S2 第3章 ―発見 接近―
重い空が続いた。
街道を歩きながら、何度も見上げる。
灰色の雲が低い。
空が落ちてきそうだった。
「……嫌な感じですね」
「モーダルが近い」
ミッチは前を向いたまま答えた。
ザ・ハクは何も言わない。
杖を突いて歩いている。
三日間。
占い師の街を出てから。
この三日間。
ザ・ハクから奇妙な修行を受けた。
to fight
to move
to protect
言葉を書く。
口に出す。
でも、形を真似するだけでは何も起きない。
「目的を曖昧にするな」
ザ・ハクは何度も言った。
「言葉とは、意志の向かう先だ」
そのたびに、アリアを思い浮かべた。
銀色の髪。
最後に見た、あの強い目。
to help Aria.
その言葉だけ。
消えない。
色あせない。
「止まれ」
ミッチの声が沈んだ。
前方。
空気が歪んでいた。
黒い霧。
いや——違う。
何かが、そこに立っている。
細い影。
長いマント。
顔は見えない。
まとう空気でわかった。
「……っ」
呼吸が止まる。
この恐怖を。
ザ・パスティリア。
あの滅びた街。
アリアが震えていた理由。
「eraSer……」
ミッチの声が、獣のように低くなる。
目の前の歪みが消えた。
黒い影がそこにいない。
「来るぞ!」
ミッチが叫ぶ。
「っ!?」
身体が吹き飛んだ。
地面を何度も転がる。
速い。
見えなかった。
立ち上がろうとした瞬間。
頭上の空気が裂けた。
黒い刃。
「——!」
反射的に枝を一つに重ねた。
"I fight!"
光が弾ける。
重い。
強すぎる。
腕の感覚が飛びそうになる。
ただ戦う。
それだけでは、足りない。
「ハルト!」
ミッチが飛び込む。
岩のような拳が唸る。
だが——
空を切った。
eraSerは霧になる。
後ろへ滑っていた。
「くそっ……!」
ミッチが舌打ちする。
その時だった。
遠くから、鐘の音が響いた。
低く。
重く。
ひび割れた音。
ザ・ハクの目が細くなる。
「モーダルだ」
ザ・ハクの目が細くなる。
eraSerの動きが止まった。
黒い霧が、ゆっくり揺れる。
そして——
興味を失ったように、後ろを向いた。
「……?」
eraSerの視線の先。
遠く。
重い空の下に沈む、灰色の街。
モーダル。
「まさか——」
アリア。
eraSerが消えた。
一直線に、モーダルへ飛ぶ。
「待て!」
反射的に地を蹴っていた。
「ハルト!」
胸の奥で、警鐘が鳴り響いた。
灰色の雲が渦を巻く。
モーダルの入口が、近づく。
そして——
そこに、銀色の髪があった。
「アリア!!」
彼女の背後が歪む。
黒い影が現れた。
「危ない!!」
eraSerの腕。
黒い刃へ変わった。
鋭い切っ先が振り下ろされる。
間に合わない。
白い盾。
円の中に、深く刻まれた十字。
まるで——
t と o。
「……力を貸して」
小さく、でも確かな声。
「守るために」
盾が、白く光る。
衝撃波。
地面が割れる。
アリアが止めていた。
たった一人で。
でも——
盾がきしんだ。
白い表面に黒い亀裂が走る。
押し負ける。
二本の枝を握る。
考えるより先。
身体が前へ出ていた。
to help Aria.
胸の奥で、目的が炎が燃える。
ただの事実じゃない。
ただの行動じゃない。
僕の意志が燃える。
「I will help her!!」
二本の枝が。
輝きを増し、周囲を駆け抜けた。




