4つの聖剣と勇者の物語1
◇
「おはよう」
「おはよう」
いつもの教室、いつもの朝。そこに重苦しい雰囲気は既に無く当たり前の日常…
「やっぱり、慣れなきゃいけないよね」
昨日、やっとお兄ちゃんとお別れした。かなちゃんたちも来てくれてようやくお兄ちゃんをお墓に入れた。お兄ちゃんはかなちゃんの誕生日プレゼントを買いに行った先でドラゴンに殺された。
お兄ちゃんの居ない生活は私たちにとって地獄だった。いや、地獄なんて生易しいものですらなかった。何度も死のうとして、それでも出来なくて、傷だけ増やしていって…
「慣れる必要はないんじゃないかな…俺だって、もう昔に戻れないと思うから」
「かなちゃん…」
かなちゃんの気持ちはよく分かる。男装してお兄ちゃんの弟になりたかったかなちゃん。妹には私が居るからとずっと傍に居たいからって…そんな事しなくても、ずっと傍に居られるはずだったのに。お兄ちゃんが買ったプレゼントから考えても…だから、もう2度とかなちゃんは女の子に戻れないし戻らないんだろうと思う。
そんな事を考えながらいつも通りではなくなったいつも通りの毎日が送れると思っていた。
◇
その日はいつもと少し違った。竜介が遅刻してくるのはそう珍しい事じゃない。でも、朝現れるはずの先生が現れなかった。まあ、先輩の遅れ馳せながらの納骨式が終わり職員会議で報告とかしているんだろうと考えていた。
その激震はすぐにやってきた。それを俺は、俺たちはよく知っていた。地震なんかではない。テレビで何度も観た…観せられた。何も無い空間に黒いヒビが入り、そこから出てくるドラゴンの姿とその後。俺たちの目の前にも黒いヒビがあった。
「皆、逃げ…」
俺が言い終わる前に、俺たちはヒビ割れ続ける真っ黒な場所に飲み込まれた。それは一瞬の出来事だった。
◇
「29人…確か、近江くんは居なかったのよね?」
見知らぬ森の中にわたしたちは居た。召喚…なんてバカバカしい事を言う子も居るけど、わたしたちはそれで燈真先輩を失った。点呼を取って遅刻していた近江くんを除いた全員がバラけずに居たのは幸いだろう。
見れば、何人かは泣き喚いている…当然だと思う。でも、興奮して話を聞かない子も居る。それも理解出来る…そんな中、わたしは冷静だった。昨日泣きすぎたからだと思う事にした。委員長がしっかりしないとなんて気負うつもり無いけど…ちょっとだけ頑張ろう。
◇
「高い、高すぎるって、ここの木」
あたしは木登りして上から周りを見る役をいいんちょに頼まれた。まあ、木登りネコちゃんなんて言われてたからね…あかりんに。とはいえ限度がある。ロープも無い上に足をかける場所も少ない。ある程度登ったけど、無理。周りも木ばっかりで何も見えなかった。でも、下の茂みに視線をやると動く何かが見えた。
「…猫耳?」
◇
「にゃ、にゃにを…」
ネコちゃんの言葉に従ってしのぶと一緒にそれを捕まえた。未だに茫然自失としてる灯里ちゃんへのお土産…ってわけじゃないけど、現地の人に話を聞かないといけない。
「お嬢様、縛りますか?」
「さすがにそこまでは…というか、ロープ持ってるならネコちゃんに渡したげてよ、しのぶ」
あたしたちは猫耳の女の子を皆のところへ連れて行った。
◇
名前の無い女の子を灯里ちゃんがタマと呼ぶ事にした。彼女は猫耳族というこの世界の原住民の亜人の1人らしい。
俺たちは魔物を倒しこの世界を平和にする勇者として召喚されたって話らしい。なら、お兄…いや、先輩を殺したドラゴンもこの世界に居るのかと灯里ちゃんたちが彼女を問い詰めたけど、それは分からないらしい。
とりあえず、代表に会って欲しいと言われ反発する何人かをいいんちょと一緒に宥めた。俺たちにはそうするしかなかった。
◇
タマちゃんは猫耳族のお姫様だった。魔物を倒すためだけに私たちはここに呼ばれた。お兄ちゃんを殺したドラゴンの事は分からない…なら、どうでもいいやと思う。お父さんとお母さんはツイてないなぁ。お兄ちゃんに引き続き私まで失う事になっちゃったよ。思うのはそれくらい…異世界とか言ったってお兄ちゃんが居るわけじゃない。帰ったってお兄ちゃんが居るわけじゃない。どうせならタイムリープとかそっちの方が良かったよ…
いいんちょやかなちゃんが率先して代表って人たちと話をしている。凄いなぁって思う。私には出来ない…いや、昔はやれてた。隣にお兄ちゃんが居たから。お兄ちゃんの真似をしていただけだ。もしお兄ちゃんが生きてくれてたら私たちを助けに来てくれたと思う。でも、居ない…魔物を倒したいなら高校生なんて呼ばないでよ。もし、そんな力があったら私はお兄ちゃんを助けたかった。
そうやって落ち込んでいるとかなちゃんたちがやってきた。
「灯里ちゃん…大丈夫?」
「うん…わりと大丈夫じゃない」
そう言うとかなちゃんは私の右に座って背中を撫でてくれた。弱っちいなぁ私…皆だってパニックなはずなのにかなり心配されてる。ネコちゃんに姐御にしのぶちゃんだって傍に居るのに。
そうだ。いつだって皆が居てくれた。
「かなちゃん…手を握って欲しい」
私はかなちゃんに右手を差し出す。私の右手はいつもお兄ちゃんの左手に引っ張られてきた。そして、かなちゃんの左手はお兄ちゃんの右手に引っ張られていた。
「うん…」
いつも3人分あった場所に、真ん中にはもうお兄ちゃんは居ない。少しだけ頑張ろうと思う。私はまだお兄ちゃんの妹だから。




