カトリック朝石教会 1
住宅街のなか。生活道路沿いに建つカトリック朝石教会。
車内でざっと検索したところによると、建てられたのは五十年ほどまえ。
ヨーロッパの観光地のような荘厳な建物と広々とした敷地を想像していたが、周辺の一般の住宅とさほど変わらない造りと大きさだ。
礼拝堂と、事務室や居住エリアと思われる二階建て部分、奥のほうに渡り廊下で接続された小さな別棟。
門にかかげられた看板と屋根の上の十字架がなければ、たぶん教会とは分からない。
車から降りた誠は、拍子抜けして十字架を見上げた。
運転席から降りてキーロックをした八十島も、やはり同様の顔をしている。
「もっと、ドーンと大っきいヨーロッパの観光地みたいなの想像してた」
八十島がつぶやく。
やはり同じことを考えてたかと誠は思った。
「どっから入んだろ。ふつうに正面の入口でいいの?」
門からのびる石だたみのさきに、アンティークな雰囲気のドアがある。
礼拝堂のドアだと思うが、あそこからでいいんだろうか。
「異教徒は帰れって、いきなり聖水とかぶっかけられないよな」
「いまどきそんな」
誠は苦笑いした。
二人でそろ礼拝堂のって入口とおぼしきドアに向かう。
チャイムと思われるものはないようなので、誠がノックをしようと握りこぶしをつくった、そのとき。
内側からドアが開けられた。
きれいな若いシスターが顔をだす。
シスター姿の女性など、間近で会ったのははじめてだと思う。
以前ミッション系の女子大に捜査で行ったさいに何人かいたが、遠目に見かけただけだ。
誠は目を丸くして、ついジロジロと見入ってしまった。
視界のはしに入った八十島も同じように目を見開いて凝視している。
マンガやドラマの人物が、そのまま飛びだしてきたように錯覚する。
「信者のかた? 礼拝は終わりましたけど」
シスターがにこやかに話しかけてくる。
「いえお祈りとかではなく……」
誠はシスターの笑顔と紺のヴェールに視線を固定したまま、ぎこちないしぐさで内ポケットをさぐった。
警察手帳を取りだす。
「警察の者ですが、できればお話を聞かせていただきたくて」
「ここに来ていたかたが先日路上で倒れて亡くなったことは、ご存知ですか?」
八十島がそそくさと警察手帳をとりだし言葉を引きつぐ。
「ああ……」
シスターが口元に手をあてた。
「小麦粉アレルギーのかたですか?」
誠は目を丸くした。
「え」
「小麦粉アレルギーのかたでしょうか。お名前は存じ上げませんけど」
「えと」
誠は少々困惑した。
とうとつにアレルギーの情報をゲットしてしまった。
とうとつすぎて、いいのかなというふうに八十島に目配せする。
八十島が「ラッキー」という顔をしている。やはりいいのか。
「えと……どういったかたでした。あの、特徴とか」
「五十歳前後くらいの、がっしりとした男のかたですね」
シスターが答える。
誠は八十島と目配せし合った。
やはり被害者で間違いないのか。
「ここに来ていたさいに……」
「なかへお入りになられては?」
シスターがそう告げる。
「いえここでもとくに。だいじょうぶです」
「申しわけありませんが、ご近所のかたの目もありますから」
シスターが苦笑する。
「あ……」
誠はふりむいて門の外を見やった。
近所の住人と思われる高齢者や中年女性が、それそれの場所からチラチラとこちらをうかがっている。
警察官とは思われていないとしても、スーツの男性二人が玄関先でずっと詰めているというのは、それはそれで不審に映る場合もあるのかもしれない。
中へとうながされたさい、百目鬼がいつもわりと素直に上がらせてもらっているのはこういうことなのだろうか。
「あ、では」
誠は八十島と目を合わせた。
「キリスト教徒ではないんですが」
「わたしもこの教会の者ではありません。かまいません、どうぞ」
シスターが中へとうながす。
ここの者ではない。
誠は眉をひそめた。
八十島も軽く首をかしげる。
玄関口から入ってすぐ、左手にシンプルなドアがあった。
シスターがドアを開ける。
うながされて中に入ると、ドラマでよく見るような教会の聖堂が広がっていた。
等間隔にならべられたチャーチベンチ、中央にまっすぐに通された通路、そのつきあたりにある祭壇と、かかげられた大きな十字架。
誠と八十島は、かすかに息を吐きながら見回した。
「お好きなところにおかけください」
シスターがチャーチベンチの一角に座る。
「あ……では」
誠は、八十島と目配せし合いながらシスターと通路をはさんだ席に座った。
「失礼しまっす」
八十島がそう口にして、誠と机をはさんでならぶ位置に腰をおろした。




