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俺様王子は保育園で働きたい〜5歳児に本気で嫉妬する氷の王子から、激重に溺愛されています〜  作者: おおたまらん


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第4話:毎日、総重量15キロ超えの園児を同時に抱えてスクワットしてるんです

(さっきはアレク先生に助けられちゃったけど、私は先輩保育士なんだから! ここは私がビシッとリードして、カッコいいところを見せなきゃ!)


気まずい沈黙が続く道中、私は内心で密かに闘志を燃やしていた。

 おままごとでの不甲斐ない自分を払拭するためにも、この買い出し業務は完璧にこなしてみせる。


王宮から少し離れた、活気ある商業エリア。

 私たちは、来月のお遊戯会で使う布地や、新しい画用紙を買い付けるために問屋街へとやってきた。


「いらっしゃい! お嬢ちゃん、今日は何をお探しで?」


「こんにちは! ええと、この青い綿布を15ヤードと、あっちの赤いフェルトを……」


私が店主のおじさんと軽快にやり取りを始める横で、アレク先生は少し落ち着かない様子で周囲を見回していた。


 考えてみれば、彼はまだ保育園に来たばかりの新人だ。備品の買い出しなんて初めての経験なのだろう。


「よし、布はこれくらいでいいわね。あとは画用紙の束を……」


「へいへい、毎度あり! じゃあ、青い布が15ヤードで銀貨3枚と銅貨4枚。赤いフェルトが……ええと」


店主のおじさんが、カウンターの上に置かれた年代物の大きなレジスターのボタンを、ガチャン、ガチャンと押し始めようとした、その瞬間。


「全部合わせて、銀貨8枚と銅貨12枚ですね!」


私は店主より早く、即座に合計金額を言い放った。


「おっ!? 嬢ちゃん、相変わらず計算がはえーな! おじさん、まだレジ打ち始めたばっかりだぞ」


「ふふっ、これくらい暗算で余裕ですよ」


「がははっ、敵わねぇな! よし、銀貨8枚と銅貨10枚で負けといてやる!仕事なくなったらいつでもうちで雇ってあげるからね!」


交渉成立。私が財布から硬貨を取り出そうとした時、隣で固まっていたアレク先生が、信じられないものを見るような目で私を見下ろしてきた。


「……おい。お前、今、どうやって計算した?」


「え? どうって……普通に足し算しただけですよ?」


アレク先生のサファイアの瞳が、本気で驚愕に見開かれている。

 しまった。前世の日本の義務教育と、スーパーの特売日での熾烈な暗算バトルで鍛えられた計算力が、この世界では少し異常だったことを忘れていた。


「あ、えっと……昔、そろばんやってたから!」


「そろばん……?」


「っあ、いえ! 頭の中に、計算しやすいタマみたいなものを思い浮かべるコツがあるんです! それよりアレク先生、ほら、荷物を持ちますよ!」


私は誤魔化すようにパパッと代金を支払い、店主がまとめてくれた大きな布地の束に手を伸ばした。

 すると、横からアレク先生の大きな手がスッと伸びてきて、私の手首を軽く制した。


「待て。女一人に重い荷物を持たせるわけにはいかないだろうが」


アレク先生が、呆れたような、けれど少し得意げな顔で私を見る。


「荷物持ちなら、俺がやる。……こういうのは、男の役目だろ」


ぶっきらぼうだけど、男らしい気遣い。

 午前中のおままごとの一件もあって、不覚にも私の胸がトクンと鳴ってしまった。


(……い、いけない! ここでキュンとしてる場合じゃないわ! 先輩としての威厳を見せなきゃ!)


「ふふっ、お気遣いなく! 毎日、総重量15キロ超えの園児を同時に抱えてスクワットしてるんですから、これくらい羽毛みたいなものですよ!」


「は……?」


私はアレク先生が止める間もなく、自分の背丈の半分ほどある布地の山と画用紙の束を「どっこいしょ!」と軽々と抱え上げ、スタスタと歩き出した。


「お、おいっ!? お前、本当に令嬢か……!?」


背後から、アレク先生の絶望的な声が聞こえる。

 王族として、女性をエスコートするはずだった彼のプライドは見事に粉砕されたようだった。


「ほらほら、アレク先生! ぼーっとしてないで次に行きますよ!」


「くっ……! 待て、いいから半分貸せ!!」


結局、私の後ろから追いかけてきたアレク先生に、荷物の大半を強引に奪い取られてしまった。

 不機嫌そうに大量の荷物を抱える彼を見上げながら、私は少しだけ反省した。


(うーん、カッコいいところを見せるつもりが、ちょっとやりすぎちゃったかな……)


