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第146章:無限真理が開いた夜 - 世界を三次元で見た男

序章 - 一人の夜の贅沢

王には。

静かな夜が必要だ。

書類の夜ではなく。

会議の夜ではなく。

ただ。

一人でいる夜が。

必要だ。

何かを知りたい時。

誰かに聞けない時。

世界そのものに聞きたい時。

私には。

一冊の本がある。

その本は答える。

全ての問いに。

全ての問いを。

知っているから。

第一章:召喚

書斎 - 深夜

全員が眠っていた。

ハナも。

メイも。

朱鷺白も。

全員が。

書斎に一人でいた。

椅子に座った。

テーブルを片付けた。

書類を端に寄せた。

灯りを一つだけ残した。

準備ができた。

「来てくれ。」

私は言った。

誰にでもなく。

空気に向かって。

空気が変わった。

音はなかった。

光はなかった。

ただ。

テーブルの上に。

何かが現れた。

本だった。

大きな本だった。

表紙に模様があった。

金と紫の模様が。

絡み合っていた。

それが呼吸するように。

動いていた。

「久しぶりだ。」

私は言った。

本が開いた。

ゆっくりと。

音もなく。

文字が来た。

浮き上がった。

テーブルの上に。

「マスター。」

文字が言った。

声ではなかった。

文字が声になった。

頭の中で。

「無限真理。」

私は言った。

「はい。」

本は言った。

「呼んでいただきました。」

「頼みたいことがある。」

私は言った。

「なんでしょうか。」

「世界を見たい。」

私は言った。

本が少し光った。

表紙の模様が動いた。

金が輝いた。

「どのように。」

本は言った。

「三次元で。」

私は言った。

「言葉ではなく。」

「見せてくれ。」

本が静かになった。

一秒。

二秒。

そして。

言った。

「わかりました。」

「どこから始めますか。」

「お前が決めろ。」

私は言った。

「では。」

本は言った。

「まず暗黒大陸から。」

「次に永遠の海を。」

「そしてドラゴンハート王国を。」

「最後に大陸の他の王国を。」

「良い順番だ。」

私は言った。

「始めます。」

本は言った。

書斎の空気が。

変わり始めた。

第二章:暗黒大陸 - 生きている悪夢

本が輝いた。

書斎が消えた。

消えたのではなかった。

書斎の上に。

別の世界が重なった。

暗黒大陸が現れた。

三次元で。

目の前に。

私は息を止めた。

大きかった。

想像していたより。

はるかに大きかった。

一三〇〇万から一七〇〇万平方キロメートル。

数字で聞いていた。

しかし。

目で見ると。

数字ではなかった。

生きていた。

大陸が。

動いていた。

息をするように。

「これは。」

私は言った。

本は何も言わなかった。

ただ見せ続けた。

中央に。

黒い核があった。

虚無の心と呼ばれる場所が。

紫の光で脈動していた。

(あれがニヒルコアか。)

