警察車両乗用車 車内 4
けっきょくコンビニで買った弁当とコーヒーを車内に持ちこみ昼食を摂ることになった。
コンビニ近くの公民館の駐車場。
誠は、牛カルビ弁当のタレのついた肉とごはんをいっしょに箸にのせ食んだ。
運転席では、八十島がとんかつ弁当をむぐむぐと口にしている。
「まえも牛カルビ食べてなかったっけ、人見」
とんかつとごはんと缶コーヒーをせわしなく口にしながら八十島が尋ねる。
「だっけ?」
誠は答えた。
「何の捜査のときだっけ。車内で弁当食ってるとき通話したら、百目鬼さんが牛カルビと幕の内って言ってたじゃん」
「何のときだったかな……」
誠は牛カルビを食んだ。
スマホの着信音が鳴る。
誠のスマホだ。
スーツの上着のポケットに手を入れてスマホを取りだす。
「おっ、百目鬼さんか? 非番返上で緊急参戦?」
「んなわけないでしょ」
言いながら着信の画面を見る。
花織からだ。
「はい」
誠は通話のアイコンをタップしてスマホを耳にあてた。
「──人見さん、まださきほどのショタさんといっしょですか?」
花織が尋ねる。
「……きょう一日同行の予定だよ。──ていうかさっき聞き忘れた。あんな時間に何してたの」
「──百目鬼さんがいないと、いきなり気がゆるむんですね。なるほど」
花織がなにか納得したような口調で返す。
「べつにゆるんでない。花織さんたちの変な話で聞きそびれただけ。何してたの」
「──人見さん、ショタさんとカトリック朝石教会のまえにいたじゃないですか」
花織が切りだす。
誠はしばらく黙った。
「──捜査ですか?」
「関係ないでしょ。何してたの」
誠は眉をよせた。
「──考えてもみてください。うちミッションスクールですよ、人見さん」
誠は宙を見上げた。
「……うん」
「──バザーのおてつだいです。何人ほど人員が必要かなとか学校のおつかいで聞きに行ったんですよね」
誠はふたたび宙を見上げた。
なるほどと思う。いちおう筋は通っているか。
「花織さんと好花さんが二人で?」
「──違います。先生やほかのクラスメートもいっしょにいました。さきほどは、このちゃんが庭先から人見さんの浮気現場を目撃してしまって飛びだして行ったんです」
「浮気現場ってなに」と聞きそうになったが、またわけの分からない会話に巻きこまれたくないので、あえて聞き流した。
「──けっきょくわたしたち、あのあと教会の関係者の誰にも会えずに帰ったんです」
「え」
誠は目を見開いた。
八十島のほうを見る。会話は聞こえてないだろうが、怪訝そうな表情を返された。
「なに? 彼女とか? 長くなりそ?」
「いやさっきの子。余目総合病院の」
「けっきょくそれ彼女でねえの?」
八十島が顔をゆがめてそう返したが、誠は話の内容のほうに気をとられていた。
「シスターいたよ。きれいな人。あと神父さんと信者らしき男の人が別棟のほうに」
「──わたし学校にもどったあと、人見さんたちは誰とお話したのかなって思ったんです。肩すかし食らったって雰囲気じゃなかったから、お二人とも」
誠は眉をよせた。
「いまって学校?」
「──学校です。昼休みの女学園の教室です」
花織が答える。
なぜか急に大勢の女子学生のコロンやシャンプーの香りを感じたような錯覚におちいってしまった。
女学園の教室という説明まで必要だろうか。
「いやシスターも神父さんも、花織さんたちと会う直前までいたけど」
「──そうですか」
花織が相づちを打つ。
「たまたま花織さんたちが来たのには気づかなかったとか、シスターは僕らと話したあとすぐに帰っちゃったとか」
「──学園から連絡してあるので、そういったことはふつうないんですけど」
「そ……」
誠はそう返事をした。
スマホを耳にあてたまま、もういちど八十島のほうを見る。
「なに。べつに気にしなくていいけど。弁当食うあいだくらいはいいんでないの?」
八十島がとんかつを食む。
「いや、ほんとにそういう通話じゃなくて」
誠は答えた。
少々気味の悪い話になりかけている。
いまのところはただの花織たちと教会関係者の行き違いとも取れるが。
「えと、まずあそこによく来てるっていうシスターさん、いるよね。きれいな人」
「──お顔分かりません」
花織が答える。
そうだった。
誠は顔をしかめた。
「きれいな人がいたんだけど」
「──人見さんはたいがいの女性をきれいと描写しそうなんで、あまり手がかりにならないと思います」
どういう意味。
誠は眉根をよせた。
「あそこの近くの修道院からよく来るシスターさんは、わたしが知るかぎりだとゆっくりしずしずと歩くかた、背筋をのばしてきびきびと歩く肌理の少々荒い肌のかた、おしとやかに歩く繊細なうぶ毛の肌のかたです」
……こっちが分からない。
誠は眉根をよせた。