* * *


「ただいま戻りましたー!」


大量の荷物を抱え(結局ほとんどアレク先生が持っている)、保育園に帰還した私たち。

 すると、お昼寝から目覚めていたレオくんたちがいの一番にお出迎えにやってきた。


「あー! リリアーナせんせいと、アレクせんせいだ!」


「ふたりでどこ行ってたのー!?」


子どもたちが足元にまとわりついてくる。

 私は荷物を机に置きながら、いつもの笑顔で答えた。


「お遊戯会に使うものを、二人で街にお買い物に行ってたのよ」


その言葉を聞いた瞬間、レオくんがニヤニヤと意地悪な笑みを浮かべ、大きな声で叫んだ。


「わかった! ふたりで『でーと』してたんでしょ!! だって、パパとママだもんね!!」


ピタリ。

 職員室の空気が、再び凍りついた。

 マルタ先生たち他の保育士が一斉にこちらを振り返り、「あらあら」と生温かい視線を向けてくる。


「でっ、デートじゃないわよ!? ただのお仕事で――!」


「パパとママ、おかいものデート!」

「ラブラブー!!」


「ち、ちが……っ!!」


午前中のおままごとの記憶がフラッシュバックし、私は顔から火が出るほどの羞恥に襲われた。


(えーい、こうなったらヤケよ! もうノッてやる!)


私は真っ赤になった顔をプロの笑顔で強引に引き出し、子どもたちに向かって胸を張った。


「そうなの! ラブラブデートしてきたの!! アレク先生が重い荷物を全部持ってくれたんだよ〜! みんなもアレク先生みたいに、レディに優しい大人になってね!」


「っっっ〜〜〜〜!!?」


隣で、アレク先生が声にならない悲鳴を上げた。

 見れば、耳どころか首の根元まで真っ赤に染め上げ、両手で顔を覆って完全にキャパシティオーバーを起こしている。


(女なんていくらでも寄ってきそうな顔して、アレク先生は私に負けず劣らずのシャイな人なんだろうな)


* * *


その夜。

 王宮の奥深くにある、第七王子アレクシスの私室。


「……疲れた」


豪奢なソファに、アレクシスは長い足を投げ出すように沈み込んだ。その手には、不格好なクマのアップリケがついたエプロンが握りしめられている。

 執務机で書類の山と格闘していた側近のルークが、ペンを止め、面白がるような視線を主君に向けた。


「お疲れ様です。殿下、どうですか? 初めての保育園は」


ルークの問いかけに、アレクシスは目を閉じ、今日一日の怒涛の出来事を思い返した。


 泣き叫ぶ赤子の大合唱。おままごとでの謎の焦燥感。5歳児の容赦ない言葉の刃。

 そして何より――至近距離で触れそうになった彼女の吐息と、「ラブラブデート」と笑ってのけたあの眩しい笑顔。未だに心臓の音がうるさくて、まともに眠れそうにない。


「……刺激的だ」


絞り出すように呟いた言葉には、疲労だけではない、熱っぽい響きがこもっていた。

 ルークが「ほう?」と口角を上げる。


「剣術の猛稽古でも一切息を切らさない殿下が、そこまで消耗されるとは」


「ああ、あそこは戦場だ。魔物討伐よりタチが悪い」


アレクシスは深々とため息をつき、天井を仰ぎ見た。


「……あと、保育士はすごい」


「は?」


思いがけない主君の言葉に、ルークが目を瞬かせる。


「あの細腕で赤子を同時に三人抱え、機械より早く暗算をこなし、自分の背丈の半分ほどある荷物を笑いながら持ち上げようとするんだぞ。おまけに、ガキどもの無慈悲な攻撃を華麗にかわしやがる」


「ははぁ……。なるほど」


ルークは納得したように深く頷き、ふっと優しげな笑みを浮かべた。


「我が家にも三歳と五歳の怪獣がおりますが、妻は毎日あの調子で立ち回っていますからね。子育てする女性の忍耐力は、王宮騎士のそれを凌駕しますよ」


「……お前、あれを毎日見てるのか。尊敬する」


「ええ、妻には頭が上がりません。ですが殿下。その凄腕保育士殿の凄まじさを語るにしては……ずいぶんとお顔が楽しそうですね」


ピクリ、とアレクシスの肩が跳ねた。


「口元、ニヤついてますよ」

「なっ……! うるさい!」


ルークは第七王子、アレクシス・フォン・グランツの筆頭従者であり、彼の気難しい性格を幼い頃から知っている。


 あまりにも女っ気がなく、このまま一生独身を貫くのではないかと密かに心配していたくらいなのだが――まさか恋愛過程をすべてすっ飛ばし、いきなり『子育て』の苦労から始まっている現状が、急にたまらなく面白くなってきた。


ついつい、主君にツッコミを入れてしまう。


「……っ、とにかく! 明日も早い、俺は寝る!」


図星を突かれて耳まで真っ赤にした主君は、ソファからガタッと立ち上がった。

 逃げるように寝室へ向かう不器用な背中を見送りながら、ルークは愉快そうに肩を揺らした。


どうやら、誰も寄せ付けなかった氷の王子の心を溶かし、見事に振り回しているのは、前代未聞の凄腕保育士らしい。


 明日はどんな「戦場」の報告が聞けるのか。側近は密かに楽しみにしながら、再び山積みの書類へと向き直ったのだった。

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