そして、語られる過去
「1度心臓が止まれば、北里秀一の記憶は消え去ります…ですから、シュウはもう…」
シュウの部屋へやってきた。そこにはシュウゾウが居て辛そうな顔をしていて、俺たちにそう告げたのだが…
「うん、とりあえずそんなに悲観する必要は無い」
確かに心臓は止まるどころか消失したが、シュウのステータス表記はイリーナも確認しているし、今の俺にでもはっきり見える。だからこそ、与えられた記憶ではないものを思い出させられるのだ。人工的に作られた命でも魂が本物なら…
「…【時戻】…これでどうとでもなる。正真正銘、シュウは北里の生まれ変わりだからな」
「なんと…」
何か茶番なわけだがどうやら毒まで使ってシュウ…いや、風の勇者を殺そうとしていたのだから猫耳大魔王というのは本気なんだろう。だからこそ、俺を本気で怒らせた…
「ご主人様…我輩は四天王なんかじゃないにゃ。信じて欲しいにゃ…」
そんな事を考えていると開いた扉から伺うようにミケがこちらを見つつそう言ってきた。
「疑ってなんかないから安心しろ…あんな腐れ外道の言葉を信じるほど俺はバカじゃない」
「ご主人様ぁぁ…」
そう告げるとミケが泣きながら飛び付いていた。やっぱり天使は潰す…ミケを泣かせたブチってのも潰す。決してミケが鼻水を俺の服でかんだからではない。
「あの…ウチにはどうして天使がこんな事をしたのかあまり分からないんですけど…」
ファルが聞いてくるのも無理はないか。姉小路さんが生きていた時には天使も魔族も亜人も精霊もいざこざはあったが、共通の敵と戦っていた。その時に彼らはその相手が邪神なんて知らなかったからだ…
それを今も知っているのは奏多とシュウだけだろう。シュウゾウは北里の記憶をシュウへ移して思い出せないらしい。
まあ、邪神の後ろの黒幕を知られるわけにもいかなかったからな…
「天使は敵だ。そして、魔族が虐げられているのは自虐が原因だ…精霊が消えたのは自業自得だし」
「お兄ちゃんは知ってるんだよね、色々…」
「ああ…奏多から聞いてはいる。俺の死の理由もお前らが召喚された原因もな。ただ、あんまり説明したくはないなぁ…」
奏多、説明下手だったし。俺も当事者じゃないから伝えきれないものはある。シュウが適任なんだがいつ目覚めるか分からない。そう告げると…
「お兄ちゃん、お姫様を目覚めさせるにはチューだよ」
残念妹1号が残念な発言してきた。お前じゃあるまいし、人が寝てるのにそんな事するわけないだろ…
「お、お兄様の転生後のファーストキスはそんなんに使っちゃダメだと思うんだけどっ!?」
いや、転生後のファーストキスはセイントドラゴンに奪われましたが何か?
「我輩もキスして欲しいにゃん」
「に、兄様にならキス以上の事だって、いつでも…」
「トウマさん…ウチも…」
3人寄れば何とやらだが、限度がある。ケガしてるシュウが寝て…いや、こいつタヌキ寝入りしてる。一瞬目が合った。しかも、若干唇突き出して待ってやがる。ダメだこいつら、何とかしたくない。
◇
その頃、某所にて…
「あの天使もバカな妹も使えない。たが、所詮あいつは四天王最弱。ミケは予備でしかなかった…お前たち、後は任せるぞ」
1人の猫耳大魔王が祭壇から声高らかに2人の少女に告げる。
「「…………」」
2人の少女の反応は無い。
(バカな奴。あんなのに利用されて…まあ、利用してないのはこの中にはこの子だけか。この子の心を溶かせるのはやっぱりあの人だけだもんね)
動き出した私たちの時間…あの人たちと敵対するのは嫌だけど予定調和だから仕方ないと割り切っている。まずは天使を片付けられた…
2人の少女がこちらを見てくる。まだブチが居るから話は出来ない。でも、私たちは想いを同じにした同志だ。時も世界も超えて、私たちは繋がった。だから、大丈夫…私たちには最強のおにいちゃんが居るのだから。
◇
シュウへの目覚めの口付けはシュウゾウにやってもらう事にしたら飛び起きた。やれば出来るじゃないか。
「あー…えっと、何か不思議な気分です。秀一の記憶に抑え込まれた感じもなくて、俺は俺なんだって思えますし、きちんと異性として先輩が好きなんだって思えますし」
なんか、恥じらいが芽生えたようだ。今更な気もするが。まあ、貫かれたのや毒の後遺症も無さそうだし色々と考えなきゃいけない事も聞かないといけない事もあるからな。
◇
バカネコが祭壇から出て行き、3人が近付いてきたので私も姿を現す。
「いやはや、ここまで愚かだと魔王というのはバカと呼ばねばならぬな」
「…それ、お兄ちゃんを愚弄してます」
「あやつが一番の大バカじゃ。その次にお主かの」
私と同じ境遇の少女が呆れたように四天王の1人に毒を吐く。それをやれやれという表情で見るもう1人の四天王…
「…あー、こほん。じゃあ、この世界に起こった事を話すよ。おにいちゃんが居なかった世界の事なんてどうでもいいかもだけど」
3人から私の知らないおにいちゃんの話は聞いた。だけど、この子にはそれだけじゃ足りないから私たちの話も必要だ。だから話す…まずは、この子の前から居なくなってからの事を…




