詩葉先輩の遊び道具 1
〜登場人物〜
詩葉…普段は明るいギャルだけど普通サイズの人間に対してはサディスティック
咲姫…マイペースなクール美人。モデル
絵美莉…月乃に対してかなり強い憧れがある
〇〇〇絵美莉視点〇〇〇
「巨大な世界にようこそ」
しゃがんだ彼女がわたしのことを地面に適当に放り投げるように置かれた時点で、この巨女がわたしたち普通サイズの人間に対して好意的ではないことは容易に想像がついた。
地面に這うような体勢で、怯えるようにして彼女のことを見上げる。
「ああ……、やっぱりチビの怖がる顔見るのって最高だよねぇ……」
心底からの意地悪な嗤い。わたしの苦しむ反応を見て、楽しんでいる。
派手なブラウンカラーに染めた髪の毛をゆるふわに巻いたおしゃれな髪型。ぱっちりとしたカラコンに派手目なメイクをしたギャル風の可愛い見た目の詩葉先輩と呼ばれていた子。先ほど同じくらいのサイズの月乃様や小鈴とはしゃいでいるときに客観的に姿を見たはとても可愛らしい子に思えた。けれど、2人きりになって、つま先のすぐ前から見上げた瞬間、そのイメージは覆った。
怖い……
わたしのことを遥か上空から見下ろす視線が嗜虐心をしっかり含んでいるのがわかる。わたしのことなんてどうにでもできてしまいそうな人間に見下ろされていることに震え上がってしまいそうになった。なんとなく、ネズミを見つけたネコがそんな表情をしそうだって思った。
目の前で無意識のうちに動く足指の一本一本ですらわたしのことを簡単に押さえつけられてしまえそうなくらい巨大だった。まるで獲物に舌なめずりをする化け物みたいに見えた。
彼女の獲物を見下ろす嗜虐的な表情に耐えられなかった。圧倒的に巨大な彼女がこれからわたしにしてくることを想像して、反射的に逃げてしまった。慌てて立ち上がり、背を向けて走り出す。恐怖で高まる心拍数を抑えながら足を必死に動かした。
怖い、あまりにも怖い。
どれだけ走っても立ち上がった彼女の身体の影の中から出ることすらできない。先ほど小鈴に巨大な人間の怖さは嫌と言うほどわからされた。比較的無害そうな小鈴ですら、怒ったらあんなにも怖かったのだ。わたしは虫みたいに無力だった。
少なくとも、話は通じた小鈴ですらあんなにも怖かったのだ。この小さな人間を嬲ることに楽しみを見出してそうなヤバそうな巨大ギャルに目をつけられている状況が怖くないはずがない。もう逃げるしかなかった。
「へー、追いかけっこしたいんだ。あたし好きだよ、そういうの」
そう言ってわたしが逃げたすぐ真後ろにわざと大きな音を立てて足を踏み降ろす。必死に足を動かして走った距離が一瞬で詰められて、無力感を与えられてしまう。やっぱりこんな巨大な女子相手に逃げられるわけなんてないんだ……
そう思って諦めて巨大ギャルから逃げるのをやめて素直に従おうと思ったのに、それを許さないのは彼女の方だった。
「休んでちゃダメだよ。追いつかれたらあたしに虫みたいに踏み潰されちゃうんだから」
「え?」
足を止めたわたしのすぐ真上に黒いハイソックスを履いた巨大ギャルの足裏があった。そのままこちらに落ちてくる。
「ほらほら~、ズシーン」
可愛らしい効果音を自分の口から発しているけれど、実際の音はそんな可愛らしいものではなかった。彼女がわざと大きな音が出るように勢いよく足を床に叩きつけたから、激しい音と振動に襲われた。小さなわたしはその揺れに耐えられなくて、あっけなく転んでしまったのだった。
すでに戦意喪失しているわたしのことも許してはくれない。むしろ、わたしに無力感を与えてさらに楽しんでいるようにも見えた。自身の圧倒的なサイズ的な有利さを思う存分利用して、小さな人間を追い詰めていることに快楽を感じているんだ。それに気づいてゾッとした。この巨大ギャルはわたしの想像以上にヤバい人なんだ!
「あははっ、早く逃げなって〜。でっかくて意地悪な女の子にに踏み潰されちゃうよ~」
ズンっと足を踏み下ろしてくる位置は、正確にわたしのすぐ後ろ。そこに意図的に地面を揺らそうとして、思いっきり足を勢いよく踏みつけてくるのだ。
ほんの少しでも場所がズレてしまえばぺちゃんこになってしまう恐怖を彼女はわかっているのだろうか。いや、わかるわけがないか。圧倒的強者でありこの場の絶対的な支配者である彼女に小さな人間の気持ちがわかるはずがない。彼女にわたしの生殺与奪を握られていることを実感してしまう。
怖い……
巨大な存在がわたしのことを弄んでいる。恐怖の鬼ごっこから早く降りてしまいたいけれど、その主導権はすべて巨大ギャルが握っている。彼女が飽きるまでわたしは何もできない。ただ必死に逃げて、惨めな姿を見せて、彼女を楽しませることで生き延びることしかできないのだ。
「月乃様、助けて……」
誰にも聞こえない声が虚しく宙に消えた。ここにいない月乃様に思わず助けを求めてしまった。あの日助けてもらってから、困った時のわたしの口癖になっていた。月乃様なら何とかしてくれるんだって思うようになってしまった。たった一度助けてもらっただけなのに、わたしにとって可愛い女神様になっていた。
わたしみたいな無力な小さな人間は巨大ギャルには敵わない。わたしを助けてくれることができる人物がいるとしたら、もっと大きな存在だ。そして、廊下から巨大な足音が近づいて来ていることを確かに感知できていた。




