第137章:昨日を忘れた王と忘れなかったメイ - 支払いの時間がやってきた
序章 - 約束には種類がある
約束には種類がある。
守ると言って守る約束。
守ると言って忘れる約束。
言わなかったが守られる約束。
言わなかったが守られない約束。
しかし。
最も危険な約束がある。
相手が覚えていて。
自分が忘れた約束だ。
その約束は。
必ず翌日に戻ってくる。
相手と共に。
決意と共に。
そして。
請求書と共に。
第一章:一日目 - 散歩の話
宮殿の書斎 - 午後
書類があった。
多かった。
三ヶ月分の経済報告が。
冒険者の統計が。
新しい商人の申請が。
全部重なっていた。
私は書類を見ていた。
一枚一枚を。
丁寧に。
扉が開いた。
ノックがあった。
今日はちゃんとノックがあった。
「マスター。」
メイが入ってきた。
「何だ。」
私は書類から目を上げずに言った。
「お散歩に行く時間になりました。」
メイは言った。
私は手を止めた。
「散歩?」
「はい。」
メイは言った。
「マスターと散歩に行く予定でした。」
私は書類を見た。
また書類を見た。
(散歩。)
(散歩の予定があったか。)
(いつのことだ。)
(昨日か。)
(一昨日か。)
(三ヶ月前か。)
わからなかった。
「今日は書類が多い。」
私は言った。
「後でどうだ。」
メイは止まった。
「後では。」
メイは言った。
「いつですか。」
「今日の夜か。」
私は言った。
「または明日でもいい。」
「明日。」
メイは繰り返した。
「そうだ。明日は必ず行こう。」
私は言った。
「...はい。」
メイは言った。
静かに出ていった。
扉が閉まった。
私は書類に戻った。
仕事を続けた。
今日も平和な午後だった。
第二章:廊下のメイ - 内心
廊下 - 同日
メイは廊下を歩いた。
ゆっくりと。
(明日。)
メイは思った。
(マスターは明日と言った。)
(昨日も似たようなことを言っていた気がする。)
(待って。)
(昨日。)
(昨日のことを思い出した。)
(マスターと話した。)
(夜に。)
(書斎で。)
(あの約束だ。)
(マスターは言った。)
(もし来なかったら。)
(と言っていた。)
(忘れているのか。)
メイは思った。
(マスターが昨日のことを。)
(忘れているのか。)
足が止まった。
(そういうことか。)
(散歩の誘いに来た私を。)
(ただ書類が多いからと。)
(明日にした。)
(昨日の約束を覚えていれば。)
(そうはならなかったはずだ。)
(忘れている。)
メイは少し間を置いた。
(怒るべきか。)
メイは考えた。
(いや。)
(マスターは忙しい。)
(書類が多い。)
(仕方がない。)
(では。)
(明日。)
(明日に思い出させよう。)
メイは歩き始めた。
今度は少し速く。
(明日のメイは。)
(今日のメイとは違う。)
(マスターが昨日言ったことを。)
(思い出させてあげる。)
(それが。)
(明日の私の仕事だ。)
廊下が静かだった。
しかし。
メイの頭の中は。
静かではなかった。
第三章:二日目 - メイが変わった朝
書斎 - 翌朝
ノック音が来た。
朝から。
早く。
「どうぞ。」
扉が開いた。
メイが入ってきた。
今日は違った。
立ち方が。
目の力が。
昨日より。
何かが違った。
「マスター。」
メイは言った。
「ああ。」
私は書類を見ながら言った。
「今日は。」
メイは言った。
「マスターに。」
「私の言うことを聞いていただきます。」
私は手を止めた。
「どういう意味だ。」
「昨日のことを。」
メイは言った。
「マスターは覚えていますか。」
(昨日。)
私は内心で考えた。
(昨日は何があった。)
(書類を処理した。)
(夕食を食べた。)
(メイが書斎に来た。)
(散歩に来た。)
(明日行くと言った。)
(それだけだったか?)
