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RVALON  作者: 竜;
RVALON Ⅱ ~Zilch~

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01-04


「まったく、騒がしいやつらだ」


 高野達が去った後、姫達のデザートを運んで来た花輪は少し笑顔で言いながらまだ食事中の器の側にそれを置く。


「お、プリンさんだ。アラモードチェンジしてるんだな」


 僅かにカレーの付いたスプーンをデザートに向ける姫に主が声を掛ける。


『姫、デザートはデザート用のスプーンで召し上がった方がよろしいかと。味が混ざってしまいますよ』


「何事も挑戦なんだじょ。塩キャラメルとかあるくらいだからきっとカレープリンも美味しいはずなの」


「姫しゃまのは単に本能とずぼらが同居してるだけでしゅ。はぁ~ナーガしゃん、本日も美味しく、ダイエットへの罪悪感が積もるお食事をありがとうございましゅ」


 一足早くカレーを終えたスパイクは丁寧に手を合わせ、言った言葉とは裏腹にデザートに礼をして躊躇いもなくスプーンを進める。


「眷属よ、幼き時は存分に食べて体力の限り遊ぶものです。玉藻嬢に限って無いとは思いますが、貴方の発育が芳しくないとちゃんと食べさせてもらえてないのかと心配になります」


 口調は穏やかのだが、花輪の場合は真面目なニュアンスが主張するのでスパイクは慌てて言った。


「た、玉藻しゃんのご飯はいつも美味しいのでしゅ。でも最近お腹がポッコリしてきてでしゅね、スタイルの良いドラゴンを目指すなら日ごろの努力が実を結ぶのでしゅ」


「さっきお魚さん平らげといてどの口が言うんだな。それにトカゲはどう見てもアジア系じゃなくて洋物なんだじょ」


 主の助言で僅かにカレースプーンを思いとどまった姫。代わりに主にカレープリンを味見させている傍らで言ったが、スパイクは何が悪いのかわからない様子で「え?お魚しゃんは動き回ってカロリー使ってたからいくら食べてもカロリーゼロでしゅよ?」と言った。


「なるほど眷属よ、それは興味深い理論だ。だが何事にも向き、不向きというものがある。眷属は東洋の方に多くみられる細長いフォルムではなく、西洋の書物に登場するどっしりとした体形が望ましいと思われる。

 奇跡の姫君の勧めで勉強している初代ライダーの藤岡氏のように、肉厚で骨太な方がヒーローとしては安心感があり、着物や褌姿の男性を見ても腹が出て足が太い方が根強く、どっしりとしていてこの身も好感を持てる」


「あたちもルナしゃんみたく蛇神の血統が入ってたらスタイルの悩みなんてないのでしゅ。女の子なのでやっぱりスラリとしてスマートなボディは憧れでしゅ……ねぇ主しゃまぁ……」


 最終的には主の好みだと、意見を仰ぐように顔を向けると口元でスプーンを止めた状態の主は微動だにしていなかった。


「主、それ美味しい?」


『カレールーのスパイス感とプリンの甘さ、ボルシチにも生クリームを垂らすのでまろやかさという意味では理解できます。後はライスの食感がプリンの柔らかさと重なるのでこれは好みが別れますね。忙しい時や窮地に立たされているのであれば同時に食すことも考えられますが、許されるのであれば別々に食べたいというのが感想です』


「隊員さんが一生懸命作ってくれた料理に余計なことするなんてラーメン屋で餃子用の醤油を注ぐかの如く注ぐ愚行なんだな」


「まったくだ。貴様のためではないが、この身が手塩にかけた味が気に入らぬとは相変わらず不躾な男よ。生憎残飯でも漁れと言いたいところだが、それも散らかされては余計面倒だ。かと言って貴様の為だけに下級な料理を拵えるのも手間なので大人しく出された物は余計な事をせずに黙って食べるがいい」


 PXで買って食べろと言われた方がマシな気がするが、とりあえずは出入り禁止にならないだけ御の字とし、主は多少の理不尽は残りの食事と一緒に口へ運んだ。


 食後のデザートも済み、いくら存在が認知されないとはいえ、昼時の食堂に居座るのも気が引けたので裏口の方へ周ると、先に片付けのため厨房に戻っていた花輪が吸い殻入れと長椅子が設置されている喫煙スペースに座っている。

 腹が満たされた姫とスパイクは適当な木陰で早くも昼寝の準備を始めていた。


「早くも2ヶ月だが何か進展はあったか?」


 主が対面へ座ると花輪は胸ポケットからシガーケースを出し、細い葉巻のような物を銀の筒に軽く押し込めてくわえた。そして軽く指を鳴らすと小さくチリチリと音を立て、その先端から煙が昇る。


