小鈴ちゃんを探ろう 4
暫くの間小鈴ちゃんとじゃれ合っていた詩葉先輩がホッとしたように小さく息を吐きだした。
「ま、これで小鈴ちゃんも元気になったっぽいし、あたしは部屋に戻るね~」
突然、思い立ったみたいに部屋に戻ると宣言した詩葉先輩。
どこか満足気な笑みを見せているのはきっと小鈴ちゃんが元気になってくれたからだろう。小鈴ちゃんが元気になってくれたからわたしも特に止める理由もない。詩葉先輩が一緒に着いてきてくれたおかげで小鈴ちゃんが早く元気になってくれて良かったな。
「ありがとうございました」
と簡単にお礼を伝えてから、詩葉先輩に軽く手を振って見送った。詩葉先輩は心なしか足取り軽く、スキップでもするみたいに去っていった。
「なんだかご機嫌みたいだね」
詩葉先輩のことを見送ったものの、小鈴ちゃんは2人きりになったら、また元気がなくなってしまった。詩葉先輩がいた時の方が楽しそうだったな、と思って不安になる。
「わたしと一緒にいるの嫌だった?」
実は小鈴ちゃんはわたしといるのは気まずいと思っているのだろうか。
「そんなわけないじゃない」
小鈴ちゃんが少し苛立ったように言った。なんだか泣きそうな声を出しているから不安になる。
「ねえ、何かあったの?」
小鈴ちゃんは少し悩んでから、諦めたように上目遣いでこちらに伝えてくる。
「言えないわよ。月乃に嫌われたくないし」
「わたしが嫌いそうなこと……。わたしの枕の下に虫を隠したとか?」
「いや、わたしたちのサイズでそんな小さなもの触れるわけないでしょ……。ここ数年虫なんてみてもないわよ」
「ああ、そっか……。そもそも普通サイズの人間が虫みたいなもんだもんね」
「なんか普通サイズの人のことを虫扱いしてるみたいであんまり賛同できない例えなんだけど……」
そう言ってから、小鈴ちゃんが思い出したみたいにため息をついて俯いた。何かに憂いている小鈴ちゃんはとても可愛らしくて、いつまでも見たくなってしまう。……って、ダメだよね。小鈴ちゃんに元気になってもらいたいのに。
「ねえ、小鈴ちゃん。わたしは小鈴ちゃんのこと大切な友達だと思ってるよ」
「いきなり何よ?」
呆れたような表情でこちらを見てくるから、そのままわたしは思い切って抱き着いてみた。不安げな小鈴ちゃんを抱きしめて見たら、いつも以上に小さく感じられる。本当は身長43メートルなのに。
その瞬間、小鈴ちゃんがビックリしたような声を出した。
「ひゃっ、ひゃうっ……」
せっかく抱き着いてみたのに、小鈴ちゃんが慌ててわたしの体を引き離した。
「詩葉先輩の時は楽しそうにしてたのに」
ジトッとした視線を向けたら、小鈴ちゃんは慌てながら必死に答える。
「だ、だって、その、月乃は……、わたしにとって……」
なんだか歯切れが悪いし、わたしのこと苦手なのかも。
「やっぱりわたしのこと嫌いなんじゃないの?」
「ち、違うから。ただ、その……」
小鈴ちゃんが視線を逸らしていた。それ以上は何も言ってくれなかったし、何か事情がありそうだったから、不用意には尋ねられなかった。それから小さく息を吐いた。
「わたしが月乃のこと嫌いになるわけないでしょ。だって、月乃はわたしにとって……」
ゴニョゴニョと小さな声で言った言葉が聞こえなくて、わたしは小鈴ちゃんの口元に耳を近づけたら、小鈴ちゃんが飛び退くみたいにして後ろに跳ねた。
「えぇっ、わたしが顔近づけたら避けるってことは、やっぱりわたしのこと嫌いだよね?」
「だ、だから、違うってばーーー!!!」
「えー、じゃあ、なんで」
しつこく聞こうとしたら、小鈴ちゃんが話を逸らす。
「だいたい、今そんな話してないでしょ? 大事な話打ち明けようとしてるのに話を脇道に逸らさないでよね!」
「ああ、そういえばそうだったね。ごめんね」
うんうん、と頷いてから小鈴ちゃんの方を改めて見たけれど、小鈴ちゃんは俯いた。話しを戻すたびに元気がなくなってしまう。
「月乃に軽蔑されそうなこと言って良い?」
「やだなぁ、わたしは小鈴ちゃんの味方だよ。軽蔑なんてしないってば」
笑いかけても、小鈴ちゃんは真面目な顔でこちらをジッと見つめてくるだけだった。
「ほんとに?」
「ほ、ほんとだって」
