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あの日、私はあなたの栞だった。  作者: 甘夏
一章 始まりは一つの小説で
19/23

第十九頁 代わりに

二日連続で投稿!!

完結の道へと、着々と進んでいますよ……( ˇωˇ )

「おじーちゃん! それほんとなのー!?」

 ふんわりと香るハッカの匂い。私はこの香りが好きで、よくおじいちゃんにくっついては、香りを楽しんでいたっけ。

「あぁ、本当さ。でもやめておけと言ったんだ」

「どーしてー?」

 おじいちゃんの膝に乗っかりながら、私はおじいちゃんに理由を尋ねた。

「それはなぁ──……」

 

 ***


「ただいま」

 家に帰り、靴を脱ぎながら時刻を確認する。

 左腕に付けた腕時計は午後十四時五十分手前を指していた。ちょっと余裕がある。家に帰ったらすぐ反抗しようという気が満々だったからか、少しだけ心の余裕が出来た。

 大丈夫、お母さんならきっと分かってくれる。

「お姉ちゃんおかえり! どこ行ってたの?」

 居間に入ると、テレビゲームをしていた和子が、ゲームにポーズをかけて駆け寄ってきた。

「ただいま和子、私の先生の妹さんに会いに行ってたの」

「へぇ〜……お姉ちゃんは知り合いがいっぱいいるのね」

 不思議そうな顔をしながら私の隣を歩く和子。

「あっ、お母さんならもう休憩入ってるよ」

「えっ、嘘」

「ほんとほんと! お母さんの部屋にいるから、行ってきたら?」

 まだ十分も早い。恐らく、和子が私のことを言ってくれたのだろう。

 和子の顔を見て分かる。「お姉ちゃんのことは言っておいたから早く行ってきなよ」って言う心情、バレバレなんだもん。

「ありがと和子、行ってくるね」

「うん!」

 誇らしげに笑う和子の顔を見た後、私は居間を出る。和子が私のことを言う時は、大体私が一歩を踏み出せない時が多い。その反面物怖じしない和子は、お母さんに話しかけるなど造作もないといった振る舞いだ。和子のおかげで、何度助けられたことか。言ってくれた方が私も都合がいい。そういう面もあって、私達は姉妹として仲良く成り立っているのだと、大きくなるにつれて自覚し始めた。

「えーっと、お母さんの部屋は……」

 階段を上がった後、お母さんの部屋を探していると、

「───わっ!?」

「あらゆず、どげんしてんね?」

 丁度私が通り過ぎようとしていた部屋からお母さんが出てきて、私は驚いて二歩ほど後退りをした。

「あー……お母さん、あの、お話が……」

 控えめに私が言うと、

「おぉ、待っとってん。よかよ、お母さんの部屋ば来なさいな」

 いつもの笑顔で、お母さんは部屋に案内してくれた。

 この笑顔を見ると、小さな頃の安心感を覚える。それは私の緊張をだいぶ和らげてくれる魔法の笑顔のようにも思えた。椅子に座った私は、向かいのベッドに腰掛けたお母さんを見据える。もう四十歳のはずなのに、全くそうは見えない。いつでもパワフルなお母さんは、私の憧れでもあった。

「ほんで? 話してみ」

「あ、うん、あのさ。私がこの間小説家になりたいって言ってたのは聞いたよね」

「おん、聞いたで。でもお母さんは──」

「それ、私の気持ちを知ってて言ってるの?」

 少し強めな口調で、私はお母さんの言葉を遮る。

「お母さんにはまだ言ってないよね。霙が倒れたこと」

「え?」

「そうだよ。霙、倒れたんだよ。

 ……あの子は私の友達、ないしは親友。親友が私に夢を託してくれたの」

 あの時、霙と通話した時のことを思い出していた。

『小説、書いてみない?』

 そう言われた私の心は、酷く好奇心に駆られた。と、当時に、私がやりたいことが見つかりそうな……そんな気がした。

「ねぇお母さん。お母さんは、元は小説家になりたかったんだよね?」

「ゆず、あんたどげんしてそげなこと……」

「最近思い出したんだ。小さな頃に、おじいちゃんから聞いたことあったの。もう顔は覚えてないけど、確かにおじいちゃんは、お母さんが小説家になりたかったこと、でもやめておけって言ったことを話してくれた記憶があるの」