『高野さんはタフなお方ですね。身体は元より精神がまるでブレない。ご本人は協力的なのですが今回は別に問題があるようです』


 長く息を吐き出しながら、その青みがかった煙の行方をぼんやりと目で追う花輪が眠たげな口調で話す。


「その原因がわからないと局の方でも扉を開けないということか。突く藪すら不明では待つしかないな。店の方はマスター(ロメオ)と玉藻嬢のお子様達がいるから心配ないとはいえ、負担を掛けるのは些か心苦しい」


『家宝は寝て待てと言いますから。それにこちらでの滞在は長期でも私たちの世界では2、3日程度しか経過してないでしょうし』


 主は心地よく頬を撫でる程度の風を感じ、姫とスパイクが無防備に寝入っている方を見ながら言った。するとすぐさま花輪が葉巻の煙を主へと吹いてよこした。


「寝て、と言えば玉藻嬢とは寝たのか?」


 向き直った主は花輪の目を見ると、一瞬間を置いて答える。


『家にいる時はいつも寝ていますよ。我が家では皆、なぜか寝る時は狭い寝室に集まるので。......花輪さん、もう廻っているのですか?』


 そう聞いた主を呆れるように、そして意識が頭一つ分程浮いているように薄く笑いながら花輪は言うが、段々とその呂律が回らなくなっていく。


「そーいふ事を、聞いてるんじゃ、なくてなー、何ねんいっしょに……はー?酔ってるって誰が……」


 そのまま横たわり、寝入ってしまった花輪の手から葉巻を抜き取る。陽気から大丈夫と考えたが、一応主は自分の来ていた革のジャケットを掛けた。


『慣れない術の使用、感謝いたします』


 主にはある呪いがかかっていて、それは一定の条件を満たさなければ他者から認識されないといったものである。

 いつ、誰にかは覚えておらず、加えて12歳頃以前の記憶がない。気づけば現在の職場である「管理局」で働いていた。


 おもな職務内容はいわゆる異世界に迷い込んだ者の保護と帰還をさせることであるが、当然本人も異世界に行くことからので様々な弊害を受けるため通常の人間がこの仕事に就くことはできない。

 しかし主は異世界間を往来してもその影響を受けない体質から、一般公務員の継続年数と同等の給料をもらいながら日々職務に従事している。


 今回の保護対象は先ほど食堂にいた高野たかの 五郎ごろう。4月に入隊した新兵である。

 早乙女や辰巳達との会話で「帝国海軍」や「自衛隊」でもないと話していたとから、本来の世界にはない別の組織がある異世界へ迷い込んだのである。

 通常、異世界に迷い込んだ人間を管理局が保護し、その対象が望めば問題なく元の世界に戻る扉を開くことができる。

 管理局はこの扉の開閉を管理することができるのだが好き勝手に出来るわけではなく、あくまで条件が揃って可能になることである。その条件が本人の意思に寄る所が強く、人によっては異世界の方が居心地よく感じる者もいるため、管理局の保護を拒否する場合もあるのだが、通常であれば自身の世界と異なる場所にいるということは保護具無しで宇宙に放り出されるようなものであり、大抵の人間の場合は1日と持たず変調をきたして強制送還となる。

 中には例外があり、高野のように数か月経っても、場合によっては一生弊害を受けない者もいる。本人が良くても本来いるはずのないものがどんな影響を及ぼすかは未知数のため、管理局としては早々に帰還させるのが本来の目的である。


 さて、主の前で眠っている存在にも触れておくと、花輪はなわ るな

 竜神と蛇神の血統を受け継ぎ、現在はスパイクのお目付け役を任されている。普段はブラッスリーである[AND]と酒と喫煙具の店[END]を経営するオーナーはロメオの下、従業員として生活し、隠れてスパイクを監視していたのだがあっさりと玉藻に見つかった経緯から、気づけば玉藻のお子達を指揮し、共に店を盛り立てている次第。

 某神戸の歌劇団の男役の理想形のような容姿に加え、本人も動きやすさと「虫除け」の観点から好んで男装をしているのだが、これが逆効果で男は"それなり"に近づかないのだが、女性の方からのアプローチが熱烈となった。

 ちなみに神族に性別の概念は無いが本人の自由意思で現在は性別を女性としている。

 主達が来た世界では神や魔法、いわゆるファンタジーとされる大抵の事柄が共存している。勿論ドラゴンの類も当たり前に存在するのだが、他の幻想生物よりも謎が多く、希少であり当然特別扱いされている。少し詳しく言えば竜でも「神」となっている存在は珍しくないのだが、神になる前の純粋な竜は主の世界でも現在確認されているのはスパイクだけであり、そのため保護並びに研究対象とされている。

