↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
死神の鳥籠〜激重感情に囲われまして〜  作者: 朝比奈未涼


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

12/17

12.旅の幕開け




 窓の外にある木々が風に吹かれ、ざわざわと揺れている。

秋から冬へ冷たくなり始めたその風は私たちに冬を知らせていた。


 あの世界のお偉いさん方が集まった会合から1ヶ月。

私は今日も変わり映えのない平和な1日を過ごしていた。



「えー。じゃあ、今配られたプリントを見てー」



 少し気だるげに、教壇の前でプリントに視線を落とす、艶っぽく怪しげな男性。

 綺麗な長めの髪を耳にかけ、プリントを見つめる瞳は左右で色が違う。

右が黒色で、左が黄色。


 黒く長いコートを着ている彼は、私たちのクラスの担任である、天狗の妖、佐久間透(さくまとおる)先生だ。


 私をはじめ、隣にいる深月や菜美や理華は自分の席に座り、透先生の話をじっと聞いていた。



「明後日の朝から人の世界に触れるという趣旨で、人も妖もいる1泊2日の豪華客船の旅に全学年で行きます。人の世界を知る、人との共存を肌で学べる貴重な場だよ。問題を起こさないようにね」



 淡々とした透先生の説明に、ふと去年の今頃のことを思い出す。


 私の学年は2年。

 当然、1年前も全く同じ豪華客船の旅に参加した。

 一応、教育の一環として行くものだが、この旅はとても楽しいものだ。


 移動する手段のものとは思えない一つの大きな街のような船内。

 買い物に、食事、観劇、パーティーに、海上の花火まで。

あそこには楽しいことがたくさん詰まっている。


 今年は何をしようかなぁ。

 海上花火は当然見るとして…。去年行けなかったレストランに行きたいし、素敵な雰囲気の喫茶店もあったなぁ。

お買い物もほんの少しなら…。



「楽しみだね、結」



 早速何をしようか、と口元をついつい緩めながら考えていると、右隣にいる深月が小さく声をかけてきた。

柔らかな赤い瞳が優しくこちらを見つめている。



「あっちで何しよっか」



 深月にそう言われて、私は視線を左下に落とし、唇に手を当てた。



「悩むよねぇ。でもとりあえず海上の花火は絶対見たい。あれ、本当に綺麗だったし。今年も上がるよね?」

「うん。上がるよ」

「やった。じゃあ、花火は絶対見よ、深月」

「そうだね」



 深月と小声で話すうちに、どんどん旅への期待が膨れ上がっていく。

 旅に行くのももちろん楽しいが、行くまでのこういった時間もなかなかいいものがある。


 旅費は全て学院持ちだ。

その為、私がお金を使うとしたら買い物だけだ。

そのくらいなら私のバイト代でも十分楽しめる。



「レストランは去年行けなかったとこね」

「うん、結が好きそうなところまだまだいろいろあったよね」

「そうなのよ。迷う…」



 深月と笑顔で話しながら、私は明後日の船旅へと思いを馳せた。


 ああ、楽しみ!



*****



 雲一つない青空に、太陽が輝く。


 朝9時。

妖たちが1日を終える時間。


 そして人が1日を始める時間に、私たちは煌びやかな豪華客船へと来ていた。

 去年も思ったが、船内はまさに豪華絢爛な街である。



「ここでしか買えない服買お!ドレス!ドレス!」



 学院の制服、紺のセーラーを揺らしながら、興奮気味に菜美がショッピングエリアを見つめる。



「そ、そうだね。帝都だとブティックより、呉服屋が多いから…」



 そんな菜美の横で、理華も遠慮がちにだが、どこか目をキラキラと輝かせていた。



「セクシードレス買うわよぉ〜!」

「私は露出は控えたいな…。あと黒がいい」



 きゃっきゃっと楽しそうにしている友人2人に、思わず笑みが溢れる。


 本当にかわいい2人だ。


 ここは船内にあるショッピングエリア。

1階から4階まであるここは、真ん中が吹き抜けになっており、どこからでもショッピングエリア内を見渡せる。

 さらに天井は全面ガラス張りになっており、太陽の光が注がれる明るい場所となっていた。


 豪華客船の旅が始まり、まず各部屋に荷物を置いた生徒たちは、こうして自由な時間を謳歌していた。

私は菜美と理華と一緒に、楽しくショッピング中だ。


 深月も一緒がいい、と私たちについて来ようとしたが、菜美に



「ついて来ないで。ここからは女子の時間よ」



 と、冷たく言われ、追い払われて……しまうわけもなく。

そこから怒涛の言い争いが始まった。



「ついて行くよ?女子の時間とか俺には関係ないし」

「関係あるわ。アンタは女子じゃないでしょ?」

「?そうだね。でも、俺と結はいつでも一緒だからね」

「いつでも一緒でいいわけないでしょう!?」

「いいんだよ。結は俺のだもん」

「違うわ!このクソサイコパスボンボン!」

「人も妖も食い散らかしている人にそう言われるのは心外だな」



 柔らかな笑顔の深月と迷惑そうに表情を歪めていた菜美。

 正反対の表情を浮かべていた2人だが、その瞳はとても鋭かった。


 結局、いつも通りこの言い争いは平行線で、終わりなど当然見えるわけもなく。

 最終的には、私が仲裁に入り、夕方までは深月と離れることになったのだ。


 深月はその辺を散歩してから寝ると言っていた。

 まぁ、本来この時間は妖なら寝る時間だ。

豪華客船が物珍しくない限りは寝る、という妖もいるだろう。


 私たちのような妖ならもちろん寝ずに遊ぶの一択だが。



「どこ、入ろう…!」



 楽しそうな2人の横で、私も目を輝かせて店を物色する。

 私の手にはまだ何もないが、菜美と理華の手にはすでにもう戦利品があった。

 菜美の手には、ここでしか手に入らないらしいコスメが、理華の手には美しい控えめな理華らしいアクセサリーがある。


 夢中になって、次の店に視線を向けていると、ふと、数名の女性たちの不安げな声が聞こえてきた。



「最近、行方不明者が多発しているらしいわよ」





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。