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RVALON  作者: 竜;
RVALON Ⅱ ~Zilch~

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03-01

「相変わらずの大都会、見事なものだな」


 市街中央に到着しバスを降車。4月の入隊以来、教育隊からほぼ外出していなかった高野は辺りを見回して呟いた。


「リーダー、ベタで凄い田舎者みたいな発言やめてよ~」


「休日の当直の交代を嫌がるどころか率先して代わってくれるからな。敷地内に籠って何してんだよ?ずっと勉強か?」


 高野達3名は海沿いにある大型ショッピングモールの方へ歩いていた。


 入隊以来、その日の班の仕切り役とでもいうべき当直というものを班員は交代で行っている。

 小中高などで日直という制度があった場合、それに似たものと考えていただければ理解が早い。

 号令に始まり教官からの情報の伝達、移動時の隊列の指揮や日誌といったその日の班員に関わる一連の業務を担い、当直士官と呼ばれるその日隊に寝泊まりする上官の側近としてしばし教官室に配置される場合もあり、日誌など一日の〆作業などはその時に行うが、さほど時間のかかる作業ではないので後の時間は入隊まもなくの隊員の身上を聞かれたり、教官の体験談や座学では話さない小話などのコミュニケーションがもっぱらの目的となっているが別段和気藹々(わきあいあい)という意味が強いわけではないことには念を押しておく。


 他分隊と違い、3名しかいない高野達も例に漏れず当直の役が順次回ってくるのだが当然そのスパンは短い。

 平日は特に問題ではないが、休日となると一秒でも早く外に出たい辰巳となんだかんだ用事のある早乙女は高野に代わってもらうのがほとんどである。

 入隊時は情報操作の関係から「落ちこぼれ分隊」と周囲から笑われているのだが、当直の順番が早く回って来ることに関しては多少の同情の声を高野は聞いている。

 理由はなにも当直のことに限らず、他の分隊と違い高野達が寝泊まりしている宿舎は普通の新入隊員が入る頑丈なコンクリート造りの比較的新しい物ではなく、歴史の香り漂うノスタルジックな旧宿舎であることも関係している。

 半分が資料や備品などのいわゆる物置となっているが、高野の班を隔離する意味合いも込めて急遽あてがわれた。

 誰が言い出した訳でもなく、昔から存在する物には謂れの無い尾ひれなどが付くものでこの旧宿舎も例に漏れず心霊の類いの話は尽きない。

 そこに高野が話していた主の存在を他の隊員が聞き付け、最近はガスマスクの亡霊が密かな都市伝説、隊内での噂話になっている。


 さて、本来であれば高野の班も一人は当直で外出ができないのだが本日は月に一度の害虫駆除剤散布のため隊舎に留まることができないので珍しく全員で外出して市街ここにいるわけである。

 他の休日を高野がどうしていたのかと言えば、最初の内は敷地内から抜け出しが可能な場所を回れる範囲で探索していたのだが、何度も脱柵して、目覚めれば戻ってくる絶望も早々に受け入れてからは、このまま戻れない可能性を考慮してただ無駄に時間を浪費するのは勿体ないと考え、分隊長と柘植に相談し、憲国軍の歴史を重点に本や文献を借りて勉強していた。


 早乙女と辰巳は一緒にいることが多いので、それなりにお互いの身上などは話したりしているのだが高野に関してはプライベートなことはあまり聞いたことはない。

 しかし昨晩の話を聞いた二人は特に驚くことは無かった。


「あくまで今のワシの立ち位置が夢でなく且、ワシの頭がおかしくなければ一般兵ではなく幹部として上に上がろうと考えてはいるからな」


 高野の言葉からは不安な気持ちが所々に見栄隠れするがそれでも固い決意が感じられる。

 自身の思っている形態ではないし、得体もわからない組織ではあるが軍には違いない。

 逃げ出すこと事態が無理ならばいっそのこと上を目指そうと言う気構えだ。


「俺は勉強嫌いだからな、それなりに稼いで資格とか取ったら辞めるかな。でも意外だよな、高野が俺らと連るんで外出するなんてよ」


 昨日の辰巳のプリンの件があったとはいえ、普段の妄想話以外は冗談など言わない高野からは予想もつかない行動に早乙女と辰巳は意表をつかれた。

 寝食を共にする間柄というのもあるが同じ境遇、いや、ざっくばらんに同期としてもう少し腹を割って話したかったという気持ちはあったのである。


 昼時には少し早いが、混む前にということで海に面した細長い公園が一望できるハンバーガーショップへと入った3人。

 プリンの件から話が大きくなり、ジャンケン、トランプ、腕相撲の3本勝負の末、辰巳が昼食を奢るという結果になったので高野は窓際の席の場所取り、早乙女と辰巳はカウンターで注文をしている。