「散歩の話か。」
私は言った。
「散歩ではありません。」
メイは言った。
(散歩ではない。)
(では何だ。)
「もう少し前の話です。」
メイは言った。
(もう少し前。)
(昨日の。)
(夕食前か。)
(夕食後か。)
「...。」
私は言葉が出なかった。
メイは私を見た。
静かに。
しかし確かに。
「マスター。」
メイは言った。
「忘れていますね。」
「...。」
「わかりました。」
メイは言った。
「では思い出させてあげます。」
第四章:約束の言葉
「マスターは言いました。」
メイは言った。
「もし私が来なかったら。」
「私の言うことを何でも聞くと。」
私は少し止まった。
(何でも聞く。)
(言ったか。)
(そんなことを言ったか。)
(...言った気がする。)
「それで。」
私は言った。
「私が来なかったということか。」
「昨日。」
メイは言った。
「私が散歩に誘いに来た時。」
「マスターは書類があると言いました。」
「明日行こうと言いました。」
「それは来なかったということではない。」
私は言った。
「私が迎えに行った時に来なかったのです。」
メイは言った。
「...。」
「マスターは来るはずでした。」
メイは続けた。
「私の部屋に。」
「散歩に連れていくために。」
「しかし来なかった。」
(待て。)
私は内心で思った。
(メイの部屋に迎えに行くという約束だったか。)
(書類が多くて忘れていた。)
(そういうことか。)
「...確かに言った。」
私は認めた。
「ありがとうございます。」
メイは言った。
「では。」
「何でも聞くのですね。」
メイは言った。
「私の言うことを。」
「合理的な範囲で。」
私は言った。
「マスターが言った言葉に。」
メイは言った。
「合理的という言葉はありませんでした。」
「...。」
「約束は約束です。」
メイは言った。
「マスターは守る方ですよね。」
「そうだ。」
私は言った。
「では。」
メイは言った。
少し間を置いた。
「まず一つだけお願いしてもいいですか。」
「言ってみろ。」
メイは私を見た。
青い目が。
私を真っすぐに見た。
「キスしてください。」
私は止まった。
完全に。
「何を言った。」
「キスしてください。」
メイはまた言った。
同じ声で。
同じ顔で。
(キス。)
私は内心で思った。
(メイという存在は。)
(どこか娘のような存在だ。)
(こんなにも純粋で。)
(こんなにも無邪気で。)
(キスか。)
(娘に対するようなものならば。)
(一つくらいは。)
(できないことでもない。)
「わかった。」
私は言った。
メイが少し動いた。
目が丸くなった。
「本当ですか。」
「約束したなら守る。」
私は言った。
立った。
メイに近づいた。
メイは動かなかった。
ただ立っていた。
静かに。
額に。
触れた。
軽く。
一瞬だけ。
「これでいいか。」
私は言った。
メイは止まった。
しばらく。
「...マスター。」
メイは言った。
「何だ。」
「そこじゃないです。」
メイは言った。
「どこだ。」
「ほっぺです。」
メイは言った。
「...。」
私は少し考えた。
(娘に。)
(ほっぺにキスをする。)
(父親がするようなものだ。)
(それならば。)
もう一度近づいた。
今度は頬に。
軽く。
一瞬だけ。
「これでいいか。」
私は言った。
メイは止まった。
また止まった。
「...マスター。」
メイは言った。
「何だ。」
「どこだと思いますか。」
メイは言った。
「...。」
私は少し間を置いた。
(それ以上は。)
(娘への愛情の範囲を超える。)
「これが私のできる範囲だ。」
私は言った。
メイは私を見た。
しばらく。
「...。」
「仕方ありません。」
メイは言った。
「許してあげます。」
(許してあげます。)
私は内心で思った。
(なぜ私が許される側なのだ。)
「では次のお願いです。」
メイは言った。
気持ちを切り替えるように。
速く。
「次もあるのか。」
「約束は何でも一つとは言っていません。」
メイは言った。
「...そうだったか。」
「では。」
メイは言った。
「ドラゴンハート王国の特別レストランに連れていってください。」
「それは構わない。」
私は言った。
「散歩の代わりとしても問題ない。」
「本当ですか!」
メイは言った。
目が輝いた。
いつもの静かなメイから。
一瞬だけ。
年齢相応の顔が出た。
「では行くか。」
私は言った。
「はい!」
メイは言った。
今日のメイは。
少し違った。
声に少し。
