第138章:二人で歩いた王国の道 - 約束が守られた日の静かな幸せ
序章 - 守られた約束の重さ
約束が守られた時。
守った者より。
待っていた者が。
より深く感じる。
待つということは。
信じるということだから。
信じていた者が。
正しかったと証明される瞬間が。
来た時に。
その者の中で。
何かが溶ける。
固く張っていた何かが。
静かに。
溶ける。
メイは今日。
その瞬間を経験した。
第一章:迎えに行く朝
宮殿の廊下 - 朝
予定表を見た。
「散歩 メイと」と書いてあった。
自分で書いた文字が。
返ってきた。
「今日だ。」
私は言った。
書斎を出た。
廊下を歩いた。
メイの部屋へ向かって。
王国の朝は明るかった。
窓から光が入っていた。
廊下に影が長く伸びていた。
メイの部屋の前に着いた。
扉に手を上げた。
ノックした。
三回。
「はい。」
返事が来た。
すぐに来た。
待っていたような速さで来た。
「メイ。」
私は言った。
扉が開いた。
メイが立っていた。
準備が整っていた。
完全に。
服装がいつもと少し違った。
黒いメイド服だったが。
今日は少し丁寧に整えられていた。
髪も整えてあった。
「来ました。」
私は言った。
メイは動かなかった。
扉の前に立ったまま。
私を見た。
しばらく。
「...本当に来ました。」
メイは言った。
「約束した。」
私は言った。
「知っています。」
メイは言った。
「しかし。」
「しかし?」
「本当に来るとは。」
メイは言った。
「思っていませんでした。」
「なぜだ。」
「前回忘れていたので。」
メイは言った。
「今回は予定表に書いた。」
私は言った。
「書いたから覚えていたのですか。」
「それもある。」
私は言った。
「しかし今回は忘れなかった。」
メイは少し間を置いた。
「どうした。」
私は言った。
「早く行かないか。」
「はい。」
メイは言った。
扉を閉めた。
横に並んだ。
「では行こう。」
私は言った。
歩き始めた。
第二章:廊下での遭遇
宮殿の廊下 - 少し後
曲がり角で。
気配が来た。
速い気配が。
前方から。
ユイだった。
カードを回しながら。
廊下を歩いてきた。
「マスター!」
ユイは言った。
「どこへ行きますか!」
「散歩だ。」
私は言った。
「私も行きます!」
ユイは言った。
即座に。
カードが増えた。
嬉しそうに。
「来るな。」
私は言った。
「えーっ!」
ユイは言った。
「なぜですか!」
「今日はメイとの散歩だ。」
私は言った。
ユイはメイを見た。
メイはユイを見た。
静かに。
「今日はマスターと私の散歩です。」
メイは言った。
「そうなのですか。」
ユイは止まった。
「では。」
ユイは少し考えた。
「明日一緒に行ってもらえますか。」
ユイは私に向かって言った。
「来週な。」
私は言った。
「来週!」
ユイは言った。
「わかりました!」
「楽しみにしています!」
カードをくるくると回した。
嬉しそうに。
そのまま反対方向へ歩いていった。
「ユイ様は。」
メイは言った。
「何だ。」
「いつも元気ですね。」
メイは言った。
「そうだな。」
私は言った。
「疲れませんか。」
「本人は疲れていないだろう。」
私は言った。
「見ている方は。」
メイは言った。
「たまに疲れます。」
「そうか。」
私は言った。
「しかし。」
メイは続けた。
「しかし?」
「嫌いではないです。」
メイは言った。
「活気があります。」
「ユイと仲良くなったか。」
「少し。」
メイは言った。
「カードで現実を切り裂く方と。」
「どう仲良くなればいいかは。」
「まだわかりませんが。」
「そのままで良い。」
私は言った。
「ゆっくりで。」
「はい。」
二人で王国の門へ向かって歩いた。
第三章:王国の市場
王国の商業区 - 朝
市場が動いていた。
朝から。
声が飛び交っていた。
商人の声が。
客の声が。
子供の声が。
メイは少し足を遅くした。
「どうした。」
私は言った。
「人が多い。」
メイは言った。
「驚いたか。」
「少し。」
メイは言った。
「王国にこんなに人がいるとは。」
「毎日増えている。」
私は言った。
「宮殿の中からは見えませんでした。」
メイは言った。
「外に出なかったからだ。」
私は言った。
「はい。」
メイは言った。
「これが外ですか。」
「この王国の外だ。」
私は言った。
