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俺様王子は保育園で働きたい〜5歳児に本気で嫉妬する氷の王子から、激重に溺愛されています〜  作者: おおたまらん


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第17話:お前の全部も俺によこせ!

 ガタゴトと心地よく揺れていた馬車が、重厚な音を立てて止まった。

 ルーク様が恭しく扉を開けると、そこには夜の闇に白く浮かび上がる、巨大な白亜の王城がそびえ立っていた。


「……うわぁ」


 見上げるほどに高く、威厳に満ちたその姿に、私は思わず息を呑んだ。

 前世の観光で見たどのお城よりも、今ここで生きている『王の住処』としての迫力が違う。


「……リリアーナ。そんなに固まるな。お前の家になる場所だと言っただろう」


 先に降りたアレクシス様が、私に優しく手を差し伸べる。

 私は震える手でその大きな掌を取り、おっかなびっくり馬車を降りた。


「ほら、こっちだ」


 彼は私の脇にそっと手を入れ、自然な動作で自分の腕を組ませた。

 グイッと引き寄せられ、彼の逞しい腕に私の体が密着する。


 見上げれば彼と目があい、ゾクりとするほど艶やかな笑みを浮かべた。


 観念して彼の腕にしがみつくようにして歩き出すと、城の玄関ホールには、一列に並んだ侍女や騎士たちが控えていた。


「「「第七殿下、お帰りなさいませ」」」


 一斉に頭を下げる彼らの動きは、一分の隙もない。

 私はと言えば、借りてきた猫のように肩をすくめ、アレクシス様の陰に隠れるようにして進むしかなかった。

 ふかふかの絨毯、眩いばかりのシャンデリア、そして廊下に飾られた数々の名画。


(砂場でお山を作っていた場所とは、住む世界が違いすぎる……)


 長い回廊を抜け、たどり着いたのは、ひときわ豪華な装飾が施された大きな扉の前だった。

 アレクシス様が迷いなくその扉を開き、私を中へと招き入れる。


「ここが俺の部屋だ。……ルーク、明朝まで誰も通すなよ。兄上たちにも、俺は死んだとでも言っておけ」

「心得ました。では、ごゆっくり」


 ルーク様が含みのある笑みを浮かべて扉を閉めると、室内は一気に静まり返った。


 そこは、私の住むアパートが丸ごと何個も入りそうなほど広く、洗練された空間だった。

 壁一面の本棚には難しそうな設計書や戦記が並び、重厚なデスクの上には、国を動かすための書類が積み重なっている。


 そして何より、部屋の奥に鎮座する『天蓋付きの巨大なベッド』にどうしても目が泳いでしまう。


「……リリアーナ? そんな入口で固まってどうした。食後の紅茶でも淹れさせようか」


 そう言って、彼は少し緩めたタイを指で解きながら、ソファに深く腰掛けた。

 その仕草ひとつとっても、今の彼は、どこからどう見ても高貴な身分を隠しきれない『王子様』そのものだ。


(……本当に、この人……王子様なんだ)


