第十六頁 急すぎて
お久しぶりです……急に書きたくなってしまって、更新しました。
「え、倒れた?」
状況が飲み込めず、私はそのあとの言葉を失ってしまう。というのも、あまりにも急すぎるのだ。誰だって親友が倒れたなんて知ったら言葉が出なくなるのも明確ではある。
霙の状況を聞くと、意識不明の重体で、いつ目がさめるか分からないとのこと。
とにかく不安で仕方がなかった。あの夢のことを思い出したからだ。遠く離れて、ついには姿が見えなくなり、向日葵の咲き誇る一本道を佇むあの光景が、現実になりそうな気がして。
「それで、今はどこに……」
「大阪の病院だよ。集中治療室にいるんだ」
焦っている訳ではなかった。時間があれば行こうと思えば行けるのだ。でも家族との生活も大事にしなければいけない。今はただ、霙の意識が回復することを願うしかない。何も出来ない自分に腹が立った。嫌気がさして、何かあったらまた教えてくださいと一言添え、私はそれ以上携帯と顔を合わせることは無かった。
時刻は午後十六時ちょうど。電話を切った時と同じタイミングで、古ぼけた時計が四つ金を鳴らす。
「ゆずー! ちょっと頼みたいんやけどー!」
母に呼ばれ、私は部屋を出る。
霙が倒れたことを、母に伝えようかと思った。母なら分かってくれると思った。
だけど、否定された時のことを想定してしまうと、怖くて言い出せなかった。
強力粉を三つ買ってきて欲しいとのことで、一〇〇〇円を渡される。とてもじゃないけど、行く気が無かった。それよりも霙のことが心配で、家を出た時から強力粉を買っている時まで、ずっと彼女のことを心配していた。強力粉を買い終わって帰路に着いた時には、腕に付けていた時計の時刻は既に十七時四十二分を指していた。
うちのご飯は十八時半からだから、ちょっと時間がある。
少し、懐かしい道を歩いてみよう。
懐かしい道っていうのは、私が高校時代によく友達と歩いていた河川敷のことで、今でもその名残があるからか帰り道によく歩いてしまう。
「お? おーい柚羽!」
名前を呼ばれ、振り返る。するとそこには、高校時代一緒のクラスで友達だった草薙若葉がいた。
「若葉……随分背が大きくなったもんで」
「へへ、久しぶりだな! 柚羽も背伸びたんじゃないか?」
「まぁね、伸びたと思うわ」
河川敷にびっしりと敷き詰められた草の上に、若葉は腰を下ろす。つられて私も腰を下ろすと、これまで抱えてきたことや大学での出来事、霙との再開、霙に小説家にならないかと提案された悩みを打ち明けた。
若葉は霙のことを知っていた。同時に、私と霙が幼なじみだということにとても驚いていた。
「そりゃあいい機会貰ったじゃんか。私よりもいい人生歩けるんじゃないのか?」
「それはそうなんだけど……まだ将来の夢も定まってないし、全然考えてなかったことだし……」
河川敷の向こうに見える街の風景を見据えながら私が呟くと、「うーん……」と若葉は何かを考えだす。
「?」
「いや、私はほら、電気系の大学に進学しただろ? 危険物とか取り締まる資格だって持ってるけど、私の行きたい道とはちょっと違うんだよ」
「どゆこと?」
首を傾げると、若葉は更に言葉を繋げる。
「人生は行き当たりばったりだ。チャンスは掴んでこそ、何かいいことが起こるかもしれねぇだろ? 私は掴んでおいた方がいいと思うぜ。その霙って友達が本当の小説家だってことは私も知ってるし、その親父から直々にオファーが来てるんだからさ」
そういわれても……と、私は困惑する。
「まぁゆっくり考えな。柚羽は才能あるんだし、きっとうまくやっていけると私は思うけどな」
「うーん……まぁ、考えてみる」
「よしよし」
頭を撫でられる。不思議と、幼いころに霙に撫でられたことを思い出し、私は少しだけ安心し、顔がほころんだ。
「よぅし、ほんじゃ、私は行くからな。柚羽は大学の帰省だろ? 何月まで残るんだ?」
「大体八月の中旬くらいかなぁ。それ以降はレポート仕上げなきゃいけないし」
「お、そうか。じゃあまた機会ある時に二人で遊びに行こうぜ」
「うん、できたらね。それじゃあ」
私と若葉はハイタッチをして、お互いの方向に進んでいった。
河川敷のきれいな川水が、建物の隙間から顔を見せる夕日に照らされてまぶしく輝く。その光景に思わず目を奪われ、私はしばらく立ち止まる。
霙にも見せてあげたいな。小さいころは、夕方ごろになったらすぐ帰っちゃったし。
「……よくなるといいけど」
そうつぶやき、十八時を回る直前、私は完全に帰路についた。
***
家に帰り、私は真っ先に書斎部屋へ足を運ぶ。
管理していた祖父本人は私が五歳の時に亡くなっており、現在書斎部屋は私が管理している。いない時は母が管理しており、自由に入れることになっていた。
その書斎部屋を入ってすぐ正面の奥にある、窓際のひとつのテーブル。
長方形型でランプがついている、勉強机のような感じのテーブルだ。そのテーブルの上には、風でパラパラとページがめくられている誰かの読みかけの本が置いてあった。
祖父もまた小説家だった。それを知ったのは、祖父が亡くなった後に知らされている。
だから、どうして小説家になったのか、どうやって小説家になったのかなんて見当もつかなかった。
「……おじいちゃんは、どうやって小説家になったんだろう……」
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