「宮殿の外という意味で。」
「活気があります。」
メイは言った。
「良い王国だろう。」
私は言った。
「はい。」
メイは言った。
「マスターが作った王国ですから。」
「私だけが作ったわけではない。」
私は言った。
「全員が作っている。」
「全員?」
「ここにいる全員が。」
私は言った。
「この王国を作っている。」
「市民一人ひとりが。」
「毎日ここで生きることで。」
「王国になっていく。」
メイは市場を見た。
歩きながら。
様々な者を見た。
エルフが野菜を売っていた。
ドワーフが工具を並べていた。
人間が布を広げていた。
精霊が光の飾りを売っていた。
「様々な種族がいますね。」
メイは言った。
「差別がない王国だ。」
私は言った。
「そう決めたのですか。」
「そう決めた。」
私は言った。
「最初に。」
「最初から決めていたのですか。」
「当然のことだと思っていたから。」
私は言った。
「決めたというより。」
「そういう場所にしたかっただけだ。」
メイは少し考えた。
「マスターは。」
メイは言った。
「どんな場所を作りたかったのですか。」
「安心できる場所だ。」
私は言った。
「それだけだ。」
「それだけですか。」
「それで十分だ。」
私は言った。
「安心できれば。」
「人は自然に良い方へ向かう。」
メイはまた市場を見た。
様々な者が。
様々な顔で。
普通に生きていた。
「安心しています。」
メイは言った。
「誰が。」
「私が。」
メイは言った。
「この王国に来てから。」
「安心しています。」
「暗黒大陸では違ったか。」
「暗黒大陸は。」
メイは言った。
「怖い場所でした。」
「常に何かに注意していないといけなかった。」
「眠っている間も。」
「ここは違うか。」
「違います。」
メイは言った。
「眠れます。」
「朝まで。」
「目が覚める時に。」
「驚かない。」
「それが普通だ。」
私は言った。
「普通ですか。」
メイは言った。
「私には普通ではなかったです。」
「今は普通になったか。」
「なりました。」
メイは言った。
「ここに来てから。」
「良かった。」
私は言った。
短い言葉だった。
しかし。
メイには届いた。
確かに届いた。
第四章:果物屋の前で
市場の中 - 少し後
果物屋の前を通りかかった。
メイが少し足を止めた。
「何だ。」
私は言った。
「あれは。」
メイは言った。
「何ですか。」
見た。
光る果物が並んでいた。
深い紫色に光っていた。
見たことがない果物だった。
「神秘果だ。」
私は言った。
「北の高山でしか採れない。」
「甘さと苦さが同時にある。」
「食べたことがありますか。」
メイは聞いた。
「一度だけ。」
私は言った。
「美味しかったですか。」
「珍しい味だった。」
私は言った。
「好きかどうかは人による。」
「食べてみたいです。」
メイは言った。
「では買おう。」
私は言った。
「え。」
メイは言った。
「買うぞ。」
私は言った。
果物屋に近づいた。
「いくらだ。」
私は店主に聞いた。
店主は私を見た。
少し驚いた顔をした。
ドラゴンハートの王が。
直接来たことに。
「い。一つ銀貨三枚です。」
店主は言った。
「二つくれ。」
私は言った。
銀貨を渡した。
果物を二つ受け取った。
「ありがとうございます!」
店主は言った。
「良い店だ。」
私は言った。
「また来る。」
店主が深く頭を下げた。
メイに渡した。
「どうぞ。」
私は言った。
メイは受け取った。
両手で。
丁寧に。
「食べてみろ。」
私は言った。
メイは少し見た。
紫の光を。
一口食べた。
表情が動いた。
驚きから。
考えに。
そして。
「...甘い。」
メイは言った。
「しかし。」
「しかし?」
「後から苦い。」
メイは言った。
「そういう果物だ。」
私は言った。
「好きですか嫌いですか。」
メイは私に聞いた。
「どちらともいえない。」
私は言った。
「では私と同じです。」
メイは言った。
「メイはどうだ。」
「どちらともいえません。」
メイは言った。
「しかし。」
「しかし?」
「もう一口食べたいです。」
メイは言った。
「それが好きということだ。」
私は言った。
「そうですか。」
メイは言った。
「では好きです。」
もう一口食べた。
私も自分の分を食べた。
確かに珍しい味だった。
甘さと苦さが。
同時にあった。
「人生みたいな果物ですね。」
