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RVALON  作者: 竜;
RVALON Ⅱ ~Zilch~

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01-02


「フィッーッシュ!!」


 6月も末に差し掛かり、気温の上昇もちらほらと本気を見せ始めた頃。コンクリート作りの防波堤で弾けるような声で釣り竿を勢いよく引き上げる小さな影があった。その傍らでは頭の後ろで組んだ手を枕代わりにして空を見上げ、寝転んでいる人物もいる。


 岸壁で釣りをしているどこにでもありそうな風景ではあるがいくつかの違和感がある。


 まず何食わぬ様子で寝ている人物だが、控えめに言っても寒さを感じる気温では無いのに黒いレザーのハット、ジャケットもこれまた若干艶を落とした臙脂色の革製の物と少々色褪せたネイビー色のジーンズに茶色い紐編みのショートブーツといった組み合わせ。

 これだけならまだ暑さよりもファッションを優先したスタイルと言えなくもないが、これに加え、ハットからジーンズに付けているウォレットチェーンに至るまでどこかしらに施された銀細工が主張する。だが何より目を引くのは、彼がどこの国の物かわからない軍用のガスマスクを被っているという所である。


 続いて先ほど元気な声を上げた存在。

 プラチナブロンドのショートボブにノースリーブの臍辺りまでの丈の白いYシャツ。膝上までの切りっぱなしのショートジーンズに黒い編み上げブーツ。そしてこちらもガスマスクの人物同様、シルバーアクセサリーをいたるところに装備している。

 だが彼女の最も注目すべき点は大きさが人間の1/3程度しかない、本来は自由に動くこともできないはずの人形であるということ。現在は顔の表情も人間のそれと変わらず、本来であれば彼女にあるはずの球体関節も見受けられないので小さな人間と言って差し支えないのだが、そのサイズだけでも見た者は違和感を覚えることだろう。


 更には彼女が引き上げた竿の先で魚を「咥えている」それは疑似餌ルアーにしては明らかに不釣り合いな存在。些か明るさを抑えてた綺麗な紅い、まだ柔らかさが残る鱗にどのような理屈で飛ぶのか疑問を拭えずにはいられない小さな蝙蝠のような翼。大きくクリっとしたつぶらな瞳のそう、幼いドラゴンが付属していたのである。


「ひ、姫しゃま~、コイツ大きいでしゅ!それに暴れる、活きが良いでしゅよ!」


 べしゃっと鈍い音で打ち上げられ、聞いている側は痛そうと思うのだが、その幼竜は何食わぬ顔をしテ起き上がると二足歩行でペタペタと魚を抱えて寄ってくる。


「おぉでかしたぞトカゲ♪今日も爆釣なんだな。ぬし、まだお時間大丈夫なの?」


 座っていたクーラーボックスを開け、今釣り上げたものとここ2時間程度の成果を見ながら姫が尋ねると主と呼ばれたガスマスクの人物は、ジャケットのポケットから携帯端末を取り出し、時間を確認すると姫の方へ顔だけを向けて応えた。


『あと10分程したら食堂が開きますので程々でよろしいかと。昨日も釣るだけ釣って結局食べずにリリースしたので、今日はお魚が元気なうちに海に帰してあげてはいかがでしょう?』


 そう言われた姫は唸りながらボックスの中いっぱいの魚を名残惜しそうに覗く。


「ですのでアタチが美味しくいただくと言ったのでしゅ」


 一緒に覗いていた幼竜が食することの許可をやんわりと要求するが、姫は魚から目線を逸らさずに言う。


「トカゲはこのお魚さん達を見てなんとも思わないの?諦めたようにどこ見てるかわからない死んだ魚の目をしてるけど、別にみすみす食べられるために釣られたわけじゃないんだじょ。ほら、コイツの背びれなんてなかなかイナセなんだな」


 酷く窮屈で身動きを取りにくそうにしている、他の魚より一回り大きい魚をちょいちょいと突いていると、突然その魚が姫の指へと食らいつく。慌てて腕をバタつかせて振り解くと、勢いよく射出された魚はそのまま主の顔面へと着地した。


「ふぅ~、凶暴なお魚さんに指食べられるかと思ったんだな。このお手々はディーラーさん製でちょっと高いやつだから勘弁してほしいんだじょ。……主、なにお魚さんと戯れてるの?そろそろご飯さん食べに食堂行くんだな」