 しかし、本来どのような力があるかもわからない存在を無理に契約者とされている主から引き離すことは危険と判断されていること、主が管理局の職員ということもあり、その処遇はだいぶ緩和、いや、曖昧にされている。

 それでも手放しにするわけにもいかないので、監視役として本来縛られるはずのない竜族である花輪に相談して穏便に契約が結ばれているのはそれが純粋に同族のためであり、管理局からの交換条件に納得しているからだ。

 出会い方が少々まずかったことと些細な誤解から以前、主と花輪は多少のもめ事があったが現在は一応和解し、協力関係にある。それが原因かはわからないが花輪は男性(特に主には当たりが強い?)対して自身への呼び方が厳しく、姫、スパイク、玉藻とそのお子達が好々きに呼んでも気にしないのだが、主がルナやナーガ(花輪の種族の尊称)と呼ぶと流さずに訂正させる。

 ナーガと呼ぶと身分などがばれるからなのかと思ったが、スパイクが普通に呼んでいることから知られて困るというわけでもないらしい。だが、理由を聞くとややこしくなりそうなので本人の意向を尊重して、主は所謂源氏名ではあるが苗字の花輪と呼ぶようにしている。


 主はまだ煙か立ち昇っている葉巻を銀の筒から引き抜くと、自身の胸ポケットから銀のケースを取り出し、その中の同じ形状の筒へと差し替えた。


『私だけでこちらの術を使いこなせればよいのですが』


 そう言って吐き出した煙は花輪の時とは違い、紫に色づいていた。そしてその煙は先に流れていった青いものと合流して交わると風向きとは関係なく勢いよく立ち昇り、広範囲の空を覆っていく。


「あ、主はケムケムさんしたから妾に近づいちゃダメなんだな」


 横を見ると、先ほどスパイクと一緒に昼寝したかと思っていた姫がベンチにしげしげと隠れるようにして言った。


『術の継続の為ご了承ください。それにこちらの葉巻は普通のものと違い、匂いはありませんのでご理解いただければと』


「喫煙してるだけでドール界隈ではイメージ悪いんだじょ。ディーラー活動してる身ならなおさらなの」


『私の場合、日常的な愛煙家ではありませんので。それに姫、この術を使わないとお風呂とか入れませんがそちらはよろしいでしょうか?』


 些か不満な感じではあるが、ベンチによじ登った姫は主に凭れるようにして寝そべる。


「今日も平和なんだな」


『軍隊や警察、消防士の方々などは、できれば忙しくない方が世の中穏やかですからね』


教育隊ここみたいに一生座学と筋トレだけで終われば良いんだな。あ、主、喉乾いたからジュージャンなの」


『お昼休みが終わって、隊員の皆さんが教練でいなくなってからPXの方に行きましょう。姫とスパイクさんの負け分は私が立て替えてありますので、帰ったら払ってくださいね』


 短くなった葉巻を筒から外して灰皿へ入れると、軽い破裂音をさせて灰色の煙がゆらゆらと舞い上がった。


「ん?いたいけな妾から取り立てするとは、ドールおじさん達が黙ってないんだじょ」


『そう言えば帰ったらイベントも近いですね。連絡しておきませんと』


「お~、おっちゃんレンタルのおっちゃんか。今回はどんなシャツ着てくるか楽しみなんだな♪」


『いつも玉藻さんにお願いしていますので私も一度きちんとご挨拶に伺いたいですね』


 言いながら筒をケースにしまい、胸ポケットへと戻す主の目線の先には少し盛り上がった山がある。


 戦時中に作られた防空壕なのだが今は使われておらず、噂では夜な夜なその奥から呻くような声がきこえるとか。もちろん風が入り込み、空洞内でそのような音に変わったのだろうが噂話には尾ひれが付くもの。

 やれ戦時中の死者の魂だとか、人体実験の被験者の叫びだとか。大抵は面白半分に入って、万が一崩れたりでもした時の為に近づかないようにとするための作り話なのだが、心霊の類は信じない者も「戦時中は戦死した兵士を充分に弔う時間も無かったことから、まとめてその中に入れておいた」と言うとまず気味悪がって入ろうとはしないだろう。


『良くも悪くも、魂の集まる場所には原因があるものですね』


 主は横を向き、微かに寝息を立てていた姫の頭を軽く撫でながら呟いた。

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