S2 第4章 ―心(きもち)の力―
轟音。
灰色の街に響いていた。
白い盾。
黒い刃。
激しくぶつかり合った。
空間そのものが軋む。
アリアの足元。
少しずつ、確実に削られていく。
「っ……!」
限界だった。
盾に黒い亀裂がさらに深く走る。
「アリア!!」
"I will help her!!"
二本の枝が激しく発光した。
白い閃光が走り出す。
eraSerの黒い刃が止まる。
わずかに揺らいだ。
「……ハルト!?」
止まらない。
地面を蹴り、全力で枝を振り抜いた。
eraSerの身体。
初めて。大きく吹き飛ぶ。
黒い霧が、空中で波打った。
「効いた……!?」
驚いた。
違う。
ただ戦っているんじゃない。
助けたい。
枝が、熱を持った。
だが——。
eraSerが、音もなく着地する。
黒い霧が、不気味に蠢く。
笑った気がした。
「……っ」
背筋に、冷たいものが走る。
次の瞬間。
街の空気が、重くなった。
「……え?」
足が止まる。
身体が重い。
呼吸が浅い。
枝の光が、急速に弱まっていく。
アリアの盾も、明滅を始めていた。
「何……これ」
「ここが"モーダル"だからだ」
背後から。
ザ・ハクの低い声が響く。
隣に立つミッチ。
険しい顔で周囲を睨んでいた。
街の色が薄い。
生気がない。
逃げ惑う人々。
口から、言葉がこぼれていた。
『私は、歩く』
『空が、暗い』
『扉が、閉まる』
ただ、それだけだった。
「ここでは、"事実"だけでは力にならん」
ザ・ハクが吐き捨て、僕を見た。
「"I fight."ただの事実だ」
アリアの盾を見た。
「"to protect."心が乗っていない言葉は潰される」
eraSerが、ゆっくり歩き出す。
黒い霧が、地面を侵食していく。
身体が動かない。
"I fight!"
弱い光が、一瞬だけ舞って消えた。
巨大な黒い刃が迫る。
その瞬間だった。
歌声。
透き通った、不思議な声だった。
軽いのに、真っ直ぐ胸へ届く。
「"I fight."だけじゃ、届かないよ♪」
屋根の上。
一人の少女が立っていた。
夜空みたいな長い黒髪。
月光みたいな白い装束。
手には、小さな弦楽器。
少女が、静かに微笑む。
「ただの説明だから♪」
「……誰?」
ふわりと飛び降りた。
重力を忘れたみたいに、静かに着地する。
「ツクヨ・ミ♪」
「言葉に"心"を乗せる詩人♪……かな」
瞳は真っ直ぐに僕を射抜く。
「ハルト♪」
「え?」
「あなた、"戦う"だけなの?♪」
「……っ」
「"I fight." は、ただの事実♪」
ツクヨ・ミが、僕の胸を軽く指差す。
「"あなたの気持ち"が乗ってない♪」
「気持ち……?」
「言葉は♪」
ツクヨ・ミが、静かに笑う。
「気持ちが乗った時だけ、動くの♪」
僕の脳裏に景色が走った。
銀色の髪。
不器用に笑うミッチ。
元谷先生。
そして——。
逃げ出した、あの日の自分。
違う。
今度は。
胸の奥で、何かが爆発した。
「……そう、それ♪」
ツクヨ・ミが、嬉しそうに目を細めた。
次の瞬間。
eraSerが突っ込んできた。
空間を裂く、漆黒の刃。
一直線。
僕は一歩も引かない。
恐怖より先に、言葉が迸る。
"I have to protect her!!"
(僕は、彼女を守らなければならないんだ!!)
二本の枝が輝いた。
まるで太陽のように爆発する。
モーダルの重い空気。
eraSer。
目の前から消えていった。