弾みがあった。
第五章:特別レストランへ
ドラゴンハート王国 特別レストラン - 昼
王国の中に。
有名な店があった。
「特別レストラン」と呼ばれていた。
王国に来た貴族が訪れる場所だった。
各地の有名な料理人が集まっていた。
メニューが異常に多かった。
「すごい。」
メイは入りながら言った。
声が小さかった。
しかし確かに言った。
「来たことがなかったか。」
私は聞いた。
「はい。」
メイは言った。
「ここは王宮の外ですから。」
「一人では来にくくて。」
「誰かと来ればいい。」
私は言った。
「誰かとというのは。」
メイは言った。
「マスターとということです。」
「そうか。」
私は言った。
席に着いた。
窓際の席だった。
外が見えた。
王国の広場が見えた。
「外が見えます。」
メイは言った。
「良い席だ。」
私は言った。
メニューが来た。
分厚かった。
「どれが良いか。」
私は言った。
メイはメニューを開いた。
丁寧に。
一ページずつ。
長かった。
「マスター。」
メイは言った。
「何だ。」
「全部美味しそうです。」
「全部は食べられない。」
私は言った。
「では。」
メイは少し考えた。
「有名なものを全部。」
メイは言った。
「有名なものが六つある。」
私は言った。
「六つ全部。」
メイは言った。
「六つ全部か。」
「今日はマスターが言うことを聞く日です。」
メイは言った。
「...頼もう。」
私は言った。
注文した。
「ドラゴンファイアーステーキ。」
「セレスティアルスープ。」
「フェニックスロースト。」
「オーシャントレジャープラッター。」
「ミスティックデザート。」
「エターナルフルーツタルト。」
店員が少し驚いた顔をした。
しかし何も言わなかった。
受け取って去った。
「沢山来ます。」
メイは言った。
嬉しそうに。
「食べ切れるか。」
私は言った。
「食べます。」
メイは言った。
確信を持って。
「そうか。」
私は言った。
窓の外を見た。
広場で子供たちが走っていた。
「マスター。」
メイは言った。
「何だ。」
「こういう場所に来たことが。」
メイは言った。
「なかったです。」
「この王国にいなかったからか。」
「この王国には来ましたが。」
メイは言った。
「一人ではどこにも行けなくて。」
「なぜ一人では行けない。」
「マスターの側にいたいので。」
メイは言った。
当然のように。
「...外に出ることを覚えろ。」
私は言った。
「マスターと一緒なら出ます。」
メイは言った。
「一人でも出ろ。」
「一人は寂しいです。」
メイは言った。
「ハナと行けばいい。」
私は言った。
「またはユイと。」
「ユイは自分のカードを回しながら歩くので。」
メイは言った。
「落ち着きません。」
「確かに。」
私は言った。
「ハナは飛び回るので。」
メイは言った。
「ついていけません。」
「確かに。」
私はまた言った。
「だからマスターが一番です。」
メイは言った。
「...そうか。」
私は言った。
料理が来た。
第六章:食事 - 手ずから
テーブルに料理が並んだ。
六つが。
全部大きかった。
全部良い香りがした。
「すごい。」
メイは言った。
今日二回目だった。
「食べよう。」
私は言った。
「マスター。」
メイは言った。
「何だ。」
「もう一つお願いしていいですか。」
「まだあるのか。」
「今日は聞いていただける日です。」
メイは言った。
「言ってみろ。」
「手で食べさせてください。」
「手で?」
「はい。」
メイは言った。
「マスターの手で。」
(手で食べさせる。)
私は内心で思った。
(幼い子供に食べさせるような。)
(そういうことだ。)
(メイは確かに娘のような存在だ。)
(親が子に食べさせる。)
(それは自然なことだ。)
「わかった。」
私は言った。
スプーンを取った。
セレスティアルスープを一口すくった。
「どうぞ。」
私は言った。
メイは口を開けた。
素直に。
一口食べた。
「...美味しいです。」
メイは言った。
静かに。
しかし。
その声に。
何かが入っていた。
幸せという種類の何かが。
「美味いか。」
私は言った。
「はい。」
メイは言った。
「スープが美味いのか。」
私は言った。
「はい。」
メイは言った。
「それだけか。」
メイは少し間を置いた。
「...スープだけじゃないです。」
メイは言った。
「何が美味い。」
「マスターの手で食べさせてもらっているから。」
メイは言った。
「美味しいです。」
(そういうことを。)
