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あの日、私はあなたの栞だった。  作者: 甘夏
一章 始まりは一つの小説で
15/23

第十五頁 決めつけないでよ

お久しぶりです。

少し距離を置いていたのですが、また更新してみようと思います。

ぜひ見て見てください。

めっちゃ展開早いんで()

「ゆず、ちょっと」

 次の日、書斎部屋で本を読んでいると、不意に後ろから声をかけられる。

 振り返ると、腕組みをした母がニコニコとした表情で立っていた。笑っている表情は、別の意味で怖い。

 一体何の用なのだろうか。なんて、考える必要もなかった。中学の頃からよくある事だった。母が呼び出す事情と言ったら、

「進路?」

「分かっとーやん。どげんするん?」

 そう言われ、少し考え込む。

 思えば将来のことなんて考えてもいなかった。大学だって、入っておけば就職に有利と母に言われたから入っただけの事だ。別に意味なんてない。

 先生になりたかったのは本当だけど、何も別に大学に入らなくても、とは思っていた。

「ゆず、あんた理数系得意なんやから科学の先生にでもなったらどげん? その方が働きやすいやろ」

 科学の先生なんて、別に私理数系は得意なだけで専門として扱ってないし……。

「それか科学者?」

 科学者も興味ない。第一理数系に興味ないし。

「それか──」

「そんな簡単に決めつけないでよ」

 思わず声を張って言ってしまった。

 驚いた表情で私を見据える母に、私はさらに言葉をつなげる。

「私の人生なんてお母さんに関係ないじゃない。なんでそうやって口出ししてくるの? 皆誰しも自分の夢を持ってるんだよ」

「でも、お母さんは──」

「でももだってもない! お母さんの見る夢と、私の見る夢は違うの!」

「……」

「……ほっといてよ。お母さんには関係ないじゃない」

 立ち上がり、書斎部屋を出る。

 自分が進む道なんて、親には関係ない。

 親はあれやこれやと、自分の考える夢を押し付けてくる。それが嫌なんだ。嫌で嫌でしょうがなくて、敷かれたレールに沿って歩く人なんて人じゃないとまで思えてくる。

 それはもはや、ただの『機械人形』だろう。それだけはなりたくない。そう思いながら、私は自室に入りパソコンに目をやる。ふと起動した時に、メールアイコンの右上に『1』と赤丸に囲まれた白字の数字が刻まれていた。

 通知だ。開いて受信先を見ると、有剛先生からだった。一体なんなんだこんな時にと思いながらも、メールを開いてみた。


『件名:元気かな?


 もうすぐ八月ですねぇ。

 橘陬さんは今頃家族と楽しんでいると思いますが、少しだけ悲報があります。

 霙さん、いましたよね。

 今あの子体調が悪いらしいですよ。茅島さんがそんなことを言っていました。

 茅島さんは今母国の中国に帰っているらしく、『ゆずに連絡しといて、しなかったら今後一生神埜ちゃん先生呼びの刑だから、加油(がんばれ)』って彼女に脅されたもので。いやぁ早めに連絡できてよかった。

 さて。進路は決まりましたか? 橘陬さんの事でしょうから、もしかしたら親御さんに言えてないのでは? 先生はあまりとやかくは言いませんが、自分が何をしたいかを導き出したいときは、今まで言われた言葉の中で一番印象に残っている言葉を思い出すことが最善だと、先生は思いますねぇ。それは何故かと言いますと、人は言われたことに影響しやすいからです。当たり前の知識でも、正しいことよりも間違ったことを先に言われれば、人は間違った知識の方を頭に入れてしまいます。

 もし橘陬さんに恩師がいるのであれば、その恩師に言われた言葉を思い出しましょう。

 気難しく考えないで、自分はこうありたいと言う願望を親御さんにぶつけるのです。

 先生はいつでも応援していますよ。ぐっどらっくです!』


 いや、そう言われても。

 メールを閉じ、ネットを開きながら考える。

 恩師かぁ……私だったら誰なんだろう。

 有剛先生? 朱雀? それとも、朱峰? いいや、皆違う。私に恩師なんていないのではっていう可能性が微レ存。母も義父も、最初から私なんか見ちゃいない気がする。ほとんど和子を見て話している気がする。そう思うと、なんだかこの家にいていい存在なのかというところまで考えてしまう。

