生徒会長は巨大少女たちが嫌いみたい 4
「えっと……。わたしそういえば次の授業の課題がまだ終わってなくて……」
とりあえず、ここから逃げようと思って、しどろもどろになりながら、恐る恐る席を立ち上がった。
「気にしなくて良いよ。先生にはわたしから言っておくよ」
「えっと……」
だけど、あっさりと逃げ道を封じられてしまう。こんなことに生徒会長権限を使われてしまっても困るのだけれど……。さて、どうしようかな。さらなる言い訳を考えようとしたけれど、思いつかない。
「まあ、座りなよ」
仕方がないから、促されるまま、その場に座る。結局わたしは白嶺先輩のややこしそうな話にのっかるしかないみたいだ。
「あ、あの……。大きな子たちに出てもらうって、さすがに可哀想じゃないですか?」
「伝統ある我が校にあんな化け物いらないだろ?」
白嶺先輩が平然と言うのと同時に月乃様の可愛らしい笑顔が浮かんでムッとした。 大好きな月乃様のことをそんな風に言われると、許せない。
「ば、化け物って! 月乃様はそんなんじゃありません! 大きいけど、とっても優しくて可愛くて素敵な人です!」
立ち上がって大きな声を出したわたしをみて、白嶺さんは、「ああ、そういうことか」と納得する。
「キミは春山月乃に対して好意を抱いているから、彼女が退学するとなると困る。そういうことかい?」
推理力が高いらしく、彼女はわたしの思っていることをそのまま言ってくれた。
「そう、ですけど……」
「うーん、なるほど。それは困ったね……。私としたことが交渉の仕方を間違えてしまったようだ」
彼女は頭をかきながら小さくため息をついた。
そして、ジッと睨んできた彼女の視線の鋭さに、思わず静まってしまった。何も反論できなくなってしまった。膠着状態。彼女の考えを必死に考えていると、突如部屋が揺れた。
「な、何事!?」
慌てて周囲を見渡すと、すぐに異変に気づいた。
「て、天井が持ち上げられてる……?」
突如壁に天井が宙に浮かび上がる。しかも、その持ち上げているのは重機ではなく明らかに繊細で綺麗な女性の手だった。本来丈夫であるはずの天井が、まるで蓋を取るみたいに簡単に持ち上げられていく。
「沙織さん、暖かい紅茶を淹れましたけど」
人間の声にしては大きすぎる声が聞こえた。それこそ、先ほどの30倍サイズの巨大少女たちと同じくらいの。そして、こちらを覗き込むのはその声に相応しい巨大な女子。
年齢は同じくらいに見える彼女は、可愛らしいメイド服を着ていた。人差し指の上にわたしたちサイズの小さなお盆と2つのティーカップを乗せていた。見た目こそかわいらしいのに、なぜか月乃様たちと同じくらいのサイズ。わたしと目が合った少女が、怖がらせないようにするためか、ニコリと可愛らしく微笑んだのだった。可愛らしい笑みであるはずなのに、そのサイズ差のせいで思わず一歩後ずさりしてしまった。
(巨大な子ってどれだけ可愛らしくても、その大きさだけで怖いんだよね……。わたしたちのことを簡単に潰せちゃうんだから。あ、もちろん月乃様は怖くないけど!)
「客人の前でこの部屋の外を見せてしまうのは感心しないな」
白嶺先輩が呆れたように巨大なメイドに言う。
「あれ? お客さん来てたんですか?」
「だから、暖かい紅茶を淹れてくれと言ったんだが……」
「沙織さんが飲むためのものかと思いました」
「私は冷たい紅茶の方が好きだ」
「ですが、疲れた時にはよく温かい紅茶を頼んできていたので」
「別に今は疲れてない」
「いえ、ですが、顔に疲労感が。わたしがお顔を舐めて疲労回復させましょうか」
巨大メイドが口からぬめっとした巨大な舌を出して、白嶺先輩に近づけた。
「や、やめろ。このサイズ差だと食われそうで怖いんだよ」
「そんな遠慮なさらずに」
「え、遠慮じゃない!」
あれほど強くてカッコよさそうだった白嶺先輩がすっかり怯えてしまっている。
「えっと……」
わたしのことなんてすっかり忘れて、2人で話を進めてしまっている。とりあえず、舌先から逃げてきた白嶺先輩に声をかける。
「あの……。うちの学校って月乃様たち以外にも巨大少女がいるんですか?」
「いや、そういうわけじゃないよ」
白嶺先輩がコホン、と小さく咳ばらいをしてからまた気持ちを整えようとしていたのに、また別の子が現れる。
天井からヌッと顔を出すみたいに、巨大な少女がもう一人現れた。
「やっほー」
萌え袖のように長くなっている白衣を着ている。巨大だから、この室内には顔を入れられないけれど、頭上から興味津々な様子で瞳を近づけくる。クリクリとした巨大な丸っこい瞳がジッとわたしを見つめてくる。
研究者に観察されるモルモットってこんな気分なのだろうか。そんな呑気なことを思っていると、だらしなく伸びた前髪がわたしの 身体の上に束になって乗っかってくる。
「お、重い……」
その場で身動きがとれなくなり、重みで床にうつ伏せで眠るような体制になってしまう。白嶺先輩がわたし方に近づいて来て、上に乗った髪の毛を一本ずつ退かそうとしてくれているけれど、重たくて一本ずつしか退けられなさそうだから、時間がかかっていた。
「とりあえず髪をどけてやれ」
白嶺先輩は巨大な白衣の少女相手にも堂々としていた。
「んー、あ、ごめんねぇ」
早く退けてほしいけれど、彼女の動きはゆったりとしていた。長い白衣の袖の上に髪の毛を乗せて退かした。彼女の髪の毛が退けられたおかげで一気に重みは無くなった。
「た、助かった……」
小さく深呼吸をしてから、周囲を見渡した。生徒会長の白嶺さんと、巨大メイドと巨大博士(?)。一体これは何の集まりなのだろうか。もはや予想するだけ無駄な気がする。わけがわからない以上、白嶺先輩の状況説明を待つしかないのだった。




