詩葉と元クラスメイトたち 4
目の前に置かれた詩葉の足を見て、みんなが困惑している。気分がいいな、なんて思って笑いそうになったけれど、不機嫌な表情は崩さないように気を付ける。
「早くしてよ」
あえて冷たい声で言った。
「そ、掃除するものがないんですけど……」
恐る恐る足元から声が出された。詩葉の機嫌を伺うみたいな恐々とした声が聞こえる。
「は? 従わないってわけ?」
「い、いえ……」
怯えたような声を出してから、男子たちは服を脱いで詩葉の足の指を拭き始めた。
「気持ち悪っ……」
彼らなりに詩葉の機嫌を損ねないように必死になっているのだけれど、詩葉は自分の足指を嫌いの人間たちが一日中着ていた服に掃除されることに生理的な嫌悪感を抱いてしまった。思わず足指を動かして、彼らのことを振り払ってしまった。近づいていた元クラスメイトたちが次々に吹っ飛ばされて、砂浜に身体を打ちつけていた。怯えるような目で詩葉を見上げていた。
「気持ち悪いな」
今度ははっきりと言葉にしてから、舌打ちまでした。元クラスメイトの男子たちも自身の下着姿をジロジロみてきていたから気持ち悪くて嫌いだった。従ったのに吹っ飛ばされたことに理不尽を感じているかは知らないけれど、元々悪いのは彼らだ。そう詩葉は思っていた。
夕陽を背に向けているから顔に影ができているせいもあって、本来以上に怖そうに見えているらしい。女子生徒たちの中には詩葉のことを見上げて泣き出す子もいた。
「なんでそっちが被害者面してるの? ねえ、悪いのそっちだよね?」
これだけ意地悪なことをして罪悪感が一切無いと言えば嘘になるけれど、当時の詩葉の辛かった頃の気持ちを考えたら、こんなことではすっきりしなかった。もっともっとこいつらに罰を与えてやらないと。
そう思っていたら、足元から鬱陶しい声がする。
「ねえ、櫻井さん。もうやめてよ!!」
キンキンした声。正義感の強いクラス委員長のくせに、わたしのことを見捨てた子。今更正義感ぶって、止めてくるなら、あの日いじめっ子の女子たちを止めてくれたら良かったのに。
イライライライライライラ
「ムカつく。わたしが悪いっていうの???」
チッと舌打ちをした瞬間、今度は委員長が元クラスメイトたちから詰られる。
「あんたがいらんことしたから怒ってるじゃ無いのよ!」
「お前のせいだ」
「最悪……」
イライライライライライライライライライライライラ
チビ同士で仲間割れをし始めて、苛立つ。委員長なんてどちらかと言えば、虐めてた子たちのせいで巻き込まれた子である。止めなかったという点で彼女にも罰を受けさせたいけれど、かといって、元クラスメイトの子たちの中ではいじめに一切干渉していなかっただけ、マシなほうである。自身のことを加害者みたいに言ってきたことにはムカついたけれど、彼女単体にはそこまでの嫌悪感はない。むしろ、自分たちのしてきたことを棚に上げて彼女を責めているこたちに苛立った。
こいつら、ほんとに……
腹立たしくなってきた。
「もういい。みんなまとめて踏み潰すから変な仲間割れやめな。どう考えても委員長だけが悪いわけじゃないでしょ。バカじゃないの? なんなら、この子はバカのせいで巻き込まれたんじゃん」
詩葉が足を上げれば、元クラスメイトたちが足の陰に包まれる。全長6メートルの足は、近くに固まって一まとまりになっていた子たちをまとめて足の下に置いた。その瞬間、仲間割れの声は悲鳴に変わる。
(足降ろしたらクラスメイトまとめて踏みつぶしちゃうな。そしたら、お姫ちゃん先輩二度と口効いてくれないだろうな)
そんな感情に足の動きを止めてしまいかけたけれど、首を横に振った。
(どうせこいつらのこと踏み潰すのなんて時間の問題だし)
バラバラと巨大な石の粒が小さなクラスメイトたちの当たってみんな痛がっている。でも、この後詩葉が足を降ろせば、そんな痛みは比にならないような激しい衝撃が彼らの身体を襲うだろう。
「じゃあね」
そうして一思いに踏もうとした瞬間に、詩葉を呼ぶ声が聞こえたのだった。