 こういう時は誰に聞けばいいんだろう? 話して気持ちが晴れやかになる存在なんていないような……。


 ……あ、いる。


 後半の文章にとらわれ過ぎていて見えていなかったけど、私には霙がいるじゃん。しかも体調悪いって……大丈夫なのかねあの子、一回電話してみようかな。いや、流石に迷惑かな。体調が悪い時に連絡したら、多分余計に体調を崩すんじゃないかな。私がそうだからね。

 それにしても、恩師の言葉か。霙に言われたこと。実は一つだけ思い出した言葉があった。


『なにか大きな物事をやり遂げられたら、それが初めて親友って呼べる存在になるんじゃないかな?』


 思えば、どこからが親友なのかから始まったことだった。

 霙と二人でやり遂げられる大きな物事。それは彼女の第二の職業である『小説』なのではないのだろうか。以前、霙は『原稿用紙に一文字書いたら、誰だって小説家だ』とメッセージで言っていた。

 誰にでも小説家になれる権利はある。それは速読でも同じことだ。本を持って、早く読んだら誰だって速読家だ。子供のような意見だが、言っていることはとてもまともだった。

 私は携帯を持ち、LINEを起動してトーク画面を開いた。明朝体で表示されたその名前は『霙』。

『霙、体調大丈夫?もし大丈夫だったら、話したいことがあるから電話してきてくれるかな』

 送信した数秒後に既読が付き、そのまた数秒後に着信がかかってくる。

 待って暇人かよ。

 心でツッコミを入れつつ、私は電話に応答する。

『もしもしなした話したいことってなんだい!?』

 応答早々、少し裏返った声が聞こえてくる。風邪気味なのかな。それとも慌ててるのかな。

 でもやっぱ暇人だった。でも電話越しに機械の音らしき雑音が聞こえてくるから、もしかしたら執筆中だったのかな。

「落ち着いてゆっくり話して?」

『ごめんごめん! 何かなぁって思ってさ!』

「いや、大したことじゃないんだけどさ、前に書籍化の検討してたじゃんか?」

『おぉーしてたね! それがなした?』

 正直言って、外れた道は行きたくない。

 でも、レールに敷かれる人生は過ごしたくない。

 単なる私のわがままだ。でも、私にはこの道しかないのではと感じてしまう。

 彼女と歩む人生なら悪くないかもしれない。

 いつしか心のどこかで、霙という存在を遠く感じていた時があった。

 でも今はそばにいる気がする。だって親友なんだから。

「やってみようかなって、思うんだよね」

 はっきりと言った。

 人に物事を言うのはあまり得意ではない。それでも、霙が見る世界を、景色を、光景を、運命を、私も隣にいて見てみたい。

 そう思うと不思議と言葉が出た。

『ほんと!? やろうよ、ゆずなら出来るよ!』

「そ……そう、かな。出来るかな」

『出来るよ! 実力なんか無くたって、ストーリーを紡ぎあげれば誰だって小説家になれるんだから!』

 霙はいつになくはしゃいでいた。そりゃそうだ。私も霙の立場だったら喜んでしまうだろうに。

 霙が言うに、執筆は基本的にワードで打って、データを担当者に送信しているとのこと。ワードやエクセルはレポートに必須だから入れてある。フォルダや保存先を分ければ何とかなるだろうと霙は言ってくれた。最後まで向こう見ずな天才作家に、私は少し呆れながらも霙と二人で文章作法などをおさらいしていった。

 ……が、しかし。肝心のストーリーが思い浮かばない。なんてこったパンナコッタだよ! 現代ファンタジー、文芸、ヒューマンドラマ、神話、歴史、伝奇……他にも、ジャンルは様々だ。

 でも、私に見合うジャンルが何も見当たらない。霙は、初めに小説を書くことを勧めてきた時と同様にゆっくり考えればいいと言っていたが、どうしてだか急かしてしまう自分がいた。

