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死神の鳥籠〜激重感情に囲われまして〜  作者: 朝比奈未涼


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3.神隠し




 ふわりと、まるでそこに先ほどまで何もなかったかのように、灰だけがこの場に舞う。



「ふふ」



 その様を深月は…いや、ここにいる生徒は皆、おかしそうに見つめていた。


 深月や私、この学院に通うことのできる妖は人型になれる強い妖だ。

 強い妖は1000年もの時間を生きる。

その為、生や死への執着が薄く、軽く考えているところがあった。


 …が、今燃やされたような人型にさえなれない妖はとても弱く、人間よりもずっと寿命が短い。

 そんな弱い妖たちを強い妖たちは、同じ種族同士だというのに、虫のように扱うのだ。


 弱いものの死は彼らにとって、娯楽の一つに過ぎなかった。

 それが妖の世界の普通だ。


 けれど、私はみんなと同じように何故かこれを心から面白いものとして捉えることができなかった。

 どこかでいつも変な気分になっていた。



「…同族を殺して笑えるなど、おかしな話だ」



 周りの妖たちを一瞥し、理解不能だ、と晴彦先輩が眉間にシワを寄せる。

 そんな晴彦先輩に、深月はその美しい瞳を柔らかく細めた。



「弱いものの死に様は愉快でしょ?それに俺は先輩を助けてあげたんだよ?」



 晴彦先輩が怒っているからこそ、楽しそうだ。

 晴彦先輩は深月を睨みつけると、「不要な助けだ」と苦々しげに言い捨てた。


 何故、同じ妖であるはずの晴彦先輩だけが、他の妖と違う反応を示しているのか。

それは彼がつい2年ほど前までは、人間だったからだ。


 彼は強い妖によって、神隠しに遭い、妖になった元人間だ。

 神隠しとは、人間の世界では突然消えてしまうことを意味する。…が、妖の世界では違う。

人間を攫い、妖として作り変えることをそう呼ぶのだ。


 しかし、強い妖の力さえあれば、誰でも妖になれるわけではない。

人間側にもその素質がいるのだ。

 晴彦先輩のような存在は本当に稀で、私のような突然変異種よりもうんと珍しい存在だった。


 神隠しに遭った人間は、妖へと作り変えられたその瞬間から全てが変わる。

見た目も、能力も、寿命も、全て。


 見た目…特に瞳の色は自分を作り変えた妖の特徴を色濃く受け継ぐことになり、その妖と同じ瞳の色になる。

また能力も同じく受け継ぐ。


 晴彦先輩が使える能力は鬼と同じだ。

 つまり、彼は青い瞳をした鬼の妖の手によって神隠しに遭ったのだ。


 彼はまだたった17年しか生きていないという。

しかもそのうちの15年は人間だった。

彼の感覚はまだ人間と同じなのだろう。

 だからこそ、妖の娯楽も感覚も彼には理解し難いものなのだ。


 そしてそのまだ残っている人間性は、感覚だけではなく存在そのものにもあった。

 その為、弱い妖に晴彦先輩は先ほど〝強い人間〟と認識され、喰われていたのだ。


 もうそこには灰さえもない。

けれど、晴彦先輩はいつまでも晴れない顔で、何もない場所を見つめていた。


 晴彦先輩ならば、自分を喰らおうとするあの妖を深月と同じように簡単に殺せた。

 だがそうしなかったのは、彼に残っている人間性からなのだろう。

 生死を軽く見ることができない、人間と同じ優しさを持つ彼だけの感覚だ。


 晴彦先輩の表情に、胸が少し重たくなった。

息が詰まる、そんな感じだ。


 私はおもむろにスカートのポケットに手を伸ばすと、そこから1枚の札を取り出し、妖力を込めた。

 すると、それはみるみる形を変え、鬼のツノの間に大きな水色のリボンが揺れるカチューシャになった。



「はい、先輩」



 それを迷うことなく、晴彦先輩の頭に付ける。



「は!?な、何をした!?」



 突然の違和感に、晴彦先輩が怪訝な顔でこちらを見た。

 どうせ碌なことではないはずだ!と言わんばかりの目だ。



「かわいいよ、先輩」



 私は状況をよく理解していない晴彦先輩に、手鏡を向けた。



「…っ!?」



 鏡に映し出された自分の姿に絶句する、晴彦先輩。

眉間にはとんでもなく深いシワが寄っている。



「それ、多分1時間は取れないし、消えないよ。私がしっかり妖力を込めたからね」

「…き、貴様ぁ」



 悪戯っぽく笑うと、晴彦先輩は怒りで小刻みに震え始めた。

 もう先ほどの悲しみのある怒りではない。

純粋な私への怒りだ。


 怒りによってだんだん赤くなり始めた晴彦先輩に追い討ちをかけるように深月も「かわいい!」と楽しそうに笑っている。



「それじゃあ!」



 私は晴彦先輩にそれだけ言うと慌てて駆け出した。

もちろん、私のすぐ後ろには深月もいる。

 あの場に留まれば、間違いなく晴彦先輩の物理的な雷がこちらに降り注ぐ。



「待て!こんなことをして無事登校できると思うなよ!?」



 叫びながらこちらに迫る晴彦先輩の顔はまさに鬼の形相だ。

 彼の身体能力は高い。

私の足では到底彼を撒くことはできないだろう。


 だが、私は…いや、私たちは死神だ。


 私が鎌の形を変えるよりも早く、深月が自分の鎌を本来の大きさへと戻す。



「結」

「うん」



 そして私は深月に手を引かれ、深月の鎌へと共に横乗りで飛び乗った。

 そのまま空へと一気に上昇する。



「クソッ!待て!死神コンビ!」



 晴彦先輩の怒りの声は星空へと近づくと共に、小さくなっていった。


 三日月が浮かぶ、宵の口。

 妖たちの時間はこれから。



「…あんなのがここの1番だなんて」



 2人の姿を見て、黄金の瞳を持つ少年はそうため息をついた。




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