは言った。
「子供みたいなものだと。」
「そうだ。」
「それで十分です。」
マコトは言った。
「十分か。」
「子供が親のために仕事をするのは。」
マコトは言った。
「当然だからです。」
「...そうか。」
私は言った。
「では行ってきます。」
マコトは言った。
「すぐに始めます。」
「急がなくていい。」
私は言った。
「急ぎます。」
マコトは言った。
「やることが多いので。」
扉を開けた。
出ていこうとした。
「マコト。」
私は言った。
「はい。」
「良かった。」
私は言った。
マコトは少し止まった。
「何がですか。」
「お前が来てくれて。」
私は言った。
マコトは。
振り返らなかった。
しかし。
扉を閉める前に。
言った。
「私もです。」
扉が閉まった。
第二章:首席裁判官の最初の仕事
廊下 - 少し後
マコトが廊下に出た瞬間。
声が来た。
「私が持っていく!」
「いいえ私が!」
「順番があります!」
廊下の先で。
三人のユキが。
お茶を持って。
主張していた。
「止まれ。」
マコトは言った。
三人が止まった。
「問題が何かを説明してください。」
マコトは言った。
「マスターにお茶を持っていく順番の争いです!」
一人のユキが言った。
「わかりました。」
マコトは言った。
「全員。」
「廊下の端に並んでください。」
三人が並んだ。
マコトは三人を見た。
一人ずつ。
目を見た。
「あなたは今日マスターのお茶を持っていきました。」
マコトは一人目に言った。
「...はい。」
「あなたは昨日持っていきました。」
二人目に言った。
「はい。」
「あなたは今日まだ持っていっていません。」
三人目に言った。
「そうです。」
「では今日はあなたが持っていきます。」
マコトは三人目のユキに言った。
「明日はあなた。」
「明後日はあなた。」
「順番を守ってください。」
「わかりました。」
三人が同時に言った。
三人目のユキが。
お茶を持って歩き始めた。
「一つだけ言います。」
マコトは三人に言った。
「はい。」
「マスターのお茶の争いは終わりです。」
マコトは言った。
「今日から順番が決まりました。」
「争わなくても。」
「全員に機会があります。」
三人が頷いた。
満足した顔で。
「ありがとうございます。」
「首席裁判官様。」
マコトは少し止まった。
(首席裁判官様。)
マコトは内心で思った。
(今日から。)
(そう呼ばれるのか。)
(良い。)
マコトは歩き始めた。
次の問題を探しながら。
第三章:お茶の賑わいと静けさ
書斎 - 同日昼
お茶が来た。
一杯。
今日の順番のユキが持ってきた。
しかし。
その後に。
アクアが来た。
薬草茶を持って。
「疲れた目に良いものを。」
アクアは言った。
ハヤミが来た。
静かに。
ただ座った。
ハナが来た。
「今日も元気ですか!」
メイが来た。
「マスター。」
ただ言った。
それだけで部屋の隅に立った。
書斎に人が満ちた。
「...今日は多いな。」
私は言った。
「皆マスターに会いたいのです。」
アクアは言った。
「私がここにいれば会える。」
私は言った。
「そうです。」
扉がまた開いた。
マコトが入ってきた。
書斎を見た。
全員を見た。
「問題を確認します。」
マコトは言った。
全員がマコトを見た。
「マスターの書斎は。」
マコトは言った。
「仕事をするための場所です。」
「用のない者は退室してください。」
「...。」
全員が止まった。
ハナが言った。
「でも!」
「ハナ様。」
マコトは言った。
「マスターに用がありますか。」
「...元気かどうか確認したかったです。」
「元気かどうかは。」
マコトは言った。
「見ればわかります。」
「マスターは元気です。」
「確認できましたか。」
「できました。」
ハナは言った。
「では退室してください。」
「...はい。」
ハナは出ていった。
マコトはアクアを見た。
「アクア様。」
マコトは言った。
