詩葉様と小さな召使いたち 1
※虐めシーンの回想描写あるので苦手な方はご注意ください
~登場人物~
詩葉……ギャル系巨大少女。巨大少女たちには優しいけれど、普通サイズの人間には好き勝手振る舞う
咲姫……詩葉の先輩で同部屋の巨大少女。おっとりとした性格。
絵美莉が白嶺さんたちと共に縮小薬の話をしている時間から少し遡る。絵美莉のことを散々苦しめた詩葉は、彼女が月乃たちに部屋の外に連れられて、一人になったから退屈になっていた。
「あ、そうだ! そろそろ呼びだそっかな~」
カレンダーを見て、今月の外出許可の回数がまだ余っていることを思い出す。突然の思い付きだけれど、相手は絶対に詩葉の誘いを断ってこないという確信があった。
巨大少女たちは月に2回学外に出ても良いのだ。もちろん、普通に街に入ってしまえば途端怪獣みたいになってしまいかねないので、出かけられる場所は限られているけれど、それでもこんな寝泊まりするための部屋と教室と小さなグラウンドしかない場所でずっと過ごすより楽しい。使える権利は使わないともったいないから、詩葉は必ず月に2回は外出することにしていたのだった。
楽しそうに鼻歌を歌いながら書類の記入を進めていく。
「楽しみだなぁ」
つい先ほどまで詩葉に追いかけ回されて怖がっていた絵美莉とは対照的に、ルンルン気分で準備を進める。
外出先の希望場所を考える。どうせ選択肢は無人都市と海岸の2択しかないのに、わざわざ選ばせなくてもとは思いながら、素直に海に丸を付けた。
無人都市で一人巨大化している状態で女王気分で振る舞うのも悪くないけれど、今日は海の気分だった。
無人都市を選ぶとこの間月乃たちが特別授業をしていた都市を使わせてもらえるけれど、今はそんな狭苦しいところで遊ぶ気にはならなかった。
「申請理由かぁ……」
チビいじめ、なんてかいたら確実に書き直させられる。なんか一応理事長にも確認されるらしいし、あまりふざけたことは書かない方がよさそう。
『申請理由:復讐の為』
そう記入してから、小さくため息を吐いて消しゴムで消す。
「私用の為って書くしかないよね」
去年のこの学校の卒業生である巨大事務員の東條さんからは「大人の事情に従っておいた方楽だよ〜」と元も子もないことを言われたことがある。
東條さんは在学中は何度も萩原先生を食べかけたり踏み潰しかけたり吹き飛ばしたりしていたというのに、社会人になった途端、随分と丸くなったものである。まあ、それも萩原先生の指導の成果ではあるのだろうけれど。
東條さんは巨大化前から喧嘩っ早くて怒らせたら怖い人だったらしい。巨大化前の詩葉みたいな気弱で引っ込み思案で自分の意見もまともに離せないようなタイプとは違ったらしい。
「あ、そうだ。ちゃんと呼び出しておかないとね。ここまで来るのに時間かかるだろうし」
そう思ってスマホを触る。
メッセージアプリを使って、元クラスメイトのうちのクラスの中心の子にメッセージを送った。
詩葉『明日の放課後クラスの子たち全員連れて海岸まで来れるよね?』
一応疑問形にしてあげているけれど、実際は彼女たちに拒否権はない。一晩で全員を集めて隣県の海岸までわざわざ詩葉に嬲られるために移動しなければならないのは大変だろうけれど、そんなことは詩葉の知ったことではない。
それから60秒ほど待ってみたけれど既読が付かないのを見て小さく舌打ちをしてから、追撃のメッセージを送る。
詩葉『遅い』『まだ?』『返事は?』『あと3分しか待たない』『オーバーしたら踏み潰すから』
連打したら、既読がついてからほんの2、3秒で返事が来る。
ゴミ『大変申し訳ございませんでした』
アプリに表示されている名前が悪口になっているのは、詩葉が勝手に変えたからである。名前なんて思い出したくもないし、今のサイズ差じゃなかったら二度と会いたくない相手だった。
詩葉『メッセージで謝罪とか舐めてるの?』
送った瞬間既読が付いて、すぐに電話がかかってくる。
『た、大変申し訳ございませんでした』
スマホから聞こえてくる声は震えていた。あれだけ気が強くて高圧的な声も今はすっかり鳴りを潜めていた。
「気持ち悪い声聞かせないでよ。あんたの声とか聞きたくないからさ」
詩葉はケラケラと笑ってバカにする風を装っていたけれど、内心、心臓がバクバクと音を立てていた。嫌なことを思い出しかけてしまう。電話だとサイズ差の優位性がわかりにくいからマズいな、と今更気付く。
(落ち着けあたし、電話口の相手はただのチビなんだから。いざとなったら踏みつぶしたら良いんだから)
そうやって必死に気持ちを落ち着かせている間にも不快な記憶がフラッシュバックしてくる。
初春なのに身体が寒くなってくる気がする。
……思い出したのは雪の降ってる日のことだった。中学時代の記憶が蘇ってきてしまう。視界の先にはローファーで踏みつけられて壊れたメガネがあったのも覚えている。
『見て、こいつ鼻水垂らしてるきっしょ』
『結構良い身体してるじゃん。動画撮ろうよ』
『もっと脱がす?』
『とりあえず、追加で水かけるわ』
やめて、と懇願する声も出なかった。
寒いよ
なんであたしがこんな目に遭ってるんだろ……
中学時代の同じサイズ感だった時の大嫌いなクラスメイト達の顔が浮かんできて、呼吸が早くなる。
フラッシュバックしてくる記憶が気持ち悪くて吐きそうになってきた。もちろん、そんなこと向こうに勘づかれたくないから、必死に感情を抑えるのだけれど。
手が震えてスマホを落としてしまいそうだった。これ以上会話したらボロが出る。さっさと切り上げた。
「次はないよ」
『明日きちんとメンバー集めて向かいますので』
それだけ言わせて電話を切ったのだった。
椅子の背もたれに思いっきりもたれかかりながら、天井を見上げてため息を吐いた。
「ムカつく……」
どれだけ巨大になって怖いものがなくなっても、いまだにトラウマは脳裏にこびりついている。
「早く、あいつらのこと徹底的に懲らしめて忘れなきゃ……」
ゆっくりと姿勢を正してから、書類の続きを書き始めるのだった。




