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S2 第5章 ―同じ未来―

風が、止んでいた。


重苦しい圧力。

 少しだけ薄れている。


eraSer。

 黒い霧を引きずり、消えていった。


倒せてはいない。

でも——。


握りしめた二本の枝。

 まだ熱を持っていた。


アリアが、ゆっくりと振り返る。


銀色の髪。

 風の中で、静かに揺れた。


  「……本当に、来たんだね」


小さな声だった。


「うん」


それだけ返す。

少しの沈黙。


  「どうして?」


すぐには答えられなかった。


モーダルの空は重い。

風も冷たい。


でも、もう逃げたいとは思わない。


「……助けたかったから」


言ってから、違う気がした。

ゆっくり首を振る。


「隣にいたかったから」


アリアの瞳が、小さく揺れる。

 目を逸らさなかった。


「また、一人で全部」

「背負って行くつもりだっただろ」」


  「……」


「僕は嫌だった」


枝を握った。

 光が輝きを増す。


「一緒に進みたい」


長い沈黙。

そして——。


アリアの口元が緩んだ。

本当に、少しだけ。


  「……変わったね、ハルト」


「そうかな」


  「うん。すごく」


その空気を壊すように、声が降ってくる。


  「まだまだ甘いけどねー♪」


「うわっ!?」


屋根の上。

ツクヨ・ミが座っていた。


  「声、大きいよ♪」


ふわりと飛び降りる。

重力を忘れたみたいな着地。


  「でも、さっきのはよかった♪」


「……何が?」


ツクヨ・ミが、胸を指差す。

【 I have to protect her. 】


  「ちゃんと、"気持ち"になってた♪」


枝を見る。

 まだ、熱い。


  「言葉ってね♪」

  「事実だけじゃ弱いの♪」

  「目的だけでも足りない♪」


アリアを見る。

【 to protect. 】


次に、こちらを見る。

【 I will help her. 】


そして、優しく笑った。


  「気持ちが乗った時だけ、動くの♪」


アリアが、小さく息を吐く。


  「……でも、私はまだ弱い」


左腕の盾を見る。

 黒い亀裂が、深く残っていた。


  「一人じゃ、防ぎきれなかった」


「僕もだよ」


  「え?」


「僕も、一人じゃ無理だった」


ミッチ。

元谷先生。

アリア。


「だから——」


真っ直ぐアリアを見る。


「一緒に強くなろう」


アリアの目が、少しだけ見開かれた。


後ろで、ミッチが鼻を鳴らした。


  「やっと少しはマシなツラになったな」

  「"助ける"だけじゃ長くは続かん」


太い腕を組む。


  「同じ方向を向け」


胸に落ちた。

同じ方向。

同じ未来。


ザ・ハクが、静かに杖を鳴らす。


  「次へ行け」

  「コンペティア王国だ」


ミッチが、口元を歪め、続けた。


  「武闘国家だ。近々、トーナメントが開かれる」


「トーナメント……?」


  「強い奴ばっかり集まるよ♪」

  「今のままだと、きっと、すぐ負ける♪」


「怖いこと言わないで」


  「でも必要なの♪」


ツクヨ・ミの目。

少しだけ真面目になる。


  「自分より"上"を知らないと♪」

  「本当の強さが手に入らないから♪」


灰色だった空。

ほんの少しだけ薄くなる。


二本の枝を見つめた。

 まだ、全然足りない。


隣を見る。

 アリアがいる。


前を見る。

 ミッチが歩き出している。


ツクヨ・ミは、歌うように笑っている。


一人じゃない。

 静かに枝を握り直した。


【 I will walk with you. 】

(僕は、君と一緒に歩く)


二本の枝。

 小さく、優しく光った。

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