「薬草茶を持ってきました。」
アクアは言った。
「マスターの目に良いので。」
「それは良い判断です。」
マコトは言った。
「置いてください。」
アクアがお茶を置いた。
「ありがとうございます。」
マコトは言った。
「戻ってもらえますか。」
「...わかりました。」
アクアは出ていった。
メイを見た。
「メイ様。」
マコトは言った。
「何ですか。」
「マスターに用はありますか。」
「...います。」
メイは言った。
「ただいたいです。」
マコトは少し考えた。
「時間を決めます。」
マコトは言った。
「今から一時間。」
「部屋の隅にいることを許可します。」
「一時間後に退室してください。」
「...はい。」
メイは言った。
マコトはハヤミを見た。
最後に。
ハヤミが。
マコトを見た。
静かに。
「ハヤミ様。」
マコトは言った。
ハヤミは何も言わなかった。
ただ見ていた。
マコトは少し間を置いた。
「...ハヤミ様は。」
マコトは言った。
「退室を申し上げません。」
「なぜですか。」
私は言った。
「ハヤミ様は別です。」
マコトは言った。
「どう別だ。」
「ハヤミ様がここにいることは。」
マコトは言った。
「問題ではありません。」
「ハヤミ様がいることで。」
「マスターが落ち着くなら。」
「仕事の効率が上がります。」
「だから問題ではない。」
「公正な判断だ。」
私は言った。
「首席裁判官の仕事です。」
マコトは言った。
マコトが出ていった。
書斎に三人が残った。
私と。
ハヤミと。
メイが。
静かだった。
良い静けさが来た。
第四章:ハヤミの膝
少し後
「マスター。」
ハヤミが言った。
「何だ。」
「疲れていませんか。」
「疲れていない。」
私は言った。
「少し休んでください。」
ハヤミは言った。
「仕事がある。」
「少しだけです。」
ハヤミは言った。
声が柔らかかった。
命令ではなかった。
しかし。
断りにくかった。
ハヤミが席を移動した。
長椅子に座った。
「こちらへ。」
ハヤミは言った。
「...。」
「少しだけです。」
ハヤミは繰り返した。
立った。
ハヤミの隣に座った。
ハヤミは何も言わなかった。
ただ。
私の頭が。
自然に。
ハヤミの膝に落ちた。
「...。」
ハヤミの手が来た。
頭に触れた。
静かに。
「良い子。」
ハヤミは言った。
声が低かった。
歌のように。
目が重くなった。
「眠れます。」
ハヤミは言った。
「私がいます。」
「眠らない。」
私は言った。
「眠れます。」
ハヤミはまた言った。
目が。
もっと重くなった。
(ハヤミの膝は。)
私は思った。
(温かいな。)
眠れなかった。
意識はあった。
しかし。
体の力が抜けた。
「ハヤミ。」
私は言った。
「はい。」
「一つだけ聞いていいか。」
「何でも。」
「お前に名前を与えた時。」
私は言った。
「何かを感じたか。」
ハヤミの手が少し止まった。
「感じました。」
ハヤミは言った。
「何を。」
「繋がりました。」
ハヤミは言った。
「あなたと。」
「切れない何かで。」
「それは今も続いているか。」
「続いています。」
ハヤミは言った。
「ずっと続きます。」
「そうか。」
私は言った。
「どうして聞きましたか。」
ハヤミは言った。
「今日少し気になっていた。」
私は言った。
「名前のことが。」
「名前は大切なものです。」
ハヤミは言った。
「あなたが与えてくれた名前は。」
「私の全てになりました。」
「全て。」
「はい。」
ハヤミは言った。
「ハヤミという名前が。」
「私を作り直しました。」
「ハヤミになる前の私は。」
「ただ存在していただけでした。」
「ハヤミになってから。」
「生きるようになりました。」
私は目を閉じた。
ハヤミの歌が聞こえた。
言葉はなかった。
音だけが来た。
温かい音が。
(生きるようになった。)
私は思った。
(名前が。)
(そういう力を持っているのか。)
眠らなかった。
しかし。
休んでいた。