メイは言った。
「何だ。」
「甘さと苦さが同時にある。」
メイは言った。
「人生もそうではないですか。」
「詩的なことを言う。」
私は言った。
「暗黒大陸では詩を読んでいました。」
メイは言った。
「そうか。」
私は言った。
「一人でいる時間が長かったので。」
メイは言った。
「本を読んでいました。」
「ここには本がある。」
私は言った。
「王国の図書室に。」
「知っています。」
メイは言った。
「時々行っています。」
「本を読んでいるのか。」
「はい。」
メイは言った。
「マスターがいない時間に。」
「良いことだ。」
私は言った。
果物を食べ終えた。
歩き続けた。
第五章:広場のベンチ
王国の中央広場 - 午前
広場に着いた。
王国の中央に。
広い場所があった。
木が植えられていた。
ベンチがいくつかあった。
「少し座るか。」
私は言った。
「はい。」
ベンチに座った。
二人で。
木の下に。
風が来た。
秋の終わりの風が。
少し冷たかった。
「寒いか。」
私は言った。
「いいえ。」
メイは言った。
「ちょうど良いです。」
広場を見た。
子供たちが遊んでいた。
鬼ごっこのようなことをしていた。
笑い声が聞こえた。
「にぎやかですね。」
メイは言った。
「子供たちが多い。」
私は言った。
「最近増えた。」
「良いことですね。」
メイは言った。
「なぜ良いと思う。」
「子供がいる場所は。」
メイは言った。
「安心できる場所だから。」
「子供は危ない場所には来ません。」
「子供がいるということは。」
「安全だということです。」
「三万年分の観察だな。」
私は言った。
「いいえ。」
メイは言った。
「私の観察です。」
「私もかつては小さかったので。」
「精霊も小さい時があるのか。」
私は聞いた。
「あります。」
メイは言った。
「私も小さかった時は。」
「安心できる場所を探していました。」
「見つかったか。」
「見つかりませんでした。」
メイは言った。
「暗黒大陸では。」
「ここでは。」
私は言った。
「ここでは見つかりました。」
メイは言った。
「何が見つかった。」
「安心できる場所が。」
メイは言った。
「それで十分だ。」
私は言った。
子供が一人転んだ。
泣き声が来た。
しかし。
すぐに別の子供が来て。
手を引いた。
また走り始めた。
「転んでもすぐ立ちました。」
メイは見ながら言った。
「子供はそういうものだ。」
私は言った。
「大人になると。」
メイは言った。
「転んだまま立てないことがあります。」
「そうだな。」
私は言った。
「マスターは転んでも立てますか。」
メイは私に聞いた。
「転んだことがある。」
私は言った。
「本当ですか。」
「ある。」
私は言った。
「しかし立った。」
「なぜ立てましたか。」
「転んだままでいる理由がなかったから。」
私は言った。
メイは少し考えた。
「単純ですね。」
メイは言った。
「単純なことが正しいことが多い。」
私は言った。
「はい。」
メイは言った。
「私も転んだことがあります。」
「暗黒大陸で。」
「はい。」
「立てましたか。」
「立てませんでした。」
メイは言った。
「しばらく。」
「しかし。」
「しかし?」
「マスターが来ました。」
メイは言った。
「暗黒大陸に。」
「一人で来ました。」
「それで立てました。」
私は少し間を置いた。
「大げさだ。」
私は言った。
「大げさではありません。」
メイは言った。
「事実です。」
風がまた来た。
葉が揺れた。
子供たちが笑い声を上げた。
「マスター。」
メイは言った。
「何だ。」
「今日散歩に来てくれて。」
メイは言った。
「ありがとうございます。」
「また言うか。」
私は言った。
「言います。」
メイは言った。
「言いたいので。」
「そうか。」
私は言った。
「ありがとうございます。」
メイはもう一度言った。
「一度で十分だ。」
私は言った。
「二度言いたかったです。」
メイは言った。
「...そうか。」
私は言った。
第六章:帰り道
王国の道 - 昼前
帰ることにした。
昼が近かった。
アクアが昼食を準備しているだろう。
市場の道を通って帰った。
朝より人が多かった。
昼前が一番賑わう時間だった。
「マスター。」
メイは言った。
「何だ。」
「あの店。」
メイは言った。
前を見た。
花屋があった。