 あんなに不器用にエプロンの紐を結んでいた、アレク先生。

 泥だらけになって「形が歪だ」と私に怒られていた、同僚の彼。


 目の前にいるのは、その誰でもない。

 冷徹なまでの美貌と、圧倒的な存在感を放つ、私の婚約者。


「…………」


 あまりのギャップと、これから二人きりで夜を過ごすという事実に、私は今さらながら強烈な眩暈を覚えた。


「……あ、あの。アレクシス、様……。私、本当にここにいていいんですか……?」


 緊張で消え入りそうになった私の声に、彼はフッと甘い口角を上げ、私を隣へ誘うようにソファの横をポンポンと叩いた。


「おいで」


 私が腰掛けると、無駄な現実逃避をしている暇もなく、アレクシス様がスッと身を乗り出し、私との距離をゼロにした。


「ひゃっ……」

「だから、そんなに怯えるな。取って食ったりしない」


 そう言いながらも、彼の大きな手が私の腰に回り、背もたれとの間に私をすっぽりと閉じ込めている。

 至近距離で見つめてくるサファイアの瞳には、隠しきれない熱と、獲物を逃がさないという強い意志が宿っていた。


「で、でも、心の準備が……! そ、それに、明日も私早番で……」

「ここにきて、まだ仕事の話をするのか、お前は」


 呆れたように低く笑うと、彼は空いた手で私の頬を包み込み、そっと顎を掬い上げた。

 強引に距離を詰めてくるのに、触れる手つきはひどく優しくて、まるで壊れ物を扱うかのようだ。


「……保育士の俺も、王族の俺も、全部お前のものだ。だから、お前の全部も俺によこせ!」


「アレクシス、さま――んっ……」


 言い終わるよりも早く、重なった唇に言葉を塞がれた。

 「俺のお嫁さんになれ」と告白された日に奪われた不意打ちのキスよりも、ずっと深く、熱い。


「ん……っ、あ……」


 少し強引に唇を割られ、甘い痺れが背筋を駆け上がる。

 息継ぎすら許してくれないような、切実で、執念深いほどの口づけ。

 保育園では絶対に見せない『一人の男』としての圧倒的な熱量に当てられて、私の思考回路はあっという間に真っ白に溶かされてしまった。


 どれくらいそうしていたのか。

 ようやくチュッ、と名残惜しそうな音を立てて唇が離れた時、私は完全に彼の腕の中に力なくもたれかかっていた。


「……は、ぁ……っ」

「……」


 息を乱し、涙目で彼を見上げる。

 するとアレクシス様は、荒い息を吐きながらも、ひどく満足げに――そして少しだけ意地悪に、目を細めて微笑んだ。


「……やっと、俺だけのものになったって顔をしたな」

「なっ、なんてこと言うのっ!!」


 親指で私の濡れた唇を拭うその仕草は、あまりにも色気がありすぎて。

 完全に彼のペースで、甘く蕩かされていくのだった。


 その意地悪で甘い声に抗議しようと口を開いた瞬間――。


「んっん……!?」


 再び、それまでよりもずっと甘くて深く、溶けるような口づけが降ってきた。


「ちょっ……んぁ、アレクシス、さま……っ」

「……もっと。今までずっと我慢してたんだ、これくらいじゃ全然足りない」


 吐息交じりに囁かれ、少しだけ角度を変えて、三度目の唇が重なる。

 彼の大きな手が私の後頭部を優しくホールドし、もう片方の手が背中を撫で上げる。逃げ場なんてどこにもない。

 ちゅっ、ちゅ、と生々しい甘い水音が静かな部屋に響き、私の頭の中は今度こそ完全にショートしてしまった。


(む、無理……っ! こないだまで同僚だったのに急展開すぎる……!)


 前世でアラサー保育士だった頃、私にだって学生時代にキスの経験くらいはある。けれど社会人になってからは仕事一筋で、恋愛といえば小説を読むだけ。こんな息もできないほど濃密な「大人のキス」なんて完全にキャパオーバーだ。


 ディナーの後、『まだ現実味ないのなら、責任もって男として意識させてやる』と王宮へ連れてこられた時点で覚悟はしていたけど……!


(男の人ってこんな豹変するもんなの⁉︎ っていうか、『ずっと我慢してた』って一体いつから!?)


 全身の力が抜け、私は彼の胸元――最高級の仕立ての服の胸ぐらを、すがるようにギュッと握りしめるしかなかった。

 彼に身を預けたまま、ただ熱い波に呑み込まれていく。


 何度目かも分からない、ひどく長くて甘いキスの後。

 ようやく彼がゆっくりと唇を離した。


「……はぁっ、ん……っ」

「……」


 銀糸の髪が私の頬をくすぐり、彼が私の肩にコツンと重い額を預けてきた。

 お互いの荒い息遣いだけが、やけに大きく聞こえる。


「……はぁ。ずっと、ここままでいたい」


 耳元で囁かれた、掠れた色っぽい声。

 ぎゅうっと抱きしめてくる腕の力は強くて、彼自身の心臓も信じられないくらいドクドクと早く鳴っているのが伝わってくる。


(ま、待って……!?)