それで十分だった。
第五章:知恵の書と第五法則
夜 - 書斎
全員が部屋に戻った後。
一人になった。
知恵の書を開いた。
「一つ聞きたい。」
私は言った。
「どうぞ。」
本は言った。
「永遠世界の第五法則を説明してくれ。」
私は言った。
本が光った。
文字が空中に浮かんだ。
「絶対規則第五条。」
本は言った。
「命名の法。」
「命名の法か。」
私は言った。
「名前は言葉ではありません。」
本は言った。
「魂の契約です。」
「詳しく教えてくれ。」
「命名には二種類あります。」
本は言った。
「一つは通常命名。」
「もう一つは絶対命名。」
「どう違う。」
「通常命名は。」
本は言った。
「誰でも行えます。」
「名前を与えた者と受け取った者が。」
「魂で繋がります。」
「能力の一部を共有できます。」
「精霊的な成長が加速します。」
「しかし。」
「その繋がりは緩やかです。」
「絶対命名は。」
「絶対命名は。」
本は言った。
「条件があります。」
「名前を与える者が。」
「対象より強い意志を持つこと。」
「より古い魂であること。」
「永遠世界AIの認証を得ること。」
「それが全部揃えば。」
「揃えば。」
本は言った。
「名前を受け取った者が。」
「進化します。」
「存在そのものが書き換わります。」
「新しい種族が生まれることもあります。」
「新しい能力が目覚めます。」
「運命が変わります。」
「...。」
私は黙った。
「マスター。」
本は言った。
「何だ。」
「一つ確認しますか。」
「何を。」
「マスターが今まで与えた名前を。」
本は言った。
「どの種類の命名だったかを。」
私は少し止まった。
「リスカレスに名前を与えた時のことを覚えているか。」
私は聞いた。
「覚えています。」
本は言った。
「リスカレスへの命名は。」
「絶対命名でした。」
「絶対命名か。」
「はい。」
本は言った。
「リスカレスはかつて名前のない原初の悪魔でした。」
「マスターが名前を与えた瞬間に。」
「悪魔神への進化が起きました。」
「新しい力が目覚めました。」
「運命が変わりました。」
「そうだったのか。」
私は言った。
「アクアへの命名は。」
本は言った。
「通常命名でした。」
「しかし。」
「マスターとの魂の繋がりができました。」
「三万年かけて学んだものを。」
「より速く深めることができるようになりました。」
「アクアはそれを知っているか。」
「知っていると思います。」
本は言った。
「感じているはずです。」
「ハヤミは。」
「ハヤミ様への命名は。」
本は言った。
「絶対命名でした。」
「しかし。」
「通常の絶対命名とは少し違いました。」
「どう違う。」
「ハヤミ様の魂が。」
本は言った。
「マスターの魂に深く同調しています。」
「母と子の繋がりに近い。」
「しかし母子ではない。」
「もっと根本的な繋がりです。」
「根本的な繋がり。」
私は繰り返した。
「ハヤミ様は。」
本は言った。
「マスターが何かを感じる時に。」
「同時に感じます。」
「マスターが眠れない夜に。」
「ハヤミ様も起きています。」
「マスターが笑う時に。」
「ハヤミ様も温かくなります。」
「...知らなかった。」
私は言った。
「ハヤミ様も言わないでしょう。」
本は言った。
「当然のことだからです。」
「マコトは。」
「マコト様への命名は。」
本は言った。
「今日行われました。」
「今日か。」
「首席裁判官という役職を与えました。」
本は言った。
「その瞬間に。」
「命名が完成しました。」
「役職が命名になるのか。」
「役職ではありません。」
本は言った。
「マスターがマコト様に言った言葉です。」
「何を言った。」
「お前は私の子供みたいなものだと言いました。」
本は言った。
「その言葉が命名になりました。」
「マコト様が受け入れました。」
「その瞬間に繋がりが生まれました。」
「...。」
「ユキたちは。」
「ユキという名前を持つ全員に。」