 落ちてきた魚の尾びれを摘まみ、主は起き上がりながら言う。


『確かに活が良いですね。それではお魚の皆様にはお帰りいただいて、私達も食堂へと移動しましょうか』


「また午後釣るからその辺で泳がせてやるんだな……ん?……ありゃ?」


 姫が広げた両手を見て何かに気付く。そして主が手にした魚を海へと放るのに的確な角度まで腕を上げた瞬間、


「主、妾の指環が無いの」


 その言葉と同時に主の手を離れた魚は綺麗な放物線を描き、勢いよく本日二度目の打ち上げのためと飛び立つ。そして頂点へと差し掛かったあたりで姫と主は、顔を見合わせたまま言葉には出さずにアイコンタクトで「(値段の)高いやつ」『……高いのですか……』と瞬時に交わす。


 次の瞬間、主は岸壁を蹴って太陽を背にした魚へと向かって飛ぶ。空中で魚をキャッチし、そのまま海へと落ちていくが海面に接触した瞬間、ビデオの逆再生をしたよう、元来た軌道をそのまま辿り再び岸壁へと着地した。


『やはり札は多目に持ってくるべきですね。思わぬ所で使用しますので』


 戻ってきた主の片手には、活け造りにされ、綺麗に盛り付けられた皿。もう片方の手には指先に摘ままれた小さな指環があった。


「ごめん主、ありがとなの」


『ディーラーさんのハンドパーツは純正に比べてサイズや素材が違い、指環などは外れやすいので、姫が受肉化した状態とはいえお気を付け下さいね』


 喜々として指環を嵌めてもらった姫は皿に盛り付けられ、まだ呼吸をしている魚の頭を見ながら主に言う。


「お醤油とお箸ないの?」


『生憎ご用意が無いもので』


「これ見よがしに盛りつけといて食べられないとか、妾もお魚さんも生殺しなんだな」


 その前に皿と、ご丁寧に刺身の下に敷いてあるツマは何処から出したのかを問いたかったが、そこをぐっと飲み込んで短い腕を高らかに上げ、我こそがと主張する声があった。


「で、ではここはアタチが!」


『調味料がありませんがお願いできますか?スパイクさん』


「生ものは鮮度が命でしゅから」


 そう言ってスパイクは刺身……ではなく、本来飾付けである魚の頭にかぶりつくと軽快な咀嚼音を立てて食べ始める。


「ぬぅ、トカゲだけズルいんだな。主、妾達もご飯さん!」


 クーラーボックスの魚を海へ戻そうと屈んだ主によじ登り、肩に座った姫が抗議するが主は急ぐことなく、釣り竿や自分達がいた場所にゴミなどが残っていないかを確認する。


 そうしてスパイクが魚を平らげたところでようやく食堂へと足を向けたのである。


 さて冒頭で述べたいくつかの違和感は何も主達だけに焦点を当てたことではない。

近い所からであれば主達がたった今釣りをしていた海には長さ9mほどの短艇(カッター)と呼ばれる手漕ぎボートが数艇往来し、それには十五名の乗員。一人だけ黒い作業服の男がメガホンで罵声に近い怒鳴り声を上げ、青い作業服の者が立ち上がる勢いでオールを漕いでいるところを見ると、小さな池でカップルが甘い一時を過ごすそれとはあからさまに違うことがわかる。


 主達が歩く先には同じ色のジャージや作業着を着た者達が掛け声を張り合いながらランニングしている。そして学校のグラウンドを思わせる広場にはいくつもテントが張ってあるが、どれもモスグリーンでテントの周辺には同じような色の服を着た者が何人もいることから、ここが行楽の為にキャンプをするような場所ではないことが伺える。


 横須賀の市街地から反対側の海に面し、千葉方面に行けば展望スポットやマグロで有名な三浦。箱根方面へと足を向ければ鎌倉や江ノ島といった観光スポットには困らない。


 現在主達がいるのはその中間くらいにあり、入り口には「憲国陸軍葉山駐屯地」「憲国海軍横須賀教育隊」「憲国空軍葉山駐屯地」と、立派な看板と門番の兵士が警備し、コンビニ感覚で気軽にるような施設はない。


「今回は元の世界と時代も文化も殆ど同じだから安心感が段チなんだな」


 主の肩に座りながら、どこに売っているのか自身に合わせたサイズのスマホをタップしながら姫が言うと、どうやらゲームを起動したらしく、けたたましいファンファーレの音が主の耳元で鳴り響いた。


 [クマ娘!ホームランダービー!!]