様々な色の花が並んでいた。
青い花が目立った。
「気に入ったか。」
私は言った。
「あの青い花が。」
メイは言った。
「きれいです。」
「買うか。」
私は言った。
「いいえ。」
メイは言った。
「なぜだ。」
「見るだけで十分です。」
メイは言った。
「持って帰っても。」
「いつか枯れます。」
「だから見るだけにします。」
「枯れる前に飾れる。」
私は言った。
「飾っても枯れます。」
メイは言った。
「枯れる時の方が。」
「悲しいです。」
「だから最初から持たない方が良い。」
「...難しい考え方だ。」
私は言った。
「そうですか。」
メイは言った。
「せっかくだから買おう。」
私は言った。
「え。」
花屋に近づいた。
「その青い花を一本くれ。」
私は言った。
花屋の者が選んでくれた。
一番綺麗な一本を。
受け取った。
メイに渡した。
「マスター。」
メイは言った。
「枯れても良い。」
私は言った。
「枯れるまでの時間がある。」
「その時間の方が長い。」
メイは花を見た。
青い花を。
「...そうですね。」
メイは言った。
「枯れるまでの時間がある。」
「大切にしろ。」
私は言った。
「はい。」
メイは言った。
花を丁寧に持った。
両手で。
「ありがとうございます。」
メイは言った。
「今日何回目だ。」
私は言った。
「数えていません。」
メイは言った。
「数えなくていいくらいですか。」
「はい。」
メイは言った。
宮殿が見えてきた。
エピローグ - 宮殿への帰還
宮殿の門前 - 昼
門に着いた。
警備兵が頭を下げた。
「お帰りなさいませ。」
「ただいま。」
私は言った。
「お帰りなさいませ。」
メイも言われた。
メイは少し驚いた顔をした。
「どうした。」
私は言った。
「私もお帰りなさいと言ってもらいました。」
メイは言った。
「当然だ。」
私は言った。
「ここはお前の場所でもある。」
メイは門を見た。
宮殿を見た。
「帰ってきた。」
メイは言った。
「帰ってきた。」
私は言った。
「はい。」
廊下に入った。
すぐに声が来た。
「マスター!」
ユイが来た。
速く。
「帰りましたか!」
ユイは言った。
「どうでしたか!」
「楽しかったですか!」
「どこへ行きましたか!」
「市場と広場だ。」
私は言った。
「私もお昼に市場に行きました!」
ユイは言った。
「一人でですか。」
メイは言った。
「はい!」
ユイは言った。
「カードを回しながら!」
「一人で行けたのか。」
私は言った。
「マスターが行けと言ったので!」
ユイは言った。
(そうか。)
私は内心で思った。
(先週一人で行けと言ったことを。)
(ユイは守っていたのか。)
「良く行った。」
私は言った。
「えへ。」
ユイは言った。
カードをくるくると回した。
メイはユイを見た。
少し。
「ユイ様。」
メイは言った。
「なんですか!」
「一人で行けて良かったです。」
メイは言った。
ユイが止まった。
「メイ様が褒めてくれた。」
ユイは言った。
珍しいことのように。
「褒めていません。」
メイは言った。
「事実を言っただけです。」
「同じです!」
ユイは言った。
メイは少し間を置いた。
「...そうですか。」
メイは言った。
ユイが嬉しそうにまた廊下を走っていった。
「変わった方ですね。」
メイは言った。
「そうだ。」
私は言った。
「しかし。」
メイは言った。
「しかし?」
「素直で良いと思います。」
メイは言った。
「私よりも。」
「お前も素直だ。」
私は言った。
「私は素直ではありません。」
メイは言った。
「どこが素直でないと思う。」
「マスターに会いたいと言えずに。」
メイは言った。
「廊下に六時間立っていました。」
「...そうか。」
私は言った。
「会いたければ言えば良かったのです。」
メイは言った。
「それができれば苦労しません。」
「次からは言え。」
私は言った。
「言います。」
メイは言った。
「本当か。」
「...言います。」
メイは言った。
今度は少し自信なさそうに。
「ならば良い。」
私は言った。
「マスター。」
メイは言った。
「何だ。」
「今日。」
メイは言った。
「楽しかったですか。」
私は少し考えた。
「良かった。」
私は言った。
「良かったは楽しかったということですね。」
メイは言った。
「翻訳するな。」
私は言った。
「でも合っていますよね。」