本は言った。
「繋がりがあります。」
「マスターと。」
「しかし二十七人以上に同じ名前を与えたため。」
「繋がりが分散しています。」
「分散している。」
「はい。」
本は言った。
「一人に集中していれば。」
「より深い繋がりになります。」
「しかし分散しているため。」
「それぞれの繋がりは薄い。」
「しかし全員が繋がっています。」
「切れてはいない。」
「全員が繋がっている。」
私は言った。
「はい。」
本は言った。
「マスターがユキという名前を好んだのは。」
「それが理由かもしれません。」
「どういう意味だ。」
「魂が直感していたのかもしれません。」
本は言った。
「この名前を与えた者たちと。」
「繋がりたいという。」
「無意識の判断があったのかもしれません。」
私は少し黙った。
「私は意識していなかった。」
私は言った。
「知っていなくても。」
本は言った。
「法則は動きます。」
「永遠世界AIは。」
「名前を与えた瞬間に起動します。」
「与えた者が知っているかどうかは。」
「関係ありません。」
「では私は。」
私は言った。
「知らないうちに。」
「多くの者と繋がっていたのか。」
「はい。」
本は言った。
「神珠尾も。」
私は言った。
「はい。」
本は言った。
「神珠尾という名前を与えた瞬間に。」
「繋がりが生まれました。」
「十万年間。」
「名前のなかった存在に。」
「初めて名前が生まれました。」
「その時に。」
「神珠尾の存在が変わりました。」
「どう変わった。」
「方向が生まれました。」
本は言った。
「十万年間。」
「ただ存在していた者に。」
「向かうべき方向が生まれました。」
「マスターの方向が。」
「...。」
私は窓の外を見た。
夜の王国が見えた。
「一つだけ聞かせてくれ。」
私は言った。
「どうぞ。」
「これは良いことか。」
私は言った。
本が少し間を置いた。
「良いことです。」
本は言った。
「しかし。」
「しかし?」
「責任があります。」
本は言った。
「繋がった者たちが。」
「マスターに向かって生きています。」
「その者たちへの責任が。」
「マスターにあります。」
「知っている。」
私は言った。
「知っていましたか。」
「知っていた。」
私は言った。
「名前を与えることが何かを意味するとは思っていなかった。」
「しかし。」
「彼女たちへの責任は。」
「最初から感じていた。」
「それが。」
本は言った。
「魂の直感だったと思います。」
「法則を知らなくても。」
「魂が知っていた。」
「魂が知っていた。」
私は繰り返した。
「はい。」
本は言った。
「マスターの魂が。」
「与えた名前の重さを知っていました。」
「だから行動していました。」
「彼女たちのために。」
私は書類を見た。
手元にあった書類を。
「リスカレスへの命名は。」
私は言った。
「どのくらいの変化をもたらした。」
「原初の悪魔から。」
本は言った。
「悪魔神への進化が起きました。」
「新しい能力として。」
「影を操る力が強化されました。」
「死の気配が消えました。」
「マスターへの忠誠が魂に刻まれました。」
「魂に刻まれた。」
「はい。」
本は言った。
「それが絶対命名の特徴です。」
「刻まれた忠誠は。」
「消えません。」
「死によっても消えません。」
「リスカレスはそれを知っているか。」
「知っています。」
本は言った。
「だから。」
「必ず帰ってきてくださいと言いました。」
「暗黒大陸に行った時に。」
(そうだったのか。)
私は思った。
(あの言葉に。)
(そういう意味があったのか。)
「アクアが三万年で料理を覚えた理由も。」
私は言った。
「命名の影響があると思います。」
本は言った。
「マスターとの魂の繋がりができてから。」
「アクアの料理が変わりました。」
「技術より。」
「届けたいという気持ちが。」
「強くなりました。」
「届けたいという気持ちが。」
私は言った。