「一番デカいのにしようぜ」


「うわぁ、観光スポットってだけあって良い値段するな~」


 などと楽しそうにはしゃいでいる二人を眺め、自分も同い年なのだと思い出す。

 早乙女は確かに大人びている気はするが、それと同時に背伸びをしている雰囲気を感じる。

 辰巳は一言で言えば素直な奴だ。

 良家の跡取りということだが最初からあるものに頼らず、漠然としてはいるが一人前になりたいという本人の意思は上っ面だけではないと感じる。


「仲の良い兄弟のようだな」


 少し口許を緩ませ、和やかな笑みをした高野の視界が一瞬切り替わったかと思うと次の瞬間、刺すような痛みをこめかみに感じた。


「...お前が...軍人になってくれたらなぁ」


 畳に敷いた布団に寝ている人物。顔は見えなかったがおそらく男性。声も弱弱しくかすれていたがどこか聞き覚えがあった。

 はっと顔を上げるとそこは先程と変わらない日差しがサンサンと差し込む窓際の席だ。


「今のは...」


「おっ待たせリーダー。スペシャルネイビーバーガーセットだよ~......ってどうしたの?凄い汗だよ」


 自分と高野の注文が載ったトレーを両手にやって来た辰巳が少し驚いた素振りで聞くと一間置き、高野は少し慌てた様子で「大丈夫だ」と取り繕った。


「ジョー、早食いで勝ったら次はピザだかんな……おい、高野顔色悪くねぇか?」


 少し遅れて自分トレーを持ってきた早乙女も高野の様子を見て辰巳と同じ反応を示した。

 高野は再び問題無いことを告げると何かのスイッチが押されたように意識がはっきりとした。


「いやぁ参った、今日は特に暑いな。おぉそれがハンバーガーというやつだな。辰巳の奢りだ、早速いただくとしよう」


 自分でも芝居が過ぎると思ったが二人は納得したらしい。一応の警戒はしていたものの、その後高野に頭痛が訪れることはなく、馬鹿話も盛り上がった楽しい昼食は過ぎて行った。




「良い奴らだ」


 昼食後しばらくショッピングモールを探索した後、流れで解散となったので高野は公園のベンチから米軍側の港に停泊している潜水艦を眺めて呟いた。

 高野が人嫌いという訳ではない。ただ何か精神的な病を患っているかもしれない自分が関わってはいけないと一線を引いていた自覚はある。

 だが今日も含め、時おり自分の発する不可解な言動等に対峙しても二人はあまり気にしている感じはしない。何の因果か巡りあった同期、自身の事で頭がいっぱいではあったが、時が解決するまでなどと都合の良い考えはしないまでも実質一ヶ月程で教育期間は終わる。

 そのあとは各部隊へ配属となり、タイミングが悪ければ会うのは数年先になるのも珍しいことではない。


「まぁ誰かが辞めることはあってもこちらの世界の、現在のこの国はどうやら自分から戦争を仕掛ける気配は見られないからドンパチで死んで会えないということはまずないのだろうか。

 辰巳はお調子者だがあれでいて勉強はできるときたから意外だ。それでいて条件さえ揃えば運動能力も極めて高い、まぁ女好きだから早々に結婚しているかもな。

 早乙女は喧嘩っ早い所はあるが自分を慕う者に対しては面倒見が良い。短気を起こさないで残っていれば良い教官になるやもしれん」


 先ほど自販機で購入した炭酸飲料を一口飲み、その缶を眺める。

 当たり前のように英語の表記があり、恐らく今ここで暮らしている人はこれに顔をしかめることもないのだろう。

 早乙女と辰巳の話で共通なのは敗戦後はどこの国の領土にもならず、侵略も奴隷にもならず、非戦争をかかげて今の平和を手にした。

 名前が帝国軍から自衛隊か憲国軍になったところで話の食い違いが出始め、早乙女は軍関係に興味が無いらしく「もともと軍隊の歴史とか知らねぇし」と言っていた。辰巳の話では敗戦後に自衛隊に名前を変えて自ら戦争に首を突っ込むことはしなくなったとのことだ。

