知識と心と魂と
奏多が持つのは【地の聖剣】と【炎の聖剣】だ。言わずと知れた勇者が持つ聖剣の内の2本…【風の聖剣】はシュウの手元に戻り、【水の聖剣】はミケの故郷が管理している。
「起きて、アース。フレア」
奏多がそう呼びかけると2本の聖剣が震え出し…その姿が少女へと変わった。
「手品にゃん、初めて見たにゃん」
「いやぁ…手品じゃないかな。これ、中身は元祖駄女神の元マナの女神と沖田くんなんだよ」
奏多の言葉に、皆が身構える。まあ、邪神コンビが目の前に現れたらそうなるよな…奏多は何を考えているんだ。
「待って待って待って。何もしない、何もしないから。そんな事したら本郷さんにリセットされるから」
赤い髪の少女、フレアが慌てながらそう言ってきた。どうやらこちらが沖田のようだ。という事は茶髪の方が…何故、土下座をしてる?
「許してください、ごめんなさい、申し訳ありませんでした。このような偉大な御力を持つ方を害してしまった事はマナの女神としての恥です、ゴミクズです、汚物です。そんなわたくしに慈悲は求めません。ですが、ですが少しでも情けをいただけるのであれば何でも致します。ですから、消滅だけはどうかお許しください」
何これ、ドン引きなんだけど…初対面の人に、しかも女の子に土下座をされる謂れ無いんだけど…
いや、一応あるにはあるんだろうけど不可抗力もあればドラゴン送り付けたクソ魔王は倒したわけだし、消滅させたところでメリット無いはずだ。後ろで奏多がこれで良いと言わんばかりに頷いてるのも気にはなるが。
で、その本家駄女神曰く、邪神との戦いで弱体化を目論み聖剣に2人の魂を移し替えた結果がこれなのだと。ファンタジー物でよくあるインテリジェンスソードが更に聖剣の影響で少女の姿へと変化したのがアースとフレアという事だそうで…
「シュウちゃんにはその技を覚えてもらって、近江くんを聖剣の女の子にしてしまおうと思ってるんだよ。そうすればラピスちゃんの説得も出来るし、お兄のハーレムが増える。まあ、シュウちゃんの価値が下がるんだけどね」
ダメだ、本家駄女神が駄女神の思考に偏り始めた…変なところ似てるからなぁ…
そんな事はさて置き、皆にも謝って回るアースとフレアは許す事にした。まあ、元祖駄女神と沖田だもんな…沖田の方は色んな意味でバカを貫く奴だったし、女神の方も反省してるみたいだし。何より、保護者が覚悟して2人を見せたのだから1度は信じるとしよう。
それに、女神が直接誰かを殺したという事が無いのだ。俺も人間を見限った身としては謝罪しても許されない事をしたし、あんな奴らに謝罪するつもりは無いのだ。むしろ、何度か直接殺してる分、俺の方がタチ悪い…
リーゼアリアたちに土下座をして回るべきは俺の方じゃないか、マジで。
で、軽く土下座しようとしたら全員に泣かれた。いや、捨てたりしないから安心しろと…ちょっとこの依存状態を何とかしなきゃいけないと思う。
◇
夜、部屋を抜け出して俺は庭に出た。久しぶりの感触を確かめるためだ。
「…はぁ…やっぱり重い」
何度か【風の聖剣】を振ってみたが、昔とは違って華奢な女の子の、しかも鍛えてもいない体では【風魔法】を使ってでも思うような動きは出来なかった。
「北里、何してるんだよ。お前、病み上がりだろ?」
「北里言うな。シュウだ、沖田」
「そっちこそ沖田言うな。フレアだ、フレア」
互いにバカらしい会話をしていると笑う。沖田とは特段親しかったというわけじゃない。先輩を慕う同志みたいな感情はあったけど、俺は竜介と一緒に居るのが多かったし、沖田はサッカー部があった。同じクラスでも親しく話すグループでもなかった。
とはいえ、仲は良くも悪くもなかった。こっちの世界を来てから対立する事もあったが、あくまでも考え方の違いであって認め合っていた。
「あれは無いと思った。【炎の聖剣】抜いた途端に火山大爆発だぞ…女神が助けてくれなかったら死んでた…というか、死んだんだよな。あいつらは…」
「……藤島さんの方も、本郷さんの方もな…俺たちはリエルに助けてもらって無事だった。先輩、ブチ切れて洞窟壊したらしいし…鬼畜すぎたんだろ。でも、イリーナさんが言ってた。勇者がちゃんと力使えば助かる仕掛けだったんだろうって」
「マジか……オレ、助け損なってばかりじゃんか」
400年ぶりにあの時の事を互いに話す。本当はこうしていなければいけなかった。仲間だったんだから、話し合えば理解出来たはずだったのにそうしなかった。今思えば本郷さんは藤島さんの死を隠そうとしていたのだろうし…
「いや、どのみちアウトだったって。女神殺して取り込んだ時点でオレはやっちゃいけない一線越えた。全部滅ぼせばなんてバカな事考えて、その中に皆が居る事忘れてた」
俺の考えを口にするとフレアはそう返してきた。400年…互いに反省する時間だけは有り余ってたからな。
「俺だってお前殺そうとしたんだから似たようなもんだろ…」
「…それは間違ってないだろ。オレには止められなかった。人間辞めて先輩の事考えて。本郷さん…マスターに言われたよ。『先輩を理由にするな』って何度も何度も…」
「理由か…」
先輩ならどうするか、先輩ならこうしただろうって勝手に考えていたのは俺だって同じだ。ちょっと先輩を万能な存在って見てた気がする。いや、理想を押し付け過ぎてたって方が正しい…今の先輩は前とはちょっと変わったけどこんな人だったと納得出来る。だからこそ、俺たちは間違ったんだとも…
先輩ならこの世界を助けはするだろう。でも、きっと1人だけでだ。着いて行くかは別として拒むのは間違いないし、使えるものは天使でも利用したはずだ。守るのだって全力で守るためなら相手の事なんて考えないし、敵対するなら最後の1人まで容赦しない。
「あー…確かにそんな感じだった気がする。というか、今もそんな感じだった。人間辞めたから分かるけど、マスターがオレたち出した瞬間に叩き折るプレッシャー感じたもん。マスターが変な動きしてたらオレら粉々だった…アースはそれで逆らえないって思って土下座して許してもらおうとしたんだし」
「お前の相棒、プライド無いな…」
「まあ、マスターにもあんなだし…それに、こんな体になった手前、色々考えてるんだろ」
なるほどとは思うが、それを友人にやらなきゃいけない立場なんだよな…いや、それ成功しないと琉璃ちゃんが助けられないんだからやるけどさ。
「まあ、オレはこの体で良かったと思ってるけどな。シュウだってそうだろ?」
「…まだ先輩割り切れてないと思うから誘惑とかするなよ…」
後、先輩の弟になりたいから藤島さん狙ってたとかもな…知られたら確実に折られるぞ。あの人、それなりにお前の事認めてたんだし…