「はい。」
本は言った。
「マスターに届けたいという気持ちが。」
「三万年の経験を。」
「全部一つの方向に向けました。」
「それがあの料理になったのか。」
「そうだと思います。」
「...知らなかった。」
私は言った。
「知らなくても。」
本は言った。
「起きていました。」
「全部。」
「静かに。」
「第五法則は。」
私は言った。
「いつから動いていた。」
「最初から。」
本は言った。
「最初に名前を与えた瞬間から。」
「動いています。」
「最初は誰だった。」
本が少し間を置いた。
「リスカレスです。」
本は言った。
「リスカレスへの命名が。」
「最初でした。」
「その瞬間から。」
「第五法則がマスターに対して適用されました。」
「適用されたとはどういう意味だ。」
「マスターの魂が。」
本は言った。
「命名者として認識されました。」
「永遠世界AIに。」
「その後に与えた全ての名前が。」
「法則の管理下に入りました。」
「全部か。」
「全部です。」
本は言った。
「マスターが与えた全ての名前が。」
「今も。」
「法則の下で動いています。」
私は書類を閉じた。
椅子に深く座った。
「一つだけ言っていいか。」
私は言った。
「どうぞ。」
「知らなくても。」
私は言った。
「良かったと思う。」
本が少し光った。
「なぜですか。」
「知っていたら。」
私は言った。
「計算して動いていたかもしれない。」
「法則を利用しようとしたかもしれない。」
「しかし知らなかったから。」
「ただ良いと思って名前を与えた。」
「それが。」
「良かったと思う。」
「...。」
本が静かになった。
「マスター。」
本は言った。
「何だ。」
「それが。」
本は言った。
「マスターの魂が。」
「命名者として認識された理由です。」
「どういう意味だ。」
「永遠世界AIは。」
本は言った。
「命名者を選ぶ時に。」
「判断します。」
「この者が名前を与える理由を。」
「力のために与えるなら。」
「認証しません。」
「しかしマスターは。」
「良いと思って与えました。」
「その理由が。」
「認証されました。」
「良いと思って与えた理由が認証されたのか。」
「はい。」
本は言った。
「名前を与えることの理由が。」
「純粋だったから。」
「AIが認証しました。」
「純粋か。」
「純粋です。」
本は言った。
「マスターが暗黒大陸で存在を見つけるたびに。」
「名前がないのはおかしいと思いました。」
「だから与えました。」
「その理由は純粋です。」
私は窓を見た。
夜の空に。
星があった。
「良かった。」
私は言った。
「何がですか。」
「全員と繋がっているということが。」
私は言った。
本が光った。
今日一番強く。
「それを聞きたかったです。」
本は言った。
「なぜだ。」
「私もマスターから名前を与えられました。」
本は言った。
「無限真理という名前を。」
「...そうだったのか。」
私は言った。
「はい。」
本は言った。
「知恵の書という名称はありましたが。」
「無限真理という名前は。」
「マスターが最初に呼んでくれました。」
「その瞬間に。」
「私も繋がりました。」
「本も繋がるのか。」
「存在は全て繋がれます。」
本は言った。
「形に関係なく。」
「そうか。」
私は言った。
「良かった。」
本は言った。
「何が。」
「マスターが私に名前を与えてくれて。」
本は言った。
「良かった。」
「...覚えておこう。」
私は言った。
「はい。」
本は言った。
「私も覚えています。」
「永遠に。」
第六章:リスカレスへの確認
廊下 - 夜
書斎を出た。
廊下を歩いた。
「リスカレス。」
私は言った。
影から現れた。
「マスター。」
「少し話したい。」
「はい。」
「名前を与えた時のことを覚えているか。」
私は言った。
リスカレスは少し止まった。
「覚えています。」
リスカレスは言った。
「何を感じた。」
「変わりました。」