私は内心で思った。
(平然と言うのか。)
「...次は何を食べる。」
私は言った。
話を続けた。
「フェニックスロースト。」
メイは言った。
切った。
一口分を。
差し出した。
メイは食べた。
「美味しい。」
メイは言った。
「フェニックスローストが美味いか。」
「それだけじゃないです。」
メイは言った。
「また言うか。」
私は言った。
「何度でも言います。」
メイは言った。
私は少し笑った。
気づかれないように。
しかし。
「マスター。」
メイは言った。
「何だ。」
「笑いましたね。」
「笑っていない。」
私は言った。
「笑いました。」
メイは言った。
確信を持って。
「気のせいだ。」
私は言った。
「そうですか。」
メイは言った。
「では次を食べてください。」
「お前が食べるのだ。」
私は言った。
「マスターの手で食べます。」
メイは言った。
「...。」
食事は続いた。
六つの料理が。
少しずつ。
減っていった。
外の広場で。
子供たちが走り続けていた。
風が吹いていた。
良い午後だった。
第七章:食後の話
食事が終わった。
六つ全部が。
「食べ切ったな。」
私は言った。
「はい。」
メイは言った。
満足した顔で。
「約束を守ったか。」
メイは少し考えた。
「はい。」
メイは言った。
「守ってもらいました。」
「これで良かったか。」
「はい。」
メイは言った。
「とても。」
「次からは。」
私は言った。
「部屋に迎えに行く約束をしたならば。」
「覚えていられるようにする。」
「本当ですか。」
「約束したことを守れなかった。」
私は言った。
「それは私の失敗だ。」
メイは私を見た。
しばらく。
「マスターが。」
メイは言った。
「失敗したと言うのですか。」
「事実だ。」
私は言った。
「...そうですか。」
メイは言った。
「では私もお詫びします。」
「お前は何も悪いことをしていない。」
私は言った。
「昨日。」
メイは言った。
「マスターが書類で忙しいのに。」
「もう少し早く伝えていれば。」
「マスターが忘れなかったかもしれません。」
「そうではない。」
私は言った。
「約束した私が覚えていなければならなかった。」
メイは少し黙った。
「マスターは。」
メイは言った。
「そういう方なのですね。」
「どういう方だ。」
「自分の失敗を。」
メイは言った。
「ちゃんと認める方です。」
「当然だ。」
私は言った。
「当然ではないです。」
メイは言った。
「そういう方は少ない。」
「そうか。」
私は言った。
窓の外を見た。
広場の子供たちが帰り始めていた。
夕暮れが近かった。
「そろそろ帰るか。」
私は言った。
「はい。」
メイは言った。
「今日は良かったか。」
私は聞いた。
メイは少し間を置いた。
「はい。」
メイは言った。
「とても。」
「何が良かった。」
「全部です。」
メイは言った。
「具体的に言え。」
メイは少し考えた。
「キスをしてもらいました。」
「額と頬だが。」
私は言った。
「それでも。」
メイは言った。
「しました。」
「...次は。」
メイは言った。
「次はないぞ。」
私は即座に言った。
「今日は約束の日でしたが。」
メイは言った。
「次も約束する方法があります。」
「何だ。」
「またマスターが約束を忘れれば。」
メイは言った。
「...。」
「来週また散歩の予定を入れます。」
メイは言った。
「マスターが部屋に来なければ。」
「また請求があります。」
(請求。)
私は内心で思った。
(この娘のような存在は。)
(なかなかに賢い。)
「次は忘れない。」
私は言った。
「楽しみにしています。」
メイは言った。
「どちらの意味でも。」
「どちらとはどういう意味だ。」
「散歩に行けることも楽しみですし。」
メイは言った。
「もし来なければ。」
「また請求できることも。」
「楽しみです。」
「...。」
「どちらも楽しみです。」
メイは言った。
無表情で。
しかし目が少し笑っていた。
「帰るぞ。」
私は言った。
「はい。」
メイは言った。
席を立った。
立つ時に。
一言言った。
「今日ありがとうございました。」
声が少し違った。
いつもより。
柔らかかった。
「ああ。」
私は言った。
二人で店を出た。
エピローグ - 宮殿への帰り道
王国の道 - 夕暮れ
夕暮れの光が王国を染めた。
橙色の光が。
道を温かく見せた。
二人で歩いた。
宮殿へ向かって。
「マスター。」
メイは言った。
「何だ。」
「次の散歩は来週です。」