 お母さんに小説家を否定した理由。それは、

「『お母さんより、私の方が才能がある。だから小説家は産まれた娘のどちらかにならせなさい』って、そう言われたんやろ?」

 お母さんが咄嗟に口を開く。

 驚いて私がお母さんの顔を見ると、お母さんは私が見た事のない、寂しげな顔をしていた。

「……本当はな、ゆずに小説家にならせたいくさ。ばってんな、これはお母さんのわがままやけん……。ゆず、あんたが小説家なってしまえば、

 

 ───あんたのおじいちゃんみたいに、お母さんからゆずが離れて行ってしまうような気がして、お母さんばり怖い」

 今にも泣きそうな顔をしているお母さんの言葉を聞いて、おじいちゃんのことを思い出す。確かにおじいちゃんは有名な小説家だ。それと同時に、おじいちゃんも小説家になりたての若い頃は、おじいちゃんの師匠とも言える人と世界中を飛び回って、色々な言語の小説を読み、文法、言葉の使い方の勉強没頭していたのだそう。

 きっと、私にもそうなって欲しくないのだろう。場合によってはおじいちゃんのように、世界中を飛び回る小説家になるかもしれないから。

 それでも。私は小説家になりたい。霙が勉強をほっぽり出してまで書いていたあの小説のような作品を、私も、今度は霙の代わりに書きたい。

「……お母さん、よく聞いて。確かに、おじいちゃんは世界中を飛び回っていたよ。でもそれは、お母さんのお父さんのお話でしょ? 私はお母さんの娘だよ。親が子供から離れられなくてどうするの? 親鳥がいつまでも雛鳥を離さないでいてどうするの?」

「ゆず……」

「それじゃあ子供は成長できない。何も知ることが出来ないよ。

 親から自立するのが子供だってうちの先生は言ってた。私は知りたいの。霙が見た小説家の世界を。だからお母さん、分かって。私はもう、お母さんから離れなきゃ行けない年頃なの」

 私はお母さんの手に、自分の両手を重ねる。小さな頃の私を抱いてくれたあの大きな手は、それを追い越して、いつの間にか私の手の方が大きくなっていたようで。

 酷く小さな手に思えた。水を沢山かけたシワついたお母さんの左薬指には、私の本当のお父さんから貰った、古びた指輪が嵌められている。もうこんなに大きくなったんだ。こんなに年老いたんだ。

 お母さんには感謝しかない。今まで迷惑をかけた分、私がお母さんの代わりに夢を叶えてあげたい。

「……分かった」

「……!」

「ばってん、約束してくれると?」

 右の小指を差し出し、お母さんは言う。

「お母さんに、見てきた世界の写真を送ってくれるって。何の連絡もないのは寂しいけん、それだけはお願い」

 きっと、これが最後の約束だろう。

 お母さんの小指に、自身の小指を絡めて、私は小さな声で言う。

「ん」

 照れくさくて、それしか返せなかった。同時に、私のことを認めて貰えたような気がして、私は少し嬉しかった。

 

 ***

 

 それから夏休みが終わり、私は長野へと帰ってきた。

 明日からまた学校だ。大学生である以上、私はまだ子供。子供らしく、最後の大学生活を送ろうと心に決めた。

 そんな頃合いで、霙のお父さんから、霙が面会許可を出してくれたと喜んで連絡してきた。あんなに上ずった霙のお父さんの声は初めて聞いた気がする。私も嬉しくなって「おめでとうございます」と言ったのを覚えている。

 そうして時は過ぎ、季節は秋になった───。

御一読お疲れ様でした!!

良ければブクマ、感想、レビュー、評価お待ちしております!!応援よろしくお願いします!!


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