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神子と友人6



神子は王が願い神が応えた結果だ。神が国のために与えてくれた、国を救う役目を背負うもの。

そんな神子だからこそできることがあった。外に出たいと思った時、神子を手放すまいとする国がそれを許すはずがないとも思った。だから監視されているのだ。

カーシェが学び始めたと聞いた時、彼女が周りに認められ、味方が増え、そしてその立場が強固なものになれば出ていきやすくなるのではないかと考えた。けれどやはり神子という肩書きがそれを許さない。そう考え直した。


では、神子だからこそできることとは何だろう。

男はなずなが選んだ道に助けがいるなら手を貸すと言ってくれた。

男は魔法使い。その男が神子であるなずなに貸す手とは何だろう。

外に出たいと言った言葉に、いいんじゃないのか、と言ってくれた男は、それが容易でないと知ってるはずで。


なずなが外に出るためにはなずなの代わりに王妃の仕事をしてくれる誰か。けれどそれによって国が混乱することは望ましくはなくて。でも、出たい。

難しいこと。それを男に助けを求めて一体どうなるだろう。でもなずなの望みを知っても、男は前言を翻さなかった。なら助けを求めたその時、手を差し伸べてくれるということ。…どうやって?


「考えれば考えるほど分かんなくなるんだけど…」

「何が?」

「うーん…」


侍女である友人が不思議そうにテーブルに懐いているなずなを見る。

お茶を淹れてくれている彼女をじっと見上げる。その様子が何かを相談したいけどでもどうしようかな、というものに見えて仕方のない侍女は、なずなの前にカップを置くとしゃがみ込んで視線を合わせる。


「なに?」

「…うー…ん」

「困らせる、こと」


軽く目を見開く。

困らせること。何だろう。不安そうに揺れる目に、なずなが今抱えていることが侍女にとっていいことではないと思っていることが分かる。

けれど侍女は笑う。


「なに?」

「ううーーん…」

「困るかどうかなんて分からないじゃない。もしかしたら喜ぶことかもしれないでしょ?」

「喜ぶ…かな、これ」


ああ、だの、うう、だの唸っていたなずなは、でもあの人は笑ったし、と呟いて、よし、と体を起き上がらせた。


「相談があるの」

「うん」


手で座るように示されて、なずなの正面の椅子に座る。

真剣な目のなずなに、侍女も真剣な目で返す。


「カーシェ様が、勉強を始められたでしょ?」

「ええ」


顔をしかめる人を何人も見た。何のつもりだと。たかが愛妾がと。王妃の座を狙っているのかと。

なずなが彼女に仕事を教え始めると、神子は何をお考えかと。何と寛大な方かと。そういう声が上がり始めた。

一生懸命学ぶ寵姫と真剣に仕事を教えるなずな。その姿を見るうちに見方が変わってきた人もいたけれど全員ではない。


なずなは寵姫を凄い人だと言う。

寵姫であるということ。ただ愛される存在ではなく、愛する存在でもあるその立場。その立場でできることは何だと。国王のために存在する自分が何をできるのかと。そう考えて、分からないのは自分が無知だからで。ならばそれを知らなければと。知らなければ何も見えなくて。それを見るために、見たものを考えるために寵姫は学び始めた。人と話すことを始めた。


ずっとずっと怯えていたのに。

国王の影に隠れて、守られて、そうして周りの目に声に怯えていたのに。

なのに一歩踏み出したその行為がどれほどの勇気を必要としたのか。なずなは知っている。


なずなだって何も知らないと叫んだ。閉じこもった。けれど自分の置かれた状況の、その立場の脆さに気づいて、それを守ろうと学んだ。人と話した。自分のために。自分の居場所を守るそのために。

自分を失望した目で見る人達と会わなければいけない。話さなければいけない。

それは本当に怖かった。怖かったけれど知らない世界に一人、放り出されることの方が怖かった。だから一歩踏み出したその時に振り絞った勇気は、本当に本当に並大抵のものではなかった。


寵姫になることを選んだのは寵姫自身だだ。だから自業自得と言えば言えるのだろうけれど、それでもなずなは寵姫が振り絞った勇気を笑おうとは思わない。笑っていいとも思わない。だって本当に本当に大変なことなのだから。


だから凄い人。なずなはそう言った。

寵姫に対する感情は様々で。そこには負の感情も存在していて。それでも笑ってそう言った。


侍女は寵姫を好きにはなれない。彼女さえいなければ、と思ってしまう。

そう思う心と同時に彼女がいてくれてある意味よかったのではないか、とも思う。心変わりは人の常とはいえ、国王を許せないと思うからだ。そんな人、寵姫にくれてやる。なずなにはもっともっといい人が現われるもの。国王にはもったいないのよ。そう思うからだ。

…なずなが傷ついた姿をずっと見ていたから、そう思った直後に、二人の女を愛してるとか言った方がまだましだったんじゃないのと思ったりもした。二股する男は侍女としてはお呼びではないから、そう言ったら言ったで心の中で罵っただろうが。


「あの方と関係する話?」

「関係するっていうか…私ね、今じゃないの。今じゃなくって」

「ええ」

「いつか、なんだけど。外、出たいなって思って」

「え?」


意味が分からなくて考えて。目の前で不安そうに様子を窺ってくるなずなに気づかないくらい考えて、そうして意味を理解して目を見開いた。


「……ごめ」

「詳しく」

「え」

「詳しく話して」


思わず目を輝かせて身を乗り出した侍女に、なずなが体をのけぞらせた。

ずいぶん久しぶりの更新になりました。

待っていてくださった方、ありがとうございます。そしてすみませんでした。

これからも酷い時はこんなペースになると思います。

そして感想をいただいてもお返事できません。本当にすみません。

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