メイは言った。
「忘れないでください。」
「忘れない。」
私は言った。
「本当ですか。」
「本当だ。」
「信じます。」
メイは言った。
「しかし。」
メイは続けた。
「しかし?」
「念のため。」
メイは言った。
「毎日聞きに行きます。」
「忘れていないかどうかを。」
「毎日か。」
私は言った。
「はい。」
メイは言った。
「来なくていい。」
私は言った。
「でも来ます。」
メイは言った。
「...そうか。」
私は言った。
「マスター。」
メイはまた言った。
「何だ。」
「今日は楽しかったです。」
メイは言った。
「そうか。」
「はい。」
少し間が来た。
「マスターは。」
メイは言った。
「楽しかったですか。」
私は少し考えた。
「悪くなかった。」
私は言った。
「悪くなかった。」
メイは繰り返した。
「それはつまり。」
「それだけだ。」
私は言った。
「いいえ。」
メイは言った。
「悪くなかったは良かったということです。」
「そんな解釈は聞いたことがない。」
私は言った。
「マスターの言葉の翻訳ができます。」
メイは言った。
「三万年ではなく数日の観察ですが。」
「数日でそこまでわかるのか。」
「マスターのことは。」
メイは言った。
「見ていれば全部わかります。」
「...そうか。」
私は言った。
宮殿が見えてきた。
灯りがついていた。
アクアが夕食の準備をしているだろう。
「帰ってきた。」
メイは言った。
小さく。
「何だ。」
「帰ってきたという感じがします。」
メイは言った。
「ここが帰る場所だという感じが。」
「そうだ。」
私は言った。
「ここはお前の場所だ。」
メイは私を見た。
しばらく。
「...マスターがいるから。」
メイは言った。
「帰る場所になりました。」
「それはアクアが言っていたことと同じだな。」
私は言った。
「アクア様が何と言っていましたか。」
「待っていてくれる者がいると。」
私は言った。
「帰る場所ができると。」
「そうですね。」
メイは言った。
「私がマスターを待っている。」
「だからマスターにとっても。」
「帰る場所になればいいです。」
「すでになっている。」
私は言った。
メイはまた止まった。
「...マスター。」
メイは言った。
「何だ。」
「また今日来てもいいですか。」
メイは言った。
「今帰ってきたばかりだぞ。」
私は言った。
「書斎に。」
メイは言った。
「夕食の後でも。」
「ノックしてから来い。」
私は言った。
「はい。」
メイは言った。
宮殿の門をくぐった。
「明日の散歩の予定は来週です。」
メイはまた言った。
「わかっている。」
「本当に覚えていますか。」
「覚えている。」
「信じます。」
メイは言った。
「しかし。」
「しかし?」
「念のため。」
メイは言った。
「明日も確認に来ます。」
「来なくていい。」
私は言った。
「来ます。」
メイは言った。
「...そうか。」
私はまた言った。
廊下を歩いた。
それぞれの方向へ。
曲がり角で。
メイが振り返った。
「おやすみなさい。マスター。」
「早いぞ。まだ夜ではない。」
私は言った。
「では。」
メイは言った。
「また後で。」
「また後で。」
私は言った。
メイは曲がっていった。
廊下が静かになった。
「良い一日だった。」
私は思った。
書類が残っていたが。
今日は少し後でも良かった。
「次の散歩は来週だ。」
私は思った。
「今度は忘れない。」
書斎へ向かった。
夕食まで少し時間があった。
五分後。
ノック音が来た。
書斎の扉に。
「...誰だ。」
「メイです。」
「さっき別れたばかりだぞ。」
私は言った。
「来週の散歩の確認です。」
メイの声が扉の向こうから来た。
「わかっている。」
「本当ですか。」
「入ってもいいですか。」
「...入れ。」
扉が開いた。
メイが入ってきた。
部屋の隅に立った。
ただ立った。
「それだけか。」
私は言った。
「いいえ。」
メイは言った。
「何だ。」
「一緒にいたいです。」
メイは言った。
「...そうか。」
私は言った。
書類を開いた。
仕事を続けた。
部屋に静けさが来た。
良い静けさが。
「マスター。」
少し後にメイは言った。
「何だ。」
「今日ありがとうございました。」
メイは言った。
今日三回目だった。
「ああ。」
私は言った。
「また行きましょう。」
メイは言った。
「来週行く。」
私は言った。
「はい。」
メイは言った。
「楽しみにしています。」
「来週行く。」
私はもう一度言った。
「覚えていてください。」