 だが今いるここは勝利も敗北もない「だれも勝たなかった」世界。

 ゆえにどこかで各国の方向性が変わった。いや、高野が覚えている歴史において昔は国内で領地を争い国取りをしていた。

 それが海を越え対象が世界となったのだが、ここはそれよりなにか巨大な共通の存在が現れたことにより表面上は世界が一丸となる素振りを見せつつも隙を見て他を出し抜こうとしている。


 高野は夕焼けの空を仰ぎ、目線はどこでもない遠くを見つめた。

 帝国海軍でこの国の勝利のためと思い、田舎を出てきた時に見た空に似ているようでまったく別物の世界の空。


「ワシは、いったい何者なんだ...」


 呟いた言葉は凪いだ風に浚われるように霞んで消える。


 缶の残りを飲み干し、帰隊しようと腰を上げると辺りの静けさに気づいた。

 喧騒とまでは言わずとも、休日の家族連れや犬を散歩する老人。すぐ近くの道路を走る車の音すら聞こえない。

 妙に思うよりも些か早く言い表しようのない気色悪さ、風のように柔らかくだがねっとりとした感触が高野の背中を撫でた。

 とっさに飛び退き踵を返し確認すると、陽炎のように揺らぐ透けた黒い存在。形ははっきりしないが人のようだと高野は感じ、それに応えるように丁度自身と同じような背丈の顔にあたる部分に僅かに赤い、光の無いどす黒い目のような物体が二つこちらを見つめている。

 だが不思議と恐怖は感じておらず、警戒しつつ目の前の存在がを見極めようと目をそらさずじっと構える高野。一方の黒い存在も体を左右に揺らめかせ、見定めるように目?だけはこちらを凝視している。


「貴様、何者か!?」


 高野が強めの口調で聞く。

 言葉を理解できるとは期待していないので牽制の意味だったのだが、黒い存在は途切れながらもわかる言葉で返してきた。


「オ、マエハ、ナン...ダ...?ドウシテ、ソンザイシテ...イラレル...?」


 相手の言っている言葉はわかるのだが意味が理解できない。

 それも今しがた自問自答した自身の事を聞かれ、教えてほしいのはこちらだと言い返したかったがその後の「ソンザイシテイラレル」とは?なぜこの場にいるのかという意味ではあるのだろうがそれ以上の意味合いを感じる。


 好戦的な感じはしないが、いまいち友好的になれるとも思えないのでじりじりと後ずさるがすぐに後ろの柵に足を止められ、さらにその先は海だということを思い出す。

 黒い存在は動きを止めたが眼差しだけは相変わらずのまま続ける。


「ツヨイ、タマシイ...ホシイ...」


 その言葉の直後、高野は後ろから強く引っ張られた。

 無数の腕が絡み付き、フェンスと足の間から延びた腕が機械的に容赦なく締め付ける。

 その痛みにたまらず声を上げるが更に無数の呻くような声を聞き、今度は正真正銘恐怖で顔を動かすことができなかった。


「アァ~...ヨコセ...ソノタマシイ...ヲ...オマエノソンザイ、ヲ~」


 呻き声はいくつも聞こえるが皆同じ内容、それをひたすら繰り返している。

 高野は恐怖に押し潰されそうになりつつ必死でもがいていると、肩の辺りを掴んでいる力が僅かに緩んだのでありったけの力を込めて体を前に屈め、転がるようにその拘束から抜け出した。

 だが後ろを振り替える間もなく、地面を向いている高野の視界には最初に話しかけてきたあの黒い存在の揺らめく一端であった。

 まずい、と頭が考えるよりも先に体が反応し、勢いよく横に転がる。

 確認などしている余裕もなく、なんとか起き上がると脇目も振らずに走り出す。

 衣替えを終え、教育隊の門を出たときは皺一つ無かった純白のセーラー服は見るも無惨。だが帰隊して班長にどやされることなど二の次だ。

 戦っても勝てるものではない。あれはこの世の者ではないのだと高野は察したのだ。

 そしてその予想は的中し、黒い存在は音もなく浮かぶと突風のように舞い上がり高野と並走した。

 触れられてはならぬと瞬時に地面を蹴って後ろに飛ぶ。

 黒い存在はそれを確認してから旋回し、ゆっくりとそこから3メートルほど上昇したところでこちらを見ている。


「機敏かと思いきや案外どんくさい、しかし何を考えてるのか得体がしれないな」


 少し距離が離せたからか、どこか気持ちに余裕ができた高野が退路は無いか目だけで辺りを伺っていたが、岸壁の方を見るとその光景に目を一際大きく見開いた。

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