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警察車両乗用車 車内 3

 花織(かおり)好花(このか)に早く帰るよううながして見送り、警察車両にもどる。

 助手席のシートに座って息をついたあと、(まこと)は眉根をよせた。

「あ゙ー」

 ついうなり声が出る。 (ひたい)に手をあてた。



「……なんでこんな時間帯に歩いてるのか、聞くの忘れた」



 何してるんだと自身をとがめる。

「わりと長々と楽しそうにしゃべってたんでねえの。それで肝心なこと聞かないって、何話してたの」

 八十島(やそしま)が、待っているあいだに目のまえの自販機で買ったらしい缶コーラを飲む。

「楽しくないってば。言ってることの大半がわけ分かんなすぎて」

「あの髪の長いほうの子、このまえ現場にいなかった? あれ聖マリア女学園の制服だよな。お嬢さまか」


「……余目(あまるめ)総合病院の院長のお嬢さん」


 誠は答えた。

「余目って、あの余目?」

 八十島が軽く目を見開く。

「そそ。緊急搬送で通報入るっていうと、たいがいあそこの余目」

「へー」

 八十島が缶コーラをひとくち飲む。

 コーラの缶を手のひらのあいだにはさみ、花織たちの帰った方向に手を合わせる。

「お世話んなってます」

「べつに祈んなくていいから」

 誠はそう返した。


「ああそうだ」


 スーツの上着のポケットからスマホを取りだす。

「さっきの神父さんと信者さん、いちおう動画撮ってたんだけど。遠かったから顔まではっきり分かるかな」

 スマホを操作し、動画を表示させる。

「うは」

 八十島がおかしな声を出す。

「すっげ、いつの間に。百目鬼(どうめき)さん仕込み?」

「百目鬼さんがよくやるからまねして覚えたっていうか。動画撮影の状態にして胸ポケット入れて」

「俺もこんどやってみよ」

 八十島が感心した声を上げる。


「そっちはバレると問題になるからって言われそうな……。百目鬼さんは、けっこうグレーなこともシレッとやる人だけど」


「ああー、そんな感じ。俺が百目鬼さんと組んで、人見がこっちの人と組んだほうが性格ピッタリって気ぃするけどな。タイプ近いってか」

「言われてみればそうかな」

 誠は答えた。

 あえて正反対のタイプを教育係として組ませているんだろうか、それともたまたまなのか。

 

 誠は撮影した動画を早送りして、神父と信者の男性の顔がよく見える角度を選んだ。


 かなり顔のぼやけた画面しかないが、この二人を知っている人がいたら分かるかもしれない。

「これいま刑事課に送信したら、だれか調べてくれるかな」

「お。なるほど」

「だれに頼もう」

 何となく二人で黙りこむ。

 いつも百目鬼が「俺」のひとことで依頼しているのに任せているだけに、とまどう。

「いつもどうしてんの」

 八十島が問う。

「百目鬼さんが、“俺” って言ってたのむ。鑑識とかサイバー課とか――そっちは?」

「同じ。“わたしだけど” のひとこと」

 いざ自分らが頼むとなると何かやりにくいよな、という感じで二人で顔を見合わせる。

 

「いや――もしかしたら捜査に関連するかもしれねえし、早く分かるに越したことねえし、べつに怒られるわけじゃねえべ」


 八十島が眉をよせつつスマホを取りだす。

「待機してる人いるかな」

 履歴を表示させ、刑事課にかけた。

「ええっとあの、すみません八十島っす。ごくろうさまです。──あ、人見もいっしょです」

 宙を見上げるしぐさをしつつ八十島が切りだす。



「──ちっと気になる人物いて。いや見覚えがあるだけなんすけど。動画送るんで誰か分かる人いれば」



 「おう、送れ」という太い声が通話口からもれ聞こえる。

「遅れってさ」

 八十島がこちらを向いて言う。

 誠はスマホを操作した。刑事課のPCに動画を送信する。


「おねがいしまっす」

「あ、おねがいします」


 誠も身を乗りだして通話口に向け言った。

 「昼メシ食ったかあー?」という太い声が通話口からもれ聞こえる。

「あ、まだっす」

 八十島が答える。

「──え? マックのバーガー?」

 八十島がそう応じてしばらくうなずく。

「小さくなったんすか? どんくらい。マカロンくらい? ありがとうございます。んじゃ」

 そう返して通話を切る。


「マカロンってどんくらい」


 八十島がそう尋ねる。

 誠は宙を見上げた。

「ものによると思うけど……見たことあるのはこんくらい?」

 小さい子の握りこぶしほどの丸型を両手の指でつくる。

「ちっさ」

 八十島が声を上げた。

「まじか。マックはやめるべ」

「うん」

 誠も自身の作った丸型を見てしょっぱい顔になってしまった。

 たしかにこんなバーガーならイヤだ。食べた気がしない。

 



 動画で映した人物が判明するまでのあいだ、とりあえず昼ごはんにしようと車両を発進させる。

 県道に出てコンビニか食事ができそうなところをさがした。


「マックはなしかあ。刑事課の覆面って、バレにくいからドライブスルー気兼ねなく使えていいんだけどな」


 ハンドルを握った八十島がつぶやく。

「言えてる」

 誠は笑った。

 交通課の覆面車は白やグレーが多く、車種もだいたい決まっているので一般人に見当をつけられてしまうことがあるようなのだが、刑事課のものは車種も色もいろいろなので覆面車とバレにくい。


「男二人で乗ってるから覆面って見当つけられることはあるらしいけど。――たしかに俺と百目鬼さんだと親子ってんだと年齢差ギリギリくらいだし、不自然っちゃ不自然かなって」


「……学年主任と男子生徒で悪かったな」

 八十島が声音を落とす。

「いや……」

 誠は苦笑いした。


 



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