緊張感たっぷりでこちらを見てくるせいで、わたしまで緊張してしまう。不安げにジッと下からわたしの顔を覗き込みながら、ゴクリと唾を飲みこんだ音がきこえてきた。一体何を心配しているのだろうか。
「何があっても騒がないでね」
「騒がないよ」
「あ、あのね……」
うんうん、と頷いて続きを促した。静かに呼吸を繰り返してから、小鈴ちゃんが思い切って話しだした。
「わたし、普通サイズの子、連れてきて引き出しに閉じ込めちゃってるの……」
「えええええええええええ」
「ちょ、月乃!!」
小鈴ちゃんの手がわたしの口を塞いできた。室内に響く声を出してしまったけれど、さすがにそんなことを打ち明けられて無反応でいられるわけがない。
「さ、騒がないって約束したじゃん!」
「だ、だってええええ!!」
「ちょ、ほんとに騒がないでって」
小鈴ちゃんがほとんど手を押し込むみたいにしてわたしの口の中に突っ込んでくる。
「んぐっ、んぐぐっ」
小鈴ちゃんの手がわたしの唾液でベタベタになってしまう。申し訳ないからさっさと手を口から離してほしい。
「静かにしてくれる?」
うん、うんっと必死に頷いた。手が退かされてプハッと軽く息を吐きだした。
「つ、連れてきて閉じ込めたってどういうこと??」
できるだけ冷静に尋ねようとしたのに、普段より声は大きくなってしまっていた。
「さっきわたしたちのことを撮った子がバズらせ目的で写真拡散しちゃうんじゃないかって思って心配になって……」
小鈴ちゃんは自分が大きいことがバレるのを心配してたし気持ちはわからないではなかったけど……。
「さすがに、閉じ込めちゃうのはマズいよ」
「うぅ……。そうよね。まさか月乃に正論言われるとは思わなかったけど」
「えー、それじゃあわたしがいつも変なことばっかり言ってるみたいじゃないのよ」
「その通りだと思うけど」
小鈴ちゃんに困ったような声を出されてしまう。わたしって自分が思っているより変なことばかり言ってるのだろうか。
「って、そんなこと言ってる場合じゃないよね! その子はどこにいるの?」
「あ、そうだった!!」
小鈴ちゃんが慌てて机の引き出しに手をかける。
「ご、ごめんなさい! 今出すか、ら……?」
開けて中を見た小鈴ちゃんの表情も動きも、時間でも止められたみたいに固まってしまった。
「こ、小鈴ちゃん……?」
慌てて小鈴ちゃんが開けた場所はさっき詩葉先輩が開けて何もないことを確認していた引き出しの中だった。
「確かにここにいれてたのよ……」
開けた瞬間小鈴ちゃんの不安そうな声が聞こえてきた。
「ど、どうしよう……。いないわ……」
そう言って小鈴ちゃんはわたしの方を不安気に見つめてくる。
「絶対ここに入れてたのに、いなくなっちゃったわ」
「困ったね……」
引き出しの中をくまなく探しても、やっぱりどこにもいない。わたしたちの視界からなら物が入っていない引き出しの中にいる少女なんて一瞬でわかりそうなのに。
「おーい、どこにいるのー?」
名前も見た目も知らない少女のことを必死に探したけれど、引き出しの中にそれらしき姿はない。
「床に落ちて踏んじゃったとかじゃないよね」
「怖いこと言わないでよ!!」
わたしは一応自分の足の方を見たけれど、別に何かを踏んだ跡とかはなさそう。
「カーペットにも赤い模様とかないもんね」
「だ、だから怖いこと言わないでって!」
小鈴ちゃんが泣きそうな顔でわたしのことを睨んできた。
「だ、大丈夫かな……」
小鈴ちゃんは終始不安そうな表情をしている。
「うーん……。でも、さっき詩葉先輩がここ見てた時も何もなかったし」
「詩葉先輩……?」
小鈴ちゃんが不安そうな声でポツリと呟いた。
「そう、詩葉先輩。さっき小鈴ちゃんがいない間にこっそり引き出し見させてもらったんだけど、何も無いって言ってたよ」
「ねえ、詩葉先輩が持っていっちゃたことない?」
「何のために?」
「わかんないけど、でもそれしか考えられないじゃない!」
「うーん……」
確かに、小鈴ちゃんが確実に引き出しの中に入れていたと言うのなら、誰かが持ち出した可能性も高そう。
「とりあえず、詩葉先輩の部屋に行ってみようか」
「そうね!」
わたしは不安そうに腕を掴んでくる小鈴ちゃんと一緒に詩葉先輩の部屋へと向かったのだった。




