せめて負け犬らしく
◇
「…まあ、よくあるよな。一度倒したと思った敵が復活してたとか。しかも、アンデット化とかしてさ」
フレアちゃんが言う状況が目の前にあった。王城に突入した私たちは各所を制圧し、最後に玉座の間へやってきた。そこには真っ二つになって死んだはずの国王が居た…まあ、気持ち悪いのが腐敗して更に気持ち悪くなっていたんだけど。
「汚物は消毒だよ。フレアちゃん、焼いて」
「いや、聖女の言葉じゃないでしょ」
アリエルアの気持ちはよく分かる。両親を殺されたのだし…
「フハハハハ…ワダジハイダイナルブチザマノオヂガラヲエデブジノヂガラヲエダノダ。ジデンノヴドジデオマエダヂヲダオジデヤロヴ」
読みにくい聞きにくい分かりにくい…でも、はっきりと味方ではないのは分かりきっている。でも、これはチャンスなのかもしれない。私がリーゼアリアと向き合うための…
そう思った間にもフレアちゃんが燃やそうとするけど阻害されているのか周りの装飾布が燃えるだけ…いやいや、火事になっちゃうよ。
炎か…
「…ねえ、アリエルア…そろそろ諦めようか」
「何を言ってるの、リーゼアリア姉様…ここで諦めたらこれに穢されるんだし…」
「だから、諦めるの。私たちが見ないふりしてきたものをいい加減見ないと…半分の半分でしかない私たちが全部を受け入れないと穢されたままお兄ちゃんに愛されて壊れるでしょ…私の中の私たちが」
「……いつから気付いてたの?」
「あの…2人の話が見えないんだけど…」
まあ、フレアちゃんは知らない事だから仕方ないか。私が…藤島灯里という存在の死に居合わせたわけではないし。
◇
あの時受けた死の一撃は私の中で呪いを生み出した。天使と世界を呪うほどの力を【水魔法】と共に最初に砕けた魂の破片と共に放った。そうじゃなかったら私は安らかに死ねなかっただろう。
次に砕けた魂は【水の聖剣】に入れた。皆を守れる力を、親友たちが託してくれた力を誰かが正しく使ってくれるように。
散らばっていく欠片は皆の心に…ただ、忘れないでいて欲しかった。
そして残った魂を…私は自ら壊して2人に託した。
スライムによって壊れてしまった2人。お兄ちゃんに告白して断られ、それでもお兄ちゃんを好きなままで居てくれた2人…私が友達になりたかった人たち。私が本気で言えなかった事を伝えられた尊敬したい人たち。
輪島莉瀬と中野有紗…私とアリエルアの残り75%の前世。余計な事をしたせいで灯里が殺してしまったもう1人の私たち…壊れてしまったままでいれば幸せな夢を見続けられた。お兄ちゃんに抱かれる幻想の中で快楽に身を委ねていれば良かった。
でも、私が補ってしまった。あまりにも過剰な魂が入って2人は治ってしまった。その結果、2人は心をズタボロにされ炎の中に身投げした。藤島灯里を葬るための炎の中に…その事をかなちゃんも含めた誰も知らない。灯里と共に燃やされた葬送品は多く、死者も多く…2人の事はタブーとされていたから。
◇
(やあ、輪島莉瀬さん…久しぶりだね)
心の中でまた繋がった彼女に私は声をかける。
(…久しぶりね。莉瀬としては託したはずなんだけど。リーゼアリアとしての一生も何もかも…穢されたのか望んだのか覚えてない。快楽に溺れるだけしか今だって考えてない…)
(それは私だって同じ。但し、今世の相手はお兄ちゃんだけ…だから、力を貸して。このままだとあのゾンビに穢される)
(それは嫌ね…でも、覚悟は出来てるの?)
(友達のため、お兄ちゃんのため…本質は変わらないよ。だから、私はリーゼアリアになるよ)
たとえ消えてしまうとしても、変わってしまうとしても…気持ちだけはそうならないと思ってる。
さあ、リーゼアリアに還ろう…
◇
(あなたが本当の中野有紗さんか…)
僕の…私の中から溶け合ったはずのアリエルアが抜け落ち、よく知る中野さんの姿へ変わっていった。
(その…あの…ごめんなさい。嘘をついてました。本当の自分を出したくなくて…)
(それは仕方ないよ…好きでもない人たちにあんな事をされたら。でも、今でも好きでしょ…それだけは偽ってないはずだよね?)
(はい…)
(なら、本当の自分に戻ろう。前に進むために)
◇
「何で、こんな時に気絶するんだよっ…」
不意に2人が倒れて、オレは庇いつつも目の前のワイトだかリッチだかよく分からないのを相手に戦っていた。
「ゴムズメ、ギザマもワダジノゴレグジョンドジでガワイガッデヤルガラオドナジグジロ」
「ちゃんと話せるようになってから話しやがれっ!」
いくら炎を飛ばしても効果が無い…先輩が来てくれたら楽なんだけど、無理だろうし。せめて2人のどちらかが起きてくれれば…
その時、突然辺りが眩い光に包まれた。そして、2つの光が敵に突撃していき…
「ナ、ナニガ…ヤ…ヤメロ…ヤメデクレエエエエエエエエエエエ」
そのまま目の前の醜悪なバケモノは光と共に消滅していった。
残された静寂の中で、2人の泣く声だけがただ響いた…
◇
私の目の前に2つの光が現れた。
「お帰り…まさか、混じり合わずにこっちに来るとは思ってなかった。器も無い、1つになっても姿はこんな幼い少女なのに構わないの?」
(リーゼアリアは私だけど私じゃなかった。それだけだよ。ただ、私たちはお兄ちゃんと同じように友達を穢そうとする負け犬ゾンビを倒したかったし、これしか方法なかっただけだし)
(アリエルアもかな…あの体は中野さんのだから。輪島さんだって同じ…王女や聖女、女神なんて私の柄じゃないよ。それに解放出来るほど魂の回復はしてたし2人は安全。私が知る最大の攻撃をしただけだよ…前みたいに)
光となった灯里たちが満足そうに答えてくる。とはいっても、私は不純物を抱えている身だ。すぐ受け入れるのは大変…まあ、きちんとやるけど。
「でも、お兄ちゃんが深く傷つくわよ。目の前から灯里がまた消えて…」
(すぐに会えるよ。それに、その体を捨てればお兄ちゃんとずっと一緒に居られる方法をかなちゃんが教えてくれたし)
それは単なる死亡フラグだったんじゃない…とは言わない。自分で漫才している場合じゃなかった。早くしないとアホネコが帰ってくるし…それに、この体が空けばラピスのためにもなる。唯一彼女が心を最後まで許した魔王を救えるから…さあ、予定は狂ったけど良い展開になったから忙しくなるぞ。