「ちょ、ちょっと待ってください、アレクシス様!」


 私思い出したかのように慌てて彼の胸を押し返し、少しだけ距離を取った。


「ん? どうした」

「わ、私……よく考えたら、まだシャワーも浴びてないんです! 今日、保育園で一日中走り回って、たくさん汗もかいたし……泥んこ遊びもしたから、汚い、です……っ」


 急激な羞恥心で顔から火が出そうになっている私に対し、アレクシス様は――。


「きゃっ!?」


 不意に視界がふわっと浮いた。

 気がつけば、私はアレクシス様の逞しい腕の中に、横向きに抱き上げられていた。


「あ、アレクシス様!? 何するんですか!」


 彼は私をお姫様抱っこしたまま、全く重さを感じさせない足取りで、部屋の奥にある天蓋付きの巨大なベッドへと向かった。

 そして有無を言わさない強引さで、しかし羽毛のように優しく、私を真っ白なシーツの上に下ろした。


 ドサッ


 ベッドの柔らかさに沈み込みながら慌てて体を起こそうとするが、すぐにアレクシス様がベッドに膝をつき、覆いかぶさるようにして逃げ道を塞ぐ。

 ソファの上よりもずっと逃げ場のない、圧倒的な密着状態。

 至近距離で見下ろしてくる彼のサファイアの瞳が、危うい熱を帯びている。


「だから、汚いって……!」


「汚くない! 何を言ってるんだ。今日のリリアーナが、今までで一番綺麗だ!」


 大真面目な顔で、サラリと言い放たれたストレートすぎる褒め言葉。


「もう無理〜〜〜っ! や、やめてください! 息をするように口説かないで……!」


 限界を迎えた私が両手で顔を覆って叫ぶと、彼の手が私の手首をそっと掴み、赤くなった顔を強引に暴き出した。


「『口説かないで』って……。お前、男と二人きりのベッドの上でそんな真っ赤な顔して。この状況じゃ、逆の意味にしか聞こえないな」


「ぎゃ、逆って……っ」


「もっと口説いて、もっと俺のモノにしてって意味だろ」


 耳元で低く囁かれ、ビクッと肩が跳ねる。

 否定しようと口を開きかけた私に、彼はさらに甘く、蕩けるような声を落としてきた。


「……なあ、リリアーナ。本当に可愛い。どうしてそんなに可愛いんだ?」


 逃げ場のない距離で浴びせられる、致死量の甘い言葉。

 冷徹な王子様の仮面は完全に剥がれ落ち、そこにあるのは私への愛情をダダ漏れにした、ただのデレデレな男の顔だった。


「む、り……っ、もう、むり……」


 キャパシティをとうに超えた私の脳はメルトダウンを起こし、情けない声が漏れる。

 体中の力が抜け、指先ひとつ動かせないほどに甘く痺れていく。


「ふっ……。あーもう、本当に大好きだ」


 愛おしくてたまらないというように目を細めた彼は、私から言葉を完全に奪い去るように、さらにその熱い唇を重ねてきた。


「んっ……!?」


「んんっ……、あ……っ」


 ちゅ、と生々しい水音が響き、私の頭の中はとろけきってしてしまった。

 へろへろになった体では抵抗などできるはずもなく、ただ彼にすがることしかできない。これではまるで私から誘っているみたいだった。


 天蓋付きの巨大なベッドの中。二人だけの秘密の空間。

 ただの不器用な同僚だと思っていた彼が、まさかこんな激甘王子だったなんて。

 私の前途多難で糖度過多な王宮は、初日から完全に彼のペースで、限界まで溶かされていくのだった。

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