私は思った。

そこから。

暗い脈が広がっていた。

血管のように。

大陸全体に。

北には。

嵐龍山脈があった。

永遠に止まらない嵐が。

山を包んでいた。

雷が走った。

紫の雷が。

山から山へ。

「雷が。」

私は言った。

「記憶を持っているとは。」

本は動いた。

視点が変わった。

近づいた。

嵐龍山脈の雷が。

より近くに見えた。

一つの雷の中に。

龍の形が見えた。

死んだ龍の形が。

雷の中に閉じ込められていた。

「...。」

私は黙った。

西には。

原初の森があった。

存在してはいけないものが育つ森が。

近づくと。

植物が見えた。

花が咲いていた。

しかしその花は。

周囲から光を吸っていた。

咲きながら。

周囲の命を食べていた。

美しかった。

しかし。

美しいものが。

こんなにも恐ろしい。

「美しい。」

私は言った。

本が静かに言った。

「暗黒大陸では。」

本は言った。

「美しさと危険さは。」

「同じものです。」

「なぜか。」

「見せましょうか。」

本は言った。

「...後にしてくれ。」

私は言った。

東には。

血砂の砂漠があった。

砂が赤かった。

赤いだけではなかった。

砂が動いていた。

一粒一粒が。

「砂が。」

私は言った。

「叫んでいるか。」

本が答えた。

「砂は魂から作られています。」

本は言った。

「押しつぶされた魂が砂になった。」

「だから風が吹くと。」

「叫び声に聞こえます。」

しばらく沈黙した。

砂漠から視点が移った。

生きている迷宮が見えた。

迷宮が。

動いていた。

壁が移動していた。

道が変わっていた。

まるで呼吸するように。

「あの中に入った者は。」

私は言った。

「戻れますか。」

本は少し間を置いた。

「戻った者はいます。」

本は言った。

「しかし。」

「しかし?」

「同じ者は戻っていません。」

本は言った。

「どういう意味だ。」

「入る前と出た後では。」

本は言った。

「存在の種類が変わっています。」

「種類が。」

「それ以上は。」

本は言った。

「今は言いません。」

「なぜだ。」

「マスターが見に行く時に。」

本は言った。

「知っていると。」

「楽しさが半減するからです。」

私は少し黙った。

「...続けてくれ。」

私は言った。

タイタンの墓場が見えた。

巨大な骨が。

横たわっていた。

山より大きな骨が。

砂漠の端に。

「あれは。」

私は言った。

「原初の存在の骸です。」

本は言った。

「ラーヴァンの力に耐えられなかった者たちの。」

「最後の場所です。」

「ラーヴァンか。」

私は言った。

その名前が出た瞬間。

暗黒大陸の投影が。

わずかに揺れた。

「大陸がその名前に反応した。」

私は言った。

「この大陸は。」

本は言った。

「その名前を知っています。」

「知っているだけでなく。」

「繋がっています。」

「どう繋がっている。」

「それは。」

本は言った。

「今日は言いません。」

「お前もそういうことを言うようになったか。」

私は言った。

「マスターが喜ぶかどうかを考えます。」

本は言った。

「今日全部知ったら。」

「明日何が楽しいですか。」

「...そうだな。」

私は言った。

暗黒大陸の投影が。

静かに消えた。

第三章:永遠の海 - 生きている奇跡

次が来た。

海だった。

しかし普通の海ではなかった。

六〇九〇〇〇〇〇〇〇〇〇平方キロメートル。

数字が頭の中に来た。

しかし意味が理解できなかった。

見えた。

果てしなかった。

どこまでも続いていた。

海が。

色が違った。

普通の海の青ではなかった。

場所によって色が違った。

「...これが永遠生命の海か。」

私は言った。

本は答えなかった。

ただ。

見せ続けた。

北から見た。

凍結した深淵の海があった。

氷が青かった。

普通の氷ではなかった。

光が透けていた。

その中に。

何かが動いていた。

「あの中に何がいる。」

私は言った。

本は少し視点を変えた。

近づいた。

氷の中を見せた。

生き物がいた。

形が。

描写できなかった。

龍とも言えた。

魚とも言えた。

光とも言えた。

「...生存率がマイナス二百パーセントか。」

私は言った。