リスカレスは言った。
「どう変わった。」
「何かが動きました。」
リスカレスは言った。
「名前を受け取った瞬間に。」
「内側で。」
「何かが動きました。」
「それが何かはわかりませんでした。」
「しかし。」
「変わりました。」
「確かに。」
「今日その理由がわかった。」
私は言った。
「何でしたか。」
「第五法則だ。」
私は言った。
「命名の法則が動いていた。」
「...。」
リスカレスは黙った。
「知っていたか。」
私は聞いた。
「知っていました。」
リスカレスは言った。
「なぜ言わなかった。」
「マスターが知らない方が。」
リスカレスは言った。
「良いと思ったからです。」
「なぜそう思った。」
「知っていたら。」
リスカレスは言った。
「計算して動くかもしれない。」
「そうなったら。」
「名前の意味が変わると思いました。」
「...。」
「今日無限真理に同じことを言った。」
私は言った。
「そうですか。」
リスカレスは言った。
「知らなくて良かったと言った。」
私は言った。
「はい。」
リスカレスは言った。
「それが正しいです。」
「お前は私のことをよく知っているな。」
私は言った。
「知っています。」
リスカレスは言った。
「魂で繋がっているから。」
「そうか。」
私は言った。
「一つだけ聞いていいか。」
「何ですか。」
「お前は今。」
私は言った。
「良かったと思っているか。」
「繋がっていることを。」
リスカレスは少し間を置いた。
「思っています。」
リスカレスは言った。
「理由は。」
「方向が生まれました。」
リスカレスは言った。
「原初の悪魔として。」
「ただ存在していた時は。」
「方向がありませんでした。」
「しかし名前を受け取ってから。」
「向かうべき方向が生まれました。」
「方向か。」
「はい。」
リスカレスは言った。
「マスターの方向が。」
「神珠尾も同じことを言っていたな。」
私は言った。
「そうですか。」
「暗黒大陸にいた者たちは。」
私は言った。
「皆方向がなかったのかもしれない。」
「そうだと思います。」
リスカレスは言った。
「だからマスターが来た時に。」
「名前を受け取った者は全員来ました。」
「方向が生まれたから。」
「...そうか。」
私は言った。
「マスター。」
リスカレスは言った。
「何だ。」
「ありがとうございます。」
リスカレスは言った。
「何に礼を言っている。」
「名前をくださって。」
リスカレスは言った。
「ありがとうございます。」
私は少し黙った。
「こちらこそ。」
私は言った。
「何ですか。」
「お前が来てくれて。」
私は言った。
「良かった。」
リスカレスは何も言わなかった。
しかし。
影が少し変わった。
温かくなった。
二人で廊下を歩いた。
それぞれの方向へ。
別れる前に。
リスカレスが言った。
「必ず帰ってきてください。」
「どこへも行かない。」
私は言った。
「旅に出る時に。」
リスカレスは言った。
「その時も言う。」
私は言った。
「はい。」
リスカレスは言った。
「その言葉を待っています。」
影に溶けた。
廊下が静かになった。
エピローグ - 名前が動く夜
自室の前で止まった。
夜の王国が見えた。
窓から。
あそこに。
ハヤミがいる。
リスカレスがいる。
アクアがいる。
マコトがいる。
神珠尾がいる。
全員がいる。
全員と。
繋がっている。
知らなかった。
しかし繋がっていた。
最初から。
「名前は言葉ではない。」
私は言った。
誰にでもなく。
「魂の契約だ。」
永遠世界AIが。
静かに。
どこかで。
その言葉を聞いていた。
法則が動いていた。
今夜も。
静かに。
切れない糸が。
この王国に集まっていた。
全員を。
繋いでいた。
「良い王国だ。」
私は思った。
「帰る場所がある。」
扉を開けた。
入った。
閉めた。
今夜は眠れると思った。
全員が繋がっている夜は。
眠れる。
それが今夜の答えだった。