 そこで夕飯に呼ばれ、私は顔を上げて時計を見る。いつの間にか三時間ほど話していたようだ。体調に気をつけることと、また話そうと言い、私は電話を切った。


***


「決めた?」

 夕食中、再び母から声をかけられて顔を上げる。

 私を見る母は、食事の手が止まったままだ。そんな母に言い出そうかどうしようか、居間に続く階段を降りている時にずっと迷っていた。

 でも、言わないとどうにもならない。それなら言うしかないと腹を括ったばかりなのに、この母親(ひと)はどうしてこうも悲しい顔をするの。進路が曖昧なのは私が悪い。でも、どうしても親に言われたレールを歩くのだけは嫌だと思っている。

「決めた」

「どげんすん?」

「私小説家になるよ」

 母の開いた口が塞がらない。

 見ていてとても面白かった。大学に通っているのに、関係の無い小説家になるだなんて、たまげた話だと思っているだろう。だけど、私は霙が言った言葉を思い出した時から本気だった。母にはそれが見えなくとも、あくまでなるつもりでいるのだ。

「お姉ちゃん小説家になるの?」

 隣にいる和子が声を上げる。

「うん。霙が編集者になってくれるって言ってるけど、多分霙のお父さんになるんじゃないかな……」

「え、だったら私お姉ちゃん応援する」

 食べる手を止めて和子は言う。

 確かに応援してくれるのはとても嬉しいことだ。でも全ての決断は、親である母が許可をくれないとすることはできない。

「小説家の世界は厳しいくさ。それでもやるって言うのかい」

「もちろん。私にやれないことなんてないんだから」

 胸を張って私は言う。

 ここまでしないと、母は子の行く道を進ませない(たち)の人間なのだ。

『本気でやらないと、いずれは手を抜いて出来なくなる。そうして人間は構成されている』なんて、母の決まり文句を小さな頃から言われたおかげで、大学の進学に母を説得するのはかなり時間がかかったのだ。

「……ゆず、お父さんからも言っておこう」

「なに今更……」

 父は持っていた箸を置いて、右手の人差し指を立てる。

 滅多に話さない父が話すなんて何事かと思い、私も箸を止めて集中して聞くことにした。

「夢は見るだけのものじゃない。夢は叶えるものだ。叶えたい夢があるんならお父さんたちは全力で応援する。だけど、手を抜いたらわかってるな?」

「お父さん、お姉ちゃんは本気で考えてるんよ! ほんなら応援するべきやん!」

「まぁそうやんな、和子。でもお父さんも叶えたい夢を追いかけ続けたけど、親父に反対されてここにおるんやでぇ。だから、そんな夢を持つ柚羽や和子には是非叶えて欲しい。な、母さん」

「んん、お父さんがそこまで言うんやったら……」

 あ、お母さんちょっと妥協してる。

 お父さんの意見はお母さんよりも正確に、そして正論だからだ。お母さんはどちらかというと早く決めて思考の人だから、後先なにも考えずに発言することも多々ある。だからその度にお父さんに正論をつけられて言うことがなくなる。私はどっちの対応の仕方も嫌いじゃない。早く決めたいのは分かるし、お父さんの正論は聞いていて耳も痛くない。

 だから、この人たちはこのままでいいんだと思う。

「分かったたい、お母さんも応援するとよ。しっかり頑張りなさいね。春作さんのとこで学ばせてもらえるんやったら良い機会やけん、お母さんから連絡しとこか?」

「あ、それ助かる」

「よし任せるくさ!」

 どうにか説得できたようで良かった。

 これで霙に心置きなく連絡できる。そう思った翌日のこと。

 事態は急に発展した。

 いつも通り本を読んでいたら、霙のLINEから着信が入ってきたのだ。

「もしも──」

『もしもし、柚羽ちゃん!?』

 電話に出ると、相手は春作さんだった。

「え、あそうです。その声は春作さんですか?」

『そうなんだけど、とりあえず大変なんだよ!』

「なにが……」

『霙が……





 倒れたんだよ』

御一読お疲れ様でした。

ブクマ外さないでいてくれて、とても嬉しかったです。ありがとうございます(・ω・)

まて頑張っていきますので、よろしければ評価、感想、レビューなどよろしくお願いします!!

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