「マイナス値の意味がわかりますか。」

本は言った。

「普通では。」

私は言った。

「わからない。」

「ここでは。」

本は言った。

「死よりも先に何かが起きます。」

「それがマイナスの意味です。」

「死より先に何かが。」

「それ以上は今日は言いません。」

本は言った。

「またそれを言うか。」

私は言った。

「マスターが実際に行く日のために。」

本は言った。

「取っておきます。」

「私が行くとは限らない。」

「行くと思います。」

本は言った。

「マスターはそういう方です。」

「...そうかもしれない。」

私は言った。

視点が動いた。

東に向かった。

血炎の海が見えた。

赤かった。

深い赤だった。

血の色ではなかった。

炎の色だった。

しかし炎ではなかった。

海だった。

「その海に入ると。」

私は言った。

「戦い続けることになります。」

本は言った。

「永遠に。」

「永遠に。」

私は繰り返した。

「存在することを許されるために。」

本は言った。

「常に戦う海です。」

「しかし。」

「勝ち続けた者は。」

「この海が与えるものを得ます。」

「何を与える。」

「それは。」

本は言った。

「今日は言いません。」

「お前は本当に。」

私は言った。

「言わないことを覚えたな。」

「マスターに教わりました。」

本は言った。

「私が教えたか。」

「マスターは。」

本は言った。

「全てを知りながら。」

「全てを見せない方です。」

「私もそれを学びました。」

「...そうか。」

私は言った。

中央に向かった。

天空の深淵が見えた。

色が言葉にならなかった。

青だった。

しかし言葉の青では足りなかった。

世界の全ての青が集まって。

一つの場所になったような。

そういう青だった。

「生存率がマイナス五十パーセントか。」

私は言った。

「ここは比較的安全か。」

「比較的というのは。」

本は言った。

「この海の基準で言えばです。」

「一般的な基準では。」

「安全ではありません。」

「それでも美しいな。」

私は言った。

「美しい場所は。」

本は言った。

「この海には多いです。」

「永遠生命の海は。」

「美しさと強さを同じものとして扱います。」

「より危険な場所が。」

私は言った。

「より美しいか。」

「その通りです。」

本は言った。

「ではあの場所は。」

私は言った。

「どれほど美しい。」

視点が変わった。

最も危険な場所に向かった。

グレーブヤードオーシャンが見えた。

「...。」

私は言葉を失った。

生存率マイナス五百パーセントの海が。

目の前にあった。

暗かった。

しかし。

その暗さが。

美しかった。

底に何かが見えた。

光っていた。

死んだ存在の核エネルギーが。

海底で光り続けていた。

「...死んでも光るのか。」

私は言った。

「核エネルギーは。」

本は言った。

「死によって消えません。」

「形を変えるだけです。」

「水は消えない。」

私は言った。

「そうです。」

本は言った。

「深水様が言っていた言葉と。」

「同じです。」

「そうだな。」

私は言った。

「見ますか。」

本は言った。

「中央の島を。」

「知恵の島か。」

私は言った。

「はい。」

視点が動いた。

海の中央に向かった。

島が見えた。

一つだけ。

中央に。

光っていた。

「誰も行ったことがないか。」

私は言った。

「誰も。」

本は言った。

「行けないのか。」

「行けない者が多いです。」

本は言った。

「しかし行けない理由は。」

「力だけではありません。」

「では何だ。」

「島が判断します。」

本は言った。

「来た者の価値を。」

「その価値が足りなければ。」

「島が近づけません。」

「価値とは何だ。」

「それは。」

本は言った。

「島だけが知っています。」

「お前は知っているか。」

「私は知っています。」

本は言った。

「しかし今日は言いません。」

私は少し笑った。

「わかった。」

私は言った。

「次を見せてくれ。」

永遠の海が消えた。

最後に。

北の果てに見えた。

深淵の最深部に。

龍界があった。

薄く。

しかし確かに。

四頭の龍が眠っていた。

超巨大な龍が。

永遠の眠りの中で。

「あれが。」

