生徒会長は巨大少女たちが嫌いみたい 1
※絵美莉視点の話
~主な登場人物~
鞘野 絵美莉……普通サイズの1年生。月乃様に対して強い憧れを持っている
白嶺 沙織……普通サイズの3年生。生徒会長
月乃様に送ってもらったおかげでわたしたち普通サイズの生徒の校舎にはすぐに戻ってこれた。ぼんやりと見上げた校舎は見慣れたもので安心感があった。
「やっぱり自分たち用のサイズに作られた校舎って安心するな」
校舎の高さは月乃様たちの使っているものより低いのに、フロアの数は多い。わたしたちは彼女たちに比べたらずっと小さいことがよくわかる。
そのまま校舎に入って、教室に戻ろうとして扉を開けて足を踏み入れた瞬間、周りをみんなに囲まれた。
「な、何事!?」
グルリと周囲を囲っている子たちがみんな心配そうな顔でわたしを見ている。本当に何があったのだろうか。
「ちょ、ちょっと絵美莉! 大丈夫だったの??」
「怪我とかしてない?」
「無事でよかった」
みんな一斉に集まってきていて困惑してしまう。
「な、何の話……?」
「だって、巨女校舎に行ったんでしょ?」
「あ、バレてるの……?」
「うん、あの子たちの声めちゃくちゃ大きいしこっちまで聞こえてた」
「えぇ……」
あの修羅場が聞こえてたのか。なんだか恥ずかしくなってくる。普段月乃様たちって外で会話してることはほとんどないから、わからなかった。巨大少女用校舎は防音なのか音が外に聞こえにくくなっているけれど、外に出てしまえば30倍サイズの子たちの大きな声はしっかりと聞こえてしまうみたいだ。
「とりあえず、無事に帰れたし心配しなくても大丈夫だから」
まあ無事に帰れたというだけで結構大変な目には遭ったのだけれど。
「ならよかったけど、本当にやめた方がいいよ」
「あんな怖いところよく行けるよね」
すっかり勇敢な子みたいな扱いになっている。みんなから巨大少女用の校舎に入らないように止められているけれど、月乃様に会えるならまた行きたいな、なんて思ってしまう。
「次入ったら停学かもしれないみたいだから気をつけなよ」
「えぇっ!? なにそれ」
「先生かなり怒ってたから、後で呼び出されるかも」
「嘘っ……」
「そりゃそうだよ。だってあの山超えるの絶対禁止だもん」
「うぇぇ……」
まあ、よく考えたら万が一踏みつぶされて事故でも起きたら学校側の責任も問われるもんね。うっかり踏みつぶされてしまう可能性なんて山ほどあるし。
(もしかしたら、もう月乃様と会えないんじゃ……)
そう思って悲しくなってしまう。逆に巨大少女たちも校舎の外に出るのは原則禁止だからわたしたちはこんなに近くにいるのに、お互いに会うことができないのかも……
「てか、身体洗ってきた方が良いよ」
「え? なんで?」
「なんか絵美莉の身体、テカテカしてるし」
「え?」
言われて思い出す。わたし、月乃様にキスされたんだった。
「わ、わぁ……」
顔が熱くなってきた。こっちの普通サイズの世界に戻ってきてもしっかりと月乃様にキスをされたことが証拠として残っていることが嬉しかった。囲んでいた人混みをかき分けて、急いで自分の席に戻って鏡で顔を見ると、しっかりと月乃様のリップが付いて顔がテカっていた。
(ヤバい、めちゃくちゃ嬉しいんだけど……!!!)
「洗わなくて良いの?」
友達が心配してくれてもわたしは全力で首を横に振った。
「洗い流せないって!」
「え、絵美莉が良いなら良いけどさ……」
歯切れの悪いまま苦笑いをされてると、教室の外の廊下から声がする。まだわたしを囲んでいた人たちが残っている場所から声が聞こえる。
「鞘野絵美莉はいるか?」
しっかりと澄んだ声。女性の声だけれど、凛々しくてカッコいい声だった。彼女の声に反応して、まるでモーゼが海をかき分けた時のように人混みがサッと分かれた。見通しが良くなったおかげで声をかけてきた人物がよく見えた。どこかで見たことあるような気はするけれど、誰だか思い出せなかった。
「誰だろ」
「誰って、生徒会長じゃん! 新入生の挨拶してたし、イケメン高身長女子で有名だよ。女子からめちゃくちゃ人気だし」
「ああ、だから見たことあるのか」
我ながら本当に月乃様以外に興味がないな、と思う。月乃様が入学式の日に小鈴のために校舎を踏み潰そうとしたことや、体育館の外で喋っていたのははっきりと覚えているのに、生徒会長のことはぼんやりとしか覚えていない。
「でも、生徒会長が何の用だろ?」
「知らないよ。とりあえず、行ってきた方が良いんじゃない?」
「う、うん……」
クラスの子たちに見守られながらわたしは廊下に出て白嶺先輩と向き合った。
確かに背は高くてカッコいいけれど、多分170センチをちょっと超えてるくらいだから、月乃様の方がずっと背が高いな。先ほどまで巨大な子たちに囲まれていたせいで、もはやわたしたちみたいなサイズ感の人間たちの身長差20センチなんて誤差にしか思えなかった。
ジッとわたしのことを見下ろしている白嶺先輩がそっと私の頬に手を当てた。温かい手の感触がベットリとした月乃様のリップの上から触れていた。それを見て、クラスの女子たちのうちの白嶺先輩に好意を持っていそうなこたちのキャーキャーとした黄色い声が聞こえてきた。背が高くてクールな雰囲気だから、きっと同性からモテるんだろうな。
「可哀想に。あいつらにやられたのか?」
同情交じりの視線で見られるけれど、白嶺先輩の見当違いである。月乃様のリップがわたしの顔についていることについて言っているのだろうけれど、まったく可哀想じゃない。むしろリップが白嶺先輩の手に付着してるせいで顔から取れてしまったからその方が可哀想だ。
「別に心配しなくて良いですから」
白嶺先輩の手を退けるみたいにして払うと白嶺先輩は真面目な顔をした。
「とりあえずキミの事情が知りたいから生徒会室に来てもらえるかな?」
なるほど、事情聴取ってわけか。ちょっとめんどくさいかも。
「はいはーい」と適当な返事をしてから、白嶺先輩と一緒に生徒会室に向かったのだった。