 劈くような大きい音に、僅かに首を傾けて立ち止まった主だが何事も無かったように歩き出す。


『姫、まだ皆さん課業中ですので、せめて消音にしましょう』


「毎度のことながらまさか主は冗談を言ってるの?妾がお小言われるなら、陽気に浮かれて鬱陶しい勢いで飛び回ってるトカゲの方がよっぽど隠さなきゃいけない存在なんだな」


 そう言われた主がスパイクを探すと、成人男性の腰の高さほどの四角いアーチ状のパイプ群をドッグランの障害物フィールドのように飛び回りながら避けている姿が目に入った。


『今回は花輪さんが同行してくれたおかげで結界の微調整も容易ですし、元より私の呪いでまず周囲に気付かれることはありませんが姫、よろしいのですか?立派な指揮官になると意気込んでいたようですが』


「あ、あ、妾の!」


 スっと主が出した姫サイズの海軍幹部(艦長クラス)の帽子を見て姫が手を伸ばす。


『いけませんよ姫。きちんと四ヶ月の教育期間を修了して、帽子に相応しくなったら被ると宣言したのはご自身なのですから』


「世の中厳しいだけじゃ育たないんだじょ。最強ピッチャーのロビン率いるゴールデンベアwithレッドTシャッツも強敵だけど、オンライン対戦上位ランカーのLMノーネームーズを無課金で打ちのめすのも教育期間内の目標なんだな。それに主は妾に言うばっかで妾の出した課題はクリアできてるの?」


 そう言われた主は先ほどまでスパイクが飛び回っていた障害物の前に行くと、小指程度の太さの白いロープを取り出した。


『……スパイクさん、掛け声をお願いします』


 一通り飛び回って満たされたのか、タオルで汗を拭いながら降りてきたスパイクはパイプを挟み、主の顔の高さで浮遊しながら言った。


「えっと、舫結びでしゅ!」


 号令を復唱し、主は持っていたロープをパイプにかけ、指示された結びを完成させる。


『姫、いかがでしょう?』


 スマホをしまい、主の作った結び目をしげしげと見回す姫だが、特に指摘する箇所が見つからないのが逆に不満そうである。


「皆が屈強な戦士へとなるべく日々厳しい鍛錬に明け暮れている中、釣りしたりボートの練習用の池で遊んだりロープで遊んだりして主は暇なの?」


『仕事柄、基本待ち時間が長いのでこの結索けっさくは手持無沙汰の時には調度良いですね。今は夜寝る前に飾結びを練習しています』


 話しながらロープを幾重にも交差させ、花のような形を作り始めたが、途中で絡んでしまったので元の一本へと戻した。


「結索してないで、自分の作品で傑作を作ること考えるんだな」


『精進いたします。おや、もうお昼には調度良い時間のようですね』


 各所に設置してあるスピーカーから、昼食の時間を告げるラッパの音が聞こえてきたので、寄り道をしたが再び食堂へと歩く主。肩に乗っていた姫がふと後ろを見ると、複雑に自身の両腕を拘束するように絡まったロープと格闘するスパイクの姿があった。


「トカゲ、なに遊んでるんだな?人の趣味にとやかく言うつもりないけど、そういうのは理解できない人に見せるもんじゃないんだじょ」


「姫しゃま~!ほどけなくなっちゃったでしゅ、解いてくだしゃ~い!」


「結索の基本は解とけにくく解きやすくなんだんな。未熟者は身体で思い知らせるんだじょ。せめてもの情けで前立てかマッチ棒か選ばせてやるの」


 若干涙目で「その前にロープを解いてくだしゃい~!」と駆けてくるスパイクを引き連れ、主達は食堂へと向かった。

 ちなみにドールサイズの帽子は広島県の呉、自衛隊の制服を作っているお店で売っていました。5年くらい前なので気になる方は調べてみてください。一般の方も入店、購入は可能ですが、くれぐれも冷やかし等では訪問しないようご留意ください。

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