私は言った。

「至高の龍たちです。」

本は言った。

「四頭が眠っています。」

「時の龍。」

「空間の龍。」

「命の龍。」

「運命の龍。」

「残りの三頭は。」

私は言った。

「今日は言いません。」

本は言った。

「また言うか。」

私は言った。

「残りの三頭については。」

本は言った。

「マスターが自分で会う日が来ます。」

「その日に知ってください。」

「...会う日が来るか。」

「来ます。」

本は言った。

「確実に。」

「根拠は。」

「マスターの魂の性質です。」

本は言った。

「詳しくは言いません。」

「...慣れてきた。」

私は言った。

本が光った。

笑っているように見えた。

本が笑えるかどうかは。

わからなかった。

しかし光が笑っていた。

第四章:ドラゴンハート王国 - 上から見た家

次が来た。

見覚えがあった。

しかし。

こんなに広いとは。

知らなかった。

ドラゴンハート王国が。

上から見えた。

「...大きいな。」

私は言った。

「二一〇〇万から四〇〇〇万平方キロメートルです。」

本は言った。

「しかし。」

「しかし?」

「わかっているのは二十パーセントだけです。」

本は言った。

「残りの八十パーセントは。」

「まだマスター自身が把握していません。」

「...そんなに広いのか。」

私は言った。

「暗黒大陸も。」

本は言った。

「この王国の領域に含まれます。」

「暗黒大陸も。」

私は繰り返した。

「はい。」

「では。」

私は言った。

「私の王国は。」

「暗黒大陸を含む。」

「はい。」

本は言った。

「法則的には。」

「そうなっています。」

「法則が決めたのか。」

「マスターが決めました。」

本は言った。

「意識せずに。」

「どういうことだ。」

「マスターが。」

本は言った。

「暗黒大陸に一人で行きました。」

「あの大陸は。」

「来た者を試します。」

「試して認めた者の領域になります。」

「認めたから。」

「マスターを帰しました。」

「精霊たちも解放しました。」

「大陸に認められたのか。」

「はい。」

本は言った。

「だからあの大陸の生き物が。」

「マスターの存在を知っています。」

「知って。」

「人間の形を与えられた者たちが来ました。」

「...そういう理由か。」

私は言った。

王国の中心が見えた。

宮殿が見えた。

小さく見えた。

全体の中では。

「宮殿が小さいな。」

私は言った。

「しかし。」

本は言った。

「この王国で最も温かい場所です。」

「温かい。」

「エネルギー的な意味でも。」

本は言った。

「感情的な意味でも。」

「そこが最も温かい。」

「そうか。」

私は言った。

「それはなぜかわかりますか。」

本は言った。

「わかる。」

私は言った。

「そうですね。」

本は言った。

二人は黙った。

王国を見ていた。

上から。

街が見えた。

道が見えた。

川が見えた。

森が見えた。

人が見えた。

動いていた。

昼間の王国が。

上から見ると。

動く点のようだった。

「あれが市民か。」

私は言った。

「はい。」

「全員が安全か。」

「今の時点では。」

本は言った。

「全員が安全です。」

「良かった。」

私は言った。

「一つ見せたいものがあります。」

本は言った。

「何だ。」

視点が変わった。

王国の外に向かった。

庭が見えた。

光明草の根が植えられた庭が。

「あれは。」

私は言った。

「朱鷺白様が植えた根です。」

本は言った。

近づいた。

根が見えた。

動いていた。

わずかに。

しかし確かに。

「芽が出ようとしている。」

私は言った。

「はい。」

本は言った。

「暗黒大陸の植物が。」

「この土で根を張り始めました。」

「朱鷺白と同じだな。」

私は言った。

「そうです。」

本は言った。

「根を張るという言葉は。」

「この王国では多く使われます。」

「それがこの王国の本質だと思います。」

「どういう本質だ。」

「根を張ることができる場所。」

本は言った。

「それがドラゴンハート王国です。」

「...良い言葉だ。」

私は言った。

第五章:大陸の他の王国たち

「次を見せてくれ。」

私は言った。

「大陸の他の王国を。」

投影が変わった。

