詩葉先輩の遊び道具 2
巨大ギャルに追いかけまわされている間にも外から聞こえてくる足音は近くなってきていた。
(誰か来てるんだ……!)
その人物が誰かわからないのだから、当然味方かどうかもわからないけれど、少なくとも巨大ギャルと部屋で2人きりになるよりもマシなはずである。その人物が味方であることを信じながら、巨大ギャルを飽きさせないように必死に走って逃げた。
そうこうしている間に、ドアノブが握られた音が聞こえた。そして、その音と同時に詩葉先輩の声が止まる。やはり彼女を止めてくれるのは彼女たちと同じように巨大な存在だったらしい。
「あ、ヤバッ」
今までわたしのことを弄んで、わざとギリギリ追いつかないようにしていた足はあっさり背中からわたしの身体を小突いてきた。フワフワとしたハイソックスの感触が全身を強く押す。
「ぎゃんっ」
みっともない声を出してしまった。激しい痛みとともにカーペットを転がされたときに、ようやく巨大ギャルに蹴飛ばされたことを理解した。まるで車にぶつかったときのような衝撃だったのに怪我をしていないのは床が柔らかいカーペットだったからなのか、巨大ギャルが小人の扱いに慣れているか、そのどちらかだったのだろうということは容易に想像がついた。器用にベッドの下に転がり込んでしまう。
巨大ギャルにとって、小さな人間を弄んでいたことがバレてしまうのは、不都合な事実なのだろう。そして、それを隠蔽することだって簡単にできる。わたしの身体を強引にベッドの下に入れてしまえば、それだけで姿は消されてしまう
「ねえ、詩葉。さっき月乃ちゃんの叫び声聞こえたけど、何か知らない?」
「いやいや~。あたしにわかるわけないじゃん。月乃ちゃんに直接聞いたほうが良いって。多分自室にいるし」
巨大ギャルが入ってきた女性のことを頑張って追い返そうとしていた。彼女がこの部屋にいてくれればわたしに意地悪をしてくる可能性も低くなりそうだから、できればずっとここにいて欲しいのに。
「月乃ちゃんを脅かせる人間なんて小鈴ちゃんか詩葉くらいしかいないけど、絶対小鈴ちゃんじゃないだろうし。じゃあ詩葉しかいないじゃん」
「え~、マジで心外! 人畜無害なあたしが何かするわけないじゃん。」
巨大ギャルがケラケラと笑っていた。すでにわたしのことを巨大な脚で追いかけまわして蹴飛ばした後だけれど、わたしから何かを言うことなんてできない。
「まあ、良いけどさ。あんまりあの子たちのことからかってちゃ可哀想だよ」
「え~、わたしは全世界の人間に対して慈悲深いよ」
「とりあえず、普通サイズの子たちに対しては慈悲なんてないでしょ……」
「お姫ちゃん先輩は今まで虫を潰したこととかないタイプなんだ」
「あのねぇ……。普通サイズの生徒の子たちのこと虫扱いするの倫理観終わってるからね?」
お姫ちゃん先輩という先輩が明らかに苛立っている声を聞いて、本能的に身体が震えてしまった。明らかにわたしたち普通サイズの生徒たちの味方の先輩ですら巨大なサイズで苛立っている様子を見ると恐怖を感じてしまう。ここに来てからずっと思っているけれど、巨大サイズの人間は遠くから見ていた時は比べ物にならないくらい絶対的な力を持っている。わたしたちには無い圧倒的な強い力を。
部屋に入ってきた巨大女子が呆れたようにため息をついてから去っていく。彼女がいなくなったら、また巨大ギャルが楽しそうな声を出した。
「さ、どこに隠れたのかなぁ」
お姫ちゃん先輩が消えてしまうと、さらに嗜虐的な笑みを浮かべながら、ベッドの下を覗き込んでくる。パッチリとした瞳に見られたら終わりである。わたしは慌てて太い柱のようになっている二段ベッドの脚に身を隠した。
「ね~、隠れてないで早く出てきてよぉ。小人ちゃんがうちの校舎にやってくることなんて滅多にないことなんだし、早く遊ばせてよね~」
お腹に響くみたいな大きな声だけで充分威嚇されている。隠れているけれど、きちんと掃除された何も落ちていないベッドの下だから、見つかるのは時間の問題だろう。
そうこうしている間に巨大な定規がこちらに伸びてくる。
「ま、どうせベッドの脚の裏側にでもいるんでしょ?」
「ひっ」
見られてこそいないけれど、完璧に位置はバレている。正確に言い当てられて、一気に冷や汗が噴出してきた。
(マズいマズいマズいマズいマズい……)
高速で地面を滑るようにして、わたしの身体に向かって勢いよく襲い掛かってくる。ぶつかってしまえばひざ下に激しい打撲を負いそうだし、下手したら骨が折れちゃうかも……。それにかなり勢いよく迫ってくるから、少なくともぶつかったらそのままどこかに吹っ飛ばされてしまいそうだ。
「や、やめてっ」
咄嗟にその場でジャンプをしたら、定規の上に飛び乗れたのは良かったけれど、そのまま定規がわたしを乗せて高速で移動する。わたしがジャンプして避けようとしたところまで見透かされていたのだろうか。だとしたら、あまりにも巨大ギャルは小さな人間たちで遊び慣れ過ぎている。そう考えてゾッとした。わたしを弄んでいるのは見た目は可愛らしい悪魔なのかもしれない。多分、普段から普通サイズの人間を嗜虐的に弄んでいる……
見事に上に乗ってしまったのは巨大ギャルの作戦通りだったのだろうな。いずれにしても、動く定規の上では何もできない。怖くて降りることもできなかった。
(このまま掴まったら、今度こそ踏み潰されちゃうんだ……)
泣きそうになっていたら、突然、腕を取られて、引っ張られる。
「え? 何?」
わけがわからなかったけれど、わたしの身体を抱き寄せるみたいにして、そっと支えてくれた存在がいる。よくわからない間に、わたしは巨大ギャルの動かしていた定規から降りることができて、今はベッドの下の床に立っていて、同じくらいの背丈の普通サイズの人間に身体を支えてもらっている。それだけが認識できる事実だった。