メイは言った。
「...合っている。」
私は言った。
メイが。
少し笑った。
音はなかった。
しかし確かに笑った。
青い花を持ちながら。
「次の散歩は。」
メイは言った。
「また約束しますか。」
「する。」
私は言った。
「来月の同じ日に。」
「来月。」
メイは言った。
「今度は予定表に書かなくても覚えていますか。」
「書く。」
私は言った。
「なぜですか。」
「書いた方が確実だから。」
私は言った。
「前回は書いたから覚えていましたよね。」
「そうだ。」
「では書くのが正しいですね。」
メイは言った。
「そうだ。」
私は言った。
「マスターは合理的ですね。」
メイは言った。
「当然だ。」
「好きです。」
メイは言った。
「何が。」
「合理的なところが。」
メイは言った。
「マスターの。」
「...そうか。」
私は言った。
書斎へ向かった。
メイが横を歩いた。
青い花を持ちながら。
「書斎まで来るか。」
私は言った。
「来ていいですか。」
「来るなとは言っていない。」
私は言った。
「では来ます。」
メイは言った。
「しかし。」
私は言った。
「しかし?」
「その花を部屋に置いてから来い。」
私は言った。
「枯れるまでの時間を。」
「部屋でも楽しめる。」
メイは花を見た。
青い光の花を。
「...はい。」
メイは言った。
「部屋に置いてきます。」
「すぐに来ます。」
「急がなくていい。」
私は言った。
「でも急ぎます。」
メイは言った。
走っていった。
廊下を。
花を抱えながら。
急いで。
「急がなくていいと言ったが。」
私は思った。
「まあ良い。」
書斎へ向かった。
廊下の窓から。
王国が見えた。
市場が見えた。
子供たちが走っていた。
「良い王国だ。」
私は思った。
「今日も。」
書斎に入った。
五分後。
ノック音が来た。
三回。
「どうぞ。」
扉が開いた。
メイが入ってきた。
息が少し上がっていた。
「走ってきたか。」
私は言った。
「少し。」
メイは言った。
「急がなくていいと言ったが。」
「早く来たかったので。」
メイは言った。
「...そうか。」
私は言った。
「花は部屋に飾りました。」
メイは言った。
「窓際に。」
「光が当たるか。」
「当たります。」
メイは言った。
「一番良い場所に置きました。」
「良かった。」
私は言った。
「大切にします。」
メイは言った。
「枯れるまで。」
「枯れるまでが長い。」
私は言った。
「はい。」
メイは言った。
「そう思うことにします。」
部屋の隅に立った。
いつもの場所に。
書類を開いた。
仕事を続けた。
「マスター。」
少し後にメイは言った。
「何だ。」
「今日は良い一日でした。」
メイは言った。
「そうか。」
「来月の散歩も楽しみです。」
メイは言った。
「忘れない。」
私は言った。
「信じます。」
メイは言った。
書斎が静かになった。
良い静けさが来た。
窓から光が入ってきた。
昼の光が。
「マスター。」
またメイは言った。
「今度は何だ。」
「来月。」
メイは言った。
「また神秘果を食べたいです。」
「覚えておこう。」
私は言った。
「予定表に書きますか。」
「...書く。」
私は言った。
「ありがとうございます。」
メイは言った。
「今日何回目だ。」
「数えていません。」
メイは言った。
「数えなくていいくらいですか。」
「はい。」
メイは言った。
書類を書いた。
来月の予定表に。
「散歩 メイと 神秘果」と。
「書きました。」
私は言った。
「見ていいですか。」
「どうぞ。」
メイが来た。
予定表を見た。
「...神秘果まで書いてくださいました。」
メイは言った。
「忘れないためだ。」
私は言った。
「ありがとうございます。」
メイは言った。
「また言うか。」
「言います。」
メイは言った。
「言いたいので。」
「そうか。」
私は言った。
メイが部屋の隅に戻った。
また立った。
書斎が静かになった。
今日の散歩は終わった。
良い散歩だった。
来月も。
予定表に書いてあった。
今度は忘れない。
窓の外で。
風が吹いた。
メイの部屋の窓際で。
青い花が揺れているかもしれなかった。
枯れるまでの時間が。
まだあった。
それで十分だった。
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