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俺様王子は保育園で働きたい〜5歳児に本気で嫉妬する氷の王子から、激重に溺愛されています〜  作者: おおたまらん


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第30話:氷の王子のイヤイヤ期

 目が覚めると、カーテンの隙間から差し込む朝陽が、寝室を白く照らしていた。

 隣で微かな寝息を立てているリリアーナの姿を確認し、俺は昨夜の記憶をなぞる――その瞬間、凄まじい後悔が全身を駆け抜けた。


「……クソッ、やってしまった……」


 シーツから覗く彼女の白い肩、鎖骨、そしてうなじ。

 そこには、昨夜の俺が嫉妬に狂い、独占欲に任せて刻みつけた赤紫の痕が、無惨なほど点々と散っていた。


 あんなに「大事にする」と誓っておきながら、他の男どもに向けられた苛立ちを、あろうことか一番守るべきこいつにぶつけてしまった。


「……んんっ」


 リリアーナが身じろぎし、ゆっくりと瞼を持ち上げる。その澄んだブルーの瞳と視線がぶつかった瞬間、俺はたまらず彼女を抱き寄せ、その細い肩に顔を埋めた。


「……すまん。リリアーナ、本当に、すまなかった」

「えっ、アレクシス様……? 急にどうしたんですか?」


 まだ眠気の残る掠れた声が、余計に俺の罪悪感を抉る。


「……昨夜の俺はどうかしていた。お前を傷つけ、こんなに跡をつけて……痛くなかったか? 嫌いになってないか?」


 柄にもなく、声が震えているのが自分でも分かった。

 いつもなら「俺の女だ、文句あるか」と開き直るはずのプライドなんて、こいつの困ったような、けれど優しい体温の前では何の役にも立たない。


 すると、リリアーナがクスッと小さく笑い、俺の髪をそっと撫でた。


「……心配しなくても、アレクシス様のことが一番大好きですよ。あなたの事しか見ていません」


「……っ、リリアーナ」


「それに……強引なアレクシス様も、その、好きです」


 その一言は、俺の耳に届いた瞬間に、昨夜から抱えていた罪悪感をこっぱみじんに打ち砕き、代わりに言いようのない熱を俺の心臓に叩き込んできた。


 顔を真っ赤にしながらも、そらさずに俺を見つめるブルーの瞳。


「っな!!!」


「……リ、リリアーナ、お前。……俺を甘やかすのは!俺の教育上よくないのでは!?」


 俺は堪らず、彼女を腕の中に力任せに引き寄せた。

「傷つけたくない」「優しくしなきゃならない」――頭では分かっているのに、彼女のその真っ直ぐな言葉が、俺の中の『猛獣』を再び叩き起こそうとする。


「いつから、あなたの先生になったんですか!」


 首筋に顔を埋めると、そこには俺が刻んだ鮮やかな痕が残っている。それを見ているだけで、また独占欲が喉の奥までせり上がってくるのが分かった。

 だが、今はその熱を必死に抑え込み、彼女の細い背中を壊れ物を扱うように抱きしめる。


「……あんなに酷いことしたのに。怖くなかったのかよ」


「……少しだけ、びっくりしました。でも、アレクシス様が私を誰にも渡したくないって思ってくれたのは、伝わりましたから」


 腕の中で小さく笑うリリアーナ。

 その余裕のある『猛獣使い』っぷりに、俺は完全に降参だった。


「……ったく。お前には頭あがんねぇな」


 結局、俺たちは夕方近くになるまで、その部屋で溶け合うような時間を過ごした。

 外に出れば再び『氷の第七王子』の仮面を被らなきゃならないが、この部屋の中、この腕の中にある温もりだけは、誰にも渡さない俺だけの特権だ。


 * * *


 夕闇が迫る頃、ようやく俺たちは帰路につく馬車に乗り込んだ。


 隣り合わせの席で、リリアーナの肩を抱き寄せる。

 彼女の首元には、俺が選んだ最高級のシルクのストールが、昨夜の『名残』を隠すように厳重に巻かれている。


(……明日、保育園でガキどもにこれを見られたら……)


 想像しただけで、またバツが悪くなって視線を逸らす。


「あ〜あ〜、アレク先生に沢山いじめられちゃったな〜。リリアーナ先生悲しい」


「……ぐっ」


 俺は窓の外を向いたまま、奥歯を噛み締めた。

 このタイミングでその肩書きを出してくるあたり、やっぱり怒っているのだろうか。


「ほ〜んと、アレク先生ってば、子どもたちに負けないくらい手がかかりますし。昨夜なんて、まさに言うことを聞かない最大の『イヤイヤ期』さんでしたよね? 副園長先生?」


 クスクスと、隣で楽しげに笑う声。

 ストールを厳重に巻いたまま、揶揄うように俺を見上げてくるリリアーナの瞳には、怒りなんて微塵もなかった。


 俺はたまらず、彼女の肩を抱き寄せ、さらに自分の方へと引き寄せる。


「……知るか。俺をそんな風に教育しつけたのはお前だろうが。リリアーナ先生」


 俺はぶっきらぼうに言い放ち、彼女の小さな手を自分の大きな手で包み込んだ。

 昨日あれほど「俺以外の奴のこと考えられないようにしてやる」と豪語したのに、結局、俺の方がこいつのことで頭がいっぱいじゃないか。


 夕景に染まる車内、彼女が幸せそうに俺の肩に頭を預ける。

 嵐のような嫉妬と、溺れるような甘い朝を経て、俺はこの愛しい「猛獣使い」に一生抗えないことを確信していた。


 だが、このまま一方的に転がされているだけなのも癪だ。


(……次は『イヤイヤ期の問題児』ではなく、有無を言わさぬ『上司』として、この可愛い先生をたっぷり『指導』してやるのも悪くない)


 俺は喉の奥で小さく笑いながら、密かにそう心に誓ったのだった。

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