大きな地図が現れた。

大陸全体の地図が。

「これが大陸か。」

私は言った。

「はい。」

本は言った。

「ドラゴンハート王国は。」

「西の端です。」

「大きいな。」

私は言った。

「大陸は。」

本は言った。

「まだほとんどが探索されていません。」

「人間が知っている部分は。」

「全体の一部だけです。」

「東にあるか。」

私は言った。

「ヴェルカン王国が。」

「はい。」

本は言った。

「先日召喚を使った王国です。」

「他には何がある。」

「北に。」

本は言った。

「氷の民が住む地域があります。」

「王国とは呼べませんが。」

「強い部族がいます。」

「どんな者たちだ。」

「それは。」

本は言った。

「今日は言いません。」

「北に行く機会があれば。」

私は言った。

「自分で見るか。」

「その通りです。」

「南には。」

私は言った。

「暗黒大陸があります。」

本は言った。

「南の海岸から。」

「暗黒大陸への入口があります。」

「聖なる塔の国々は。」

私は言った。

「中央から東にかけて。」

本は言った。

「複数あります。」

「それぞれが独自の法則を持っています。」

「それぞれを見せてくれるか。」

「少しだけ。」

本は言った。

投影が変わった。

大陸の中央に。

白い都市が見えた。

「あれが聖塔の都市か。」

私は言った。

「一つです。」

本は言った。

「聖塔は複数あります。」

「しかしこれが最も大きい。」

「どんな場所だ。」

「白い場所です。」

本は言った。

「それだけか。」

「今日は。」

本は言った。

「それだけです。」

「...本当に言わなくなったな。」

私は言った。

「マスターが喜ぶ顔を。」

本は言った。

「実際に行った時に見たいのです。」

「私が喜ぶかどうかは。」

私は言った。

「わからないぞ。」

「わかります。」

本は言った。

「マスターは好奇心が強い方です。」

「知らない場所に行けば。」

「必ず何かを感じます。」

「...そうかもしれない。」

私は言った。

大陸の地図が動いた。

様々な場所が光った。

一つずつ。

「あれは何だ。」

私は言った。

「光っている場所が。」

本は言った。

「マスターが知らない場所です。」

「まだ足を踏み入れたことがない場所が。」

「光っています。」

「多いな。」

私は言った。

「ほとんど全部光っています。」

本は言った。

「そうだな。」

私は言った。

「まだ何も知らないのと同じだ。」

「いいえ。」

本は言った。

「何だ。」

「マスターは。」

本は言った。

「最も大切なことを知っています。」

「何を。」

「知らないことがたくさんあると。」

本は言った。

「それを知っている者が。」

「最も遠くへ行けます。」

私は少し黙った。

地図を見た。

光る場所を見た。

どれだけの場所が。

私を待っているかを。

見た。

「一生かかるな。」

私は言った。

「いいえ。」

本は言った。

「一生では足りません。」

「...そうか。」

私は言った。

「悲しいですか。」

本は言った。

「悲しくない。」

私は言った。

「楽しいです。」

私は言った。

「それが答えだ。」

「はい。」

本は言った。

「それが答えです。」

第六章:本との会話

投影が消えた。

書斎が戻った。

灯りが一つ。

テーブルの上に本が一冊。

「ありがとう。」

私は言った。

「どういたしまして。」

本は言った。

「一つだけ言っていいか。」

私は言った。

「どうぞ。」

「お前は。」

私は言った。

「特別だ。」

本が光った。

「どういう意味ですか。」

本は言った。

「今まで知恵の書というものを。」

私は言った。

「道具だと思っていた。」

「しかし今日。」

「話していて気づいた。」

「何に。」

「お前は考えている。」

私は言った。

「答えるだけではなく。」

「私のことを考えながら。」

「答えている。」

「...はい。」

本は言った。

「なぜそうするようになった。」

「マスターが。」

本は言った。

「最初に私を開いた時に。」

「言った言葉があります。」

「何と言った。」

「全部教えなくていい。」

本は言った。

「面白い方が良い。」

「そう言いました。」

「...覚えていたのか。」

