カトリック朝石教会 2
「私服で警察手帳……というと、刑事さんと思っていいんですか?」
シスターが尋ねる。
誠と八十島は、そろって軽く目を見開いた。
「あ、はい。刑事課の者です」
誠は答えた。
自分たちにとってはあたりまえのことだったが、一般人からするとそうそう関わる相手じゃないもんなと思う。
シスターがにっこりと笑った。
「やっぱりドラマみたいに先輩さんと後輩さんが組んだりするんですね」
誠は目をぱちくりとさせた。
「われわれは同期です」
八十島がややムッとして答える。
なぜ先輩と後輩だと思われたのかすぐには分からなかったが、八十島のわずかに眉をよせた表情と早い反応で分かった。
かなり童顔の顔立ちの八十島は、誠と同い年にもかかわらず男子高校生でも通りそうに見える。
彼のバディの捜査員は百目鬼に近いくらいのベテランだが、二人で刑事課のデスクにいる様子は、学年主任の先生と職員室に呼びだされた男子生徒という感じなのだ。
「あ、失礼しました……」
シスターが口元に手をあてる。
上品なしぐさとおっとりとした感じが、出身はどこかのお嬢さまなのだろうかと思わせた。
もしかすると花織と同じ学園出身だったりするんだろうか。
そこまで考えて、誠はなぜか妙な鳥肌が立った。
「あの、ここのかたじゃないっていうのは」
誠は尋ねた。
「わたしは近くの修道院の者ですから。教会とはボランティアでよく協力し合うのでほとんど自由に出入りしていますが」
「へえ……」
誠は相づちを打った。
「教会っていうとシスターいるイメージですけど、考えてみればシスターって修道女? 教会とはべつなんすか?」
八十島が尋ねる。
「べつですけど教会の近くに修道院があることはけっこうあって、こんなふうに行き来しているところは多いんじゃないでしょうか」
シスターが答える。
誠はもういちど相づちを打った。
八十島と目配せし合う。八十島が小さくうなずいた。
上着のポケットからスマホを取りだす。
画像のアプリを開いた。
「さきほどお話しした男性信者のかたの似顔絵なんですが――さしつかえなければ」
誠は被害者の遺体から描き起こされた似顔絵を表示させた。
目をつむった男性の顔のデッサン画をシスターに見せる。
「このかたで間違いないですか?」
シスターが軽く身をのりだしてスマホの画面を見た。
「まちがいないです。……お亡くなりになったんですね」
表情を曇らせる。
「さきほど被害者のかたが小麦粉アレルギーだったとおっしゃってましたが」
誠は切りだした。
「ええ」
シスターがうなずく。
「ご本人がそう話されていたんですか?」
尋ねると、シスターがもういちどうなずいた。
「小麦粉アレルギーなので、ホスチアはいつも食べるまねだけだったんです」
「ホスチアといいますと」
八十島が問う。
「聖体です」
シスターがおだやかな口調で答える。
知っててあたりまえのように言われてもと誠は苦笑した。
「すみません。もうちょっとご説明を」
「あ、ごめんなさい。――イエスがパンをとり “とって食べよ、これはわたしのからだである” と言い、ワインを “これはわたしの血である” と言ったという話はごぞんじですか?」
「えと……」
誠は苦笑いした。
「何となく」
ほんとうに何となくだ。そんな文言を聞いたことがあるようなないような。
八十島も宙を見上げてうなずいている。
やはり何となくか。
「キリストの御体として司祭がミサのさいに分けあたえるのですが、さわっても症状が出るそうで」
「さわってもですか……」
八十島が目配せをしてきた。内ポケットからメモ帳とボールペンを取りだし書きとめはじめる。
「そのホスチアの材料って?」
「小麦粉と水です」
シスターが答える。
「なるほど」
誠はうなずいた。
「被害者のかたは、こちらの教会にはむかしから?」
「いえ」
シスターがみじかく答える。
「半年ほどまえからです、たしか。アレルギーのためにそれまでの職場を辞めて転職したので近くに引っ越してきたと話していましたが」
「けっこう最近なんですね……」
誠は八十島と目配せしあった。
「製粉工場でお仕事してたとお話ししてました。小麦粉の粉塵に常にさらされているので、アレルギーになってしまう人がときどきいるとか」
「職業病ってことすか」
八十島がメモをしながらそう応じる。
「そんなことがあるんですか」
誠はうなずいた。