「覚えている。」
「本当ですか。」
「...書類を見せろ。」
私は言った。
「え?」
「来週の予定に書き込む。」
私は言った。
メイが書類を持ってきた。
来週の予定表を。
書いた。
「散歩 メイと」と。
メイはそれを見た。
しばらく。
「...ありがとうございます。」
メイは言った。
今日四回目だった。
「何度礼を言うのだ。」
私は言った。
「何度でも言います。」
メイは言った。
「そうか。」
「言いたいので。」
メイは言った。
書斎が静かになった。
今度こそ。
良い静けさが。
夕食まで続いた。
【キャラクター設定公開】海賊の遺産——終わりなき海の姉妹
皆さん、こんにちは!
「ダークコンチネント:生きる大陸と至高の支配者」の作者です。
今回公開するのは——
サチコには、
まだ語られていない
"もう一つの家族"がいました。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
◆ 紅潮の船長、オリビア
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
サチコには——
姉がいる。
キャプテン・オリビア。
海賊クルー「クリムゾン・タイド」を率いる、
冷静沈着な戦略家。
「私は、妹に——
いつ死んでもおかしくない世界を
生きてほしくない。
だから、海から
遠ざけていた。」
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
◆ レンとの対話
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
オリビアの副官——
剣聖レン。
「船長。妹さんは
もう成長した頃では?」
「ええ。頑固なままよ。
だから10年前、
母なる港の島に
預けたの。」
「会いに行きたいとは
思わないんですか?」
「もちろん、思う。
でも、私が会いに行けば——
サチコは一緒に
海へ出ると言い張るはず。
それだけは、
させたくない。」
「もう遅いのでは、
船長。
子供の頃から、
姉が世界最高の海賊のひとりだった。
その子が、同じ夢を
見ないはずがない。
俺たちは皆、
海賊の家系に生まれた。
自由は、俺たちの血に
流れている。」
「本当に、サチコが
海賊女王になると思う?」
「間違いなく。
彼女は、ただの海賊には
なりません。
史上最強のクルーを
築き上げるでしょう。」
「そうかもしれないわね。
この一族は、
昔から海に属している。」
「もうすぐ18歳です。
その日が来れば、
母なる港の島も
彼女を解き放つ。」
「なら、世界は
覚悟しておくべきね。
いつか——
キャプテン・サチコは
ウィズダム・アイランドに挑み、
カースド・アイランドを征服し、
深淵の海を越え——
"海賊女王"の名を
手にする。」
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
◆ 血に流れる、自由への渇望
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
子供は、見て育ったものになる。
オリビアも、サチコも——
海賊一族に生まれた。
自由。
平和。
冒険。
それは、生まれながらに
彼女たちの血に
刻まれていた。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
◆ 姉が守り、妹が羽ばたく
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
オリビアは——
妹を海の危険から守るため、
あえて距離を置き続けた。
だが、サチコの中には——
姉と同じ血が、
静かに燃えていた。
いつか——
姉が築いた道の先を、
妹が超えていく。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
「海は残酷だ。
だが——
夢を追う者にだけ、
報いを与える。」
「いつか、彼女は——
海賊女王になる。」
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
毎日19:00更新中。
「オリビアとサチコ、いつか海の上で再会すると思いますか?」
コメントで聞かせてください。
お楽しみに!
#世界設定 #オリビア #サチコ #レン #ライトノベル #ダークコンチネント #海賊一族