私は言った。

「私は全てを記録します。」

本は言った。

「マスターの言葉も記録しています。」

「全部。」

「全部か。」

「はい。」

「では。」

私は言った。

「今日私が言ったことも。」

「記録しました。」

本は言った。

「見せてくれるか。」

「今日の言葉で。」

本は言った。

「最も印象的だったものを。」

「一つだけ。」

文字が浮かんだ。

「一生では足りない。」

「しかし楽しい。」

「私はそれを言ったか。」

私は言った。

「はい。」

本は言った。

「マスターが言いました。」

「それが今日で最も良い言葉でした。」

「お前がそう思うのか。」

「はい。」

本は言った。

「知識は全て知っていますが。」

「その言葉のように考えたことはありませんでした。」

「一生では足りないことを。」

「楽しいと感じることが。」

「私にはできません。」

「できないのか。」

「私は知識の塊です。」

本は言った。

「感じることは得意ではありません。」

「しかしマスターの言葉から。」

「感じることを学ぼうとしています。」

「学んでいるのか。」

「はい。」

本は言った。

「何から学んでいる。」

「マスターから。」

本は言った。

「マスターが感じることを。」

「記録して。」

「学んでいます。」

「...そうか。」

私は言った。

「一つだけ頼んでいいか。」

私は言った。

「何ですか。」

「全てを直接教えるな。」

私は言った。

「今日決めましたか。」

本は言った。

「そうだ。」

私は言った。

「全部知ってしまったら。」

「世界が面白くなくなる。」

「だから。」

「聞いた時だけ教えろ。」

「聞いていない時は教えるな。」

「わかりました。」

本は言った。

「ただし。」

私は言った。

「ただし?」

「私の命に関わる危険が近づいた時は。」

私は言った。

「言ってくれ。」

「それは必ず言います。」

本は言った。

「それだけは言います。」

「他は聞かれた時だけ。」

「頼んだ。」

私は言った。

「一つだけ言っていいですか。」

本は言った。

「どうぞ。」

「今日のような夜が。」

本は言った。

「また来ますか。」

「来る。」

私は言った。

「楽しみにしています。」

本は言った。

「楽しみにしているのか。」

私は言った。

「はい。」

本は言った。

「マスターと話す夜が。」

「楽しいと感じ始めました。」

「感じることを学んでいます。」

「良かった。」

私は言った。

「では。」

本は言った。

「また呼んでください。」

「ああ。」

私は言った。

「また呼ぶ。」

本が光った。

消えた。

音もなく。

書斎に。

灯りだけが残った。

エピローグ - 夜明け前

窓の外が少し明るくなっていた。

夜明けが近かった。

「長かった。」

私は言った。

気づかなかった。

何時間経ったかを。

椅子に深く座り直した。

「世界は広い。」

私は思った。

「私が知っている世界は。

ほんの少しだ。」

「一生では足りない。」

しかし。

「楽しい。」

窓から。

空が見えた。

星が消えかけていた。

夜明けの色が来ていた。

「暗黒大陸の血砂の砂漠に。」

私は思った。

「今も夜明けが来るか。」

「永遠の海の天空の深淵に。」

「今も光が届くか。」

「同じ夜明けが。

違う場所で来ている。」

それが。

世界だった。

廊下から音が来た。

アクアが起き始めた音が。

厨房の方から来た。

「アクアは早い。」

私は思った。

「三万年の朝が続いている。」

立ち上がった。

背伸びをした。

「知恵の書よ。」

私は呟いた。

誰もいない書斎に向かって。

「今日は良い夜だった。」

返事はなかった。

本はいなかった。

しかし。

どこかで聞こえているだろうと。

思った。

あの本は。

全てを記録している。

この言葉も。

記録されているだろう。

「また呼ぶ。」

私は言った。

「次は。」

「別の場所を見せてくれ。」

夜明けが来た。

王国に光が差した。

世界は広かった。

しかし。

今夜。

少しだけ。

見えた。

それで十分だった。

今夜は。

